がん・認知症完治、ライフワークに 鈴木蘭美さん
エーザイ執行役(キャリアの扉)
「私はがんを完治するために生まれてきた」。こう確信したのは、英国の大学の学生のころ。友人が2人、がんを患い1人が亡くなった。専攻を医学に変え、ロンドンの大学で乳がんを研究し博士号を取得した。
大学院修了後、ロンドンのベンチャーキャピタルに就職。がんの研究者は自分以外にも多くいるだけに、「完治には革新的なアプローチが必要」という思いを強め、新薬開発のベンチャーを支援する投資に携わった。
だが、投資の実務をこなすなかで課題に直面。新薬の開発には時間がかかり、10~15年かかることもざらだ。一方、ベンチャーキャピタルの投資期間は7~10年程度。資金の回収を急ぐために、患者の利益と相反する要望をベンチャーに出すこともある。「患者に薬が届くところまでしっかり見届けたい」との思いからエーザイに転職した。
アルツハイマー型認知症の治療薬では、自らが旗振り役となって米バイオジェン・アイデックと共同開発を推し進めた。認知症は患者の人格に大きく影響し、家族にも負担がかかる病。開発が成功すれば社会に与える影響は大きい。
2016年に執行役に就任。現在は、海外企業との事業提携や共同研究などを手掛ける。月の3分の1は海外に出張。がんの治療薬だけではなく、認知症や希少疾患の薬など、医学の進展で以前は治療法の乏しかった病にも対処できるようになりつつある。自身のライフワークと定めたがんの完治や認知症の治療は、「途方もない夢」ではなくなりつつある。
自宅は軽井沢にあり、北陸新幹線で2時間近くかけて通勤する。大学時代に知り合った英国人の夫との間にもうけた3人の息子を育てる。エーザイの欧州子会社から日本の親会社に移る際、科学者だった夫は日本への移住を機に、主夫に専念すると決めた。育児をしながら仕事をする身として「親は完璧でなければ」と必要以上に気負いがち。罪悪感を持つ時もあるが、今は肩の力が抜け「いいかげんでもいいのではないか」と感じる。
「真摯に取り組めばどんな形であれ、想像をはるかに超えて開花する」。信念が実を結ぶ日は遠くない。
(山本紗世)
〔日本経済新聞朝刊2017年1月28日付〕
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