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松方弘樹さん、漁師以上の漁師根性 マグロ保護の思い

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NIKKEI STYLE

今月21日、74歳で亡くなった俳優の松方弘樹さんは釣り人としても一流だった。1980年代にカジキ釣りで一躍釣り人としての名声を高め、90年代からは巨大クロマグロとの格闘に熱中した。研究熱心で用意周到。闘病生活に入る前も日本の海で400キログラム級のクロマグロを一本釣りする夢を抱いていた。3年は待つことを覚悟の上で釣り道具の手配も始めていた。自他ともに認める「釣りバカ」の1人として、乱獲やマナー違反で海が荒れることに心をいため、激減したクロマグロ資源保護への熱い思いも語っていた。

カリスマ船頭と釣りキチ、2人の師匠

松方さんにはマグロ釣りの師匠が2人いた。ひとりは自身が3位入賞を果たした1993年の米ボストン・ツナ・トーナメントに同行した遠洋はえ縄漁船の元船頭、山田重太郎さん。もう一人は、90年代初頭から山口県萩市の離島、見島周辺をクロマグロの釣り漁場として開拓した釣り人、佐々木敦司さん。いずれも故人となったがこの分野の有名人だ。

山田さんは、神奈川県・三崎漁港(三浦市)の遠洋マグロはえ縄漁船「68正幸丸」漁労長として、80年にメキシコ沖に出漁。半年間で400トン以上のクロマグロを獲るという記録を打ち立てたことで知られる。船を浮き漁礁に見立て、マグロを餌付けし、船に寄せ付ける独特の漁法(学習漁法)を編み出し、その漁法の普及にもつとめていた。

ボストンでの大会前に、松方さんは大型はえ縄漁船と小型の釣り船という違いを乗り越えて、その「山田理論」を日本海で実践し、65キログラム前後のクロマグロを8尾釣っていた。自分なりに学習漁法の効果を確認したうえで、引退して三浦市に住んでいた山田さんを訪ねて、アドバイザーとして船に招いたのだ。そして2人は約1千隻が参加したボストンでも学習漁法に挑み、体重350キログラムのクロマグロを仕留め、3位の成績を収めた。

「しょせんアマと思っていた。しかし、結果は私の早合点だった。松方さんは漁師以上の漁師根性を持った人だった。魚を釣る情熱は、誰にも負けないものがあった」。伝説的な大船頭として、戦後の日本の遠洋漁業史に名を残す山田さんは著書「私と海とまぐろの記録」(94年)で松方さんについてそう記している。

見島トーナメント連続優勝の陰で

「山口・見島沖の八里ケ瀬では、クロマグロの産卵の現場も見ました。極端な話、海がナマ臭いです。泡がたって、真っ白になってね。北海道・松前の白神でも見ました。あんなところでも産卵していたんですね」。15年9月のある日、筆者は都内で松方さんに会って、日本のクロマグロ資源管理について意見を聞いたことがある。八里ケ瀬は地元の漁師たちが大切に守ってきた天然の漁礁だ。四半世紀前、松方さんがもう1人の師匠、佐々木さんからマグロ釣りの手ほどきを受けたころの日本海の資源状態はまだ良好で、八里ケ瀬はじめ日本各地でクロマグロの産卵光景に出くわすのは珍しいことではなかったようだ。

山口県宇部市在住だった佐々木さんはもともと漁船やプレジャーボート販売、マリーナ運営も手掛ける会社の役員ながら、趣味が高じてプロのマグロ漁師に転身した釣りキチ。拠点とした見島や長崎県の壱岐の若い漁師たちにリールで巨大クロマグロを釣る方法を伝授し、離島の漁業再生の救世主として慕われていた。

松方さんも萩市主催のクロマグロトーナメントで08年、09年に連続して300キログラム台の巨大マグロを釣って優勝し、青森・北海道間の津軽海峡に比べて知る人も少なかった日本海西部のクロマグロ一本釣りの評判を高めるのに貢献した。

しかし、松方さんの連続優勝以降、見島のマグロ漁は衰退を続ける。松方さんも12年の3度目の優勝記録が8キログラム台の幼魚だったことを契機にトーナメントへの参加をやめた。14年から16年までは主催者の萩市が大会の開催自体を中止している。釣れたマグロの大きさを競う大会なのに「100キロ級の大きなクロマグロが釣れない状況が続いている」(下英樹農林水産部次長)。漁場が枯れて、開くに開けないのだ。

マグロ界にも少子高齢化現象?

佐々木さんはクロマグロが釣れなくなった原因究明のため、釣りそっちのけで国内外の研究者と面会を重ねた。資源研究者の分析では、まき網漁船が大量に漁獲することが影響しているといわれ、環境保護団体とも連携してクロマグロ漁の抑制、産卵期の禁漁などを要望。民主党政権で農相に就任した山田正彦代議士(当時)らを動かして、まき網漁船による小型魚の漁獲抑制に始まるクロマグロ資源管理の枠組み作りに大きな役割を果たした。

松方さんが大型魚を釣って優勝した頃、見島でも何年間か、大型魚がよく釣れた。

「マグロもサーモンと同じで産卵しないと戻ってきませんから、大型魚ばかりが出始めるようになったころから『いまにこの漁場は枯れるぞ、砂漠になってしまうぞ』と言っていました。案の定、彼が心配した通りになりました」

松方さんはそう振り返った。

大きいマグロが釣れればみな喜ぶが、産卵が減ってマグロの世界の少子高齢化が進んでいるとしたら、やがて資源が消える。一度の産卵で大量の仔魚を作り出すクロマグロの場合、人間界と同じような人口の逆ピラミッド現象は簡単には生じないはずだが、海の中の資源構成、食物連鎖は複雑で釣り人の実感もむやみに退けるわけにはいかないだろう。

松方さんはこうも言っていた。

「釣りを続けていると、海の変化がわかる。海の中もわかります。マグロも小魚を追う食物連鎖の中にある。魚を止めるために沖縄なんかではパヤオ(浮き漁礁)を作っていますが、自然の漁礁も荒れすぎると、エサも寄ってこなくなります」

「見島は魚が通り過ぎていく場所になった。八里ケ瀬が荒らされてから、特にまき網漁船に荒らされてからダメになりました」

まき網対策必要、漁師もモラル向上を

資源悪化の責任はだれにあるのだろう。そう問うてみたところ、松方さんはすかさず「政治家でしょう」と答えた。

「怒られちゃうけど、票田と資金源ですからね。大きなまき網漁船は作るのに20億円もかかる。地元選出の先生たちには規制できないのが現状でしょう」

同時に、漁師や趣味の釣り人たちの行状にも苦言を呈した。「まき餌をし過ぎると、海底に土がべったりたまって、海藻も育たなくなる。ゴミを捨てたり、たばこをポイ捨てしたり。もっと漁場を大事にしなければいけません」

漁業資源の保護を巡っては、南西諸島や日本海にあるクロマグロ産卵場に入り込んでいる台湾や中国、韓国の大型漁船に対する監視、規制など必要なことは山ほどある。

その中で、松方さんは自分が率先してできることとして、「荒れている磯を手入れして、豊かな海を取り戻すこと」だと語っていた。例えば、若いマグロ漁師が多い長崎県の壱岐や対馬。2つの島の間には七里ケ曽根という広大な天然漁礁が横たわっている。昨年3月に発行された著書「松方弘樹の世界を釣った日々」(宝島社)では、子どもの頃、東京・荒川で釣りに目覚めて以来60年以上に及ぶ長い釣り人生を回想しつつ、豊かな海を作り直すためのマグロ基金作りを提唱した。筆者のインタビューでも「漁協や若い漁師さんにも協力してもらって、宝の山が砂漠にならないように今から手を入れて、魚が住み着きやすい瀬にしてやらないと」と語っていた。

400キログラムのマグロを釣る夢

「カジキは428キログラムを釣ったことがあります。しかし、クロマグロはパワーが10倍違う。カジキの竿だと折れますからね。ライン(釣り糸)も確実に切られてしまう」

針にかけたことはあるが、逃げられた。いまだ釣り上げたことのない400キログラム台の巨大マグロを釣ることが最後の夢だった。「ドイツ製のモーターを使って、リールの開発を一から取り組んでもらっています。開発に3年くらいかかるでしょうね」

豪華なボートよりも漁師の船を借り上げて釣りに出ることを好んだ。漁師たちもそんな松方さんが大好きだった。

幻の魚、珍しい魚、巨大な魚を追って、日本国内はもとより世界中を旅して歩いた松方さんは思い半ばにして旅立った。しかし、真摯に、そして無邪気に海を、魚を愛した松方さんの薫陶を受けた若い漁師や釣り人がその夢を継承してくれることだろう。

(日経グローカル主任研究員 樫原弘志)

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