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トランプ時代は不透明 投資は原点に返る(藤野英人) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者

2017/1/24

米国の第45代大統領として就任演説するトランプ氏(1月20日、ワシントン)=ロイター

「トランプ米新大統領の就任演説では高い教養や人格的な高潔さを見いだすことはできなかった」

 トランプ氏が米国の第45代大統領に就任しました。首都ワシントンでの就任演説を聞きましたが、選挙期間中と変わらないトランプ氏がいました。

 「米国第一」を掲げるトランプ氏の外交・安全保障政策を貫くのは、米国の実利を追求するビジネス流の考え方。そこからは高い教養も人格的な高潔さも見いだすことができませんでした。

 おそらくそれは大統領になるという目的においては必要がなかったのかもしれません。しかし、その地位に長くとどまるためには高い教養や歴史観、高潔なる人格を持つことが不可欠であるように思えます。

 私は政治の門外漢ではありますが、仕事柄ベンチャー企業など多くの経営者にお会いしてきました。トランプ氏はビジネスマンでもあるので今回はそうした観点から意見を述べてみたいと思います。

■ベンチャーにもトランプ氏のような経営者

 経営者の中には劇的に成功された方もいらっしゃいます。しかし、成功したのは最初だけで、会社を破綻させた方もたくさん見ました。

 下品で無教養な人だから成功をしないということはありません。むしろ、暴言や突拍子もない行動で世間の注目を浴び、時代の寵児(ちょうじ)になり、短期間に成功することはよくあることです。品行方正な人間性豊かな起業家というのはあまり見たことがなく、世間の規範から外れているような人が多いような気がします。

 それはそうでしょう。ベンチャーの世界では起業して3年間で倒産もしくは廃業する確率が7割。10年間で生き残る可能性はだいたい1割とされています。会社を興す人は確率的に不利なことをあえて挑戦する人たちなので、優等生のような人は少ないと思います。

 取引所に株式上場した経営者はとてもユニークだし、個性的であることが多く、トランプ氏のような方がたくさんいます。しかし、上場した後、成功し続ける人は少数派です。いわゆる上場がゴールになる人が多く、上場後に困難に直面するからです。

 上場まで成功した人は例外なくリスクを取って挑戦したことが報われた人たちです。おおむね自信家で、自分のことは運がいいと思っています。そういう人は上場すると必ずアクセルを踏みます。今までアクセルとブレーキの選択肢があると、アクセルを踏んだほうが成功をしているので、ほぼ何かがあるとアクセルをベタ踏みする人が多いのです。その場合、多くは失敗します。

 失敗のあと、反省し、修正し、そして立派な経営者になって会社を安定成長の軌道に乗せる人もいます。経営者の中には多くの歴史の本を読むなどして、過去に学び、独自の経営哲学をお持ちの方もいらっしゃいます。人生訓にも通じるものがあり、聞いていて感心することがたびたびあります。

■長期で成功するのは「人格者」

 つまり、短期的な成功には無教養であったり、人格者でなかったりしても可能ですが、長期的な成功を維持するためには、教養が必要であるし、人格者である必要があります。トランプ氏にも同じことがいえると思います。トランプ氏は不動産会社の経営者として過去に4度破産したようですが、失敗から学んで人間的に成長したのかどうか。

 個人的な意見ですが、トランプ氏は今のままなら、大統領の任期は4年で終わってしまうでしょう。場合によっては4年も持たないかもしれません。

 民主主義の守護者としての米国を愛していた、英国首相のチャーチルは「米国は常に正しい選択をする。他のあらゆる選択肢を試した後にではあるが」との言葉を残しました。昔も今も先の読めない長い戦いゆえ、光が見えるまでに米国は様々な試行錯誤を繰り返すと思います。

 今回が正しい選択の方だったか、正しい選択をする前のトライアルであったのかは今後の結果で示されるでしょう。しかし、閣僚の人事を見る限り、ちまたで期待されているニクソンやレーガンの再来ではないような気がします。

 私は投資家として、トランプ大統領には期待できないと判断しているので、米国経済や世界のマクロ経済がどのような状態であっても独自で成長できるような会社を選択して投資することが安全な方策であると考えています。米国第一で米国の輸出企業が国内に戻ることになっても、それによるメリットとデメリットを考えると、コスト高などのデメリットのほうが上回りそうです。こうした先行き不透明な時代こそ、投資の原点に返り、企業の本来的な価値を継続的に高めることができる会社に投資すべきです。

 もちろん米国の政治は奥が深く、人材の厚みもあり、共和党とトランプ氏が蜜月というわけでもないので、今後共和党の幹部や長老が歯止め役をするかもしれません。また、新大統領とメディアとの関係もよくないので、メディアのチェック機能も働きやすくなるという可能性もあります。

 日本にとっても、世界にとっても困難な船出になりそうですが、そのような中でも過度に悲観に傾くことなく、明るい未来を探していこうと思っています。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏と楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏が交代で執筆します。

藤野 英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)。1966年生まれ。早稲田大学法学部卒。90年野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。96年ジャーディンフレミング投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)に入社。「JF中小型オープン」は1年間の上昇率219%を記録。驚異的なパフォーマンスを上げ、「カリスマファンドマネジャー」と呼ばれた。2000年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに入社。03年レオス・キャピタルワークス創業。CIOに就任。09年取締役、15年10月社長就任。明治大学非常勤講師なども務める。著書に「投資家が『お金』よりも大切にしていること」(星海社)など多数。

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