変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

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ジャック・ウェルチ氏といえば、希代のカリスマ経営者だ。1980~90年代にゼネラル・エレクトリック(GE)の最高経営責任者(CEO)としてその手腕を発揮し、その後もプライベート・エクイティ・ファンドのパートナーとして活躍するとともに精力的に講演活動を続けている。そんなウェルチ氏が妻のスージー氏と共著で刊行したビジネス指南書が『ジャック・ウェルチの「リアルライフMBA」』(日本経済新聞出版社)だ。ビジネスに勝ち残るための教えを13章にわたって書き込んだ本書の中から第1章を6回に分けて紹介しよう。2回目は行動の一貫性の原動力となるミッションについて語る。

◇  ◇  ◇

行動の一貫性

どの業界でも一貫性は変革力を発揮するが、プライベート・エクイティ(PE)の世界ほど、素晴らしい実例が溢(あふ)れているところはない。考えてほしい。その業務の性格上、PEが興味を持つビジネスは、何であれ、過小評価されているものだ。リーダーシップが欠如していた、市場の変化に巻き込まれた、継承計画を持たない同族会社、成功を収めている親会社から無視され孤立させられてきた企業の一部門などがあげられる。どのケースでも、組織は混乱して何がなんだかわからなくなっている。

さて、PEがたまたま運よく隠れた宝石を見出し、磨き上げ、短期間で売却して大きな利益を得ることもある。あるいは、投資家の要求する収益率を満足させるために優良企業を手放す他のPEから買い取ることもある。だが、こういったことが起きるのは多くない。多くの場合、PEは厳しい状況にある会社を取得して、優れたリーダーを探し出す大変な仕事に乗り出す。CEOの最初のもっとも重要な仕事は、不可避的に、一貫性をとらせることになる。

一例としてオランダのコングロマリット、VNUを取り上げよう。

2006年ごろ、VNUは驚異的とはとても言えないが、まあまあの業績を10年間あげていた。年次報告書で、CEOロブ・ファンデルベルグは、VNUはハリウッド・リポーター誌や視聴率調査のニールセンなどを傘下に持ち、「健全」な状況であると満足感を示した。だが、PEは同社が機会を十分に捕捉していないと見た。6つの会社でコンソーシアムを結成して急襲し、VNUを120億ドルで買収。老練の経営者、デイブ・カルホーンをCEOに据えた。

45歳でゼネラル・エレクトリック(GE)の副会長に就任するという輝かしいキャリアを持つデイブは、多数の大型事業の経営経験がある。だが、泥沼状態のブランド群や製品群を扱ったことはなかった。「私が入社したとき、会社のミッションは『市場情報のリーダーとなる』というものだった」とデイブは振り返る。「聞こえはよいのだが、つまり『自分の守備範囲の中で自分のことをしろ』ということだった。会社全体で共有する意義というものがなかった」

デイブと彼の率いるチームは、すぐさまそれを変えようと乗り出した。VNUという社名を捨て、ニールセンに改めた。そして、新生ニールセンは、消費者が何を視聴し、何を購入したかを調査計測する、それが唯一の目的であるとした。ニールセンは世界中の消費者の視聴習慣と購買習慣を知る世界最高の会社になるのだ。

エキサイティングじゃないか?

優れたミッションというのはそういうものだ。憧れの気持ちを持たせ、やる気を刺激しつつ、実践的だ。

憧れの気持ちというのは、「わあ、素晴らしい。やってみて、成功させてみたい」という気持ちだ。

やる気を刺激するというのは、「すごい。頑張ってやればできるはずだ」という気持ちだ。

実践的というのは、「まあ妥当だな。チームの仲間とやり遂げよう」という気持ちだ。

これが重要なのだ。しっかりと練り上げられたミッションは、それが社員一人ひとりに対してどういう意味を持つかを伝えることができる、と述べたことを覚えているだろうか? ニールセンはその挑戦をうまくこなしている。製品とサービスを成長させ、グローバルに成長することを約束し、それに伴って生まれるキャリアの機会を約束した。

迅速にミッションを作り上げたわかりやすい例としてナルコがあげられる。同社は多角化した事業会社で、2007年にPEに買収された。オーナーとなったPEは、2008年にエリック・ファーワルドをCEOに据えた。彼が引き継いだ会社は、社員1万2000人、売上40億ドル、強固なキャッシュフロー、ごくわずかな成長、「私たちは水のビジネスを扱う。いい会社だ」といったミッションを持つ企業だった。

エリックは就任当初の90日間にナルコの事業部門を訪問し、顧客に会った。そして会社にとって決定的に重要なもの、それによって変化を巻き起こし、競争優位を作り出せる決め手は何だろうかと探した。

嬉しい驚きだったのは、さかのぼること6年前にナルコが開発した3Dトレーサーと呼ばれる水質を最適化するシステムが、その決め手だということだった。すでに4000機がリースされていた。顧客は大満足をしていて、ナルコの製品が水利用量を減らし、環境保護庁の罰金を回避するのにいかに役立っているかをエリックに熱を入れて語った。

エリックは首脳部にこのニュースを持ち帰り、3Dトレーサーの将来性に元気づけられ、これから2年間に2万機をリースするという目標を掲げることとした。その高い目標は、組織全体を奮い立たせた。研究開発部は重点的に機能改善を行い、26の特許を取得して、顧客のニーズを満足させるとともにライバル企業がなかなか真似できないようにした。営業部は新たな研修制度、目標、インセンティブを導入した。同時に3Dトレーサー・サービスセンターをインドに新設し、40人のエンジニアが「水質ドクター」として世界中の3Dトレーサーを監視し、問題を顧客が気づくより前に把握して解決できるようにした。

そして会社の新たなミッションが生まれた。「私たちはナルコの顧客にきれいな水をお届けし、顧客の経済的繁栄をもたらし、世界の環境を維持します」

このミッションでナルコ社員は奮い立ったのだろうか? 2年間に2万機という目標は達成できたのだろうか? 答えはイエスだ。

「たちまち社員が毎日出社する目的を理解するようになった」とエリックは言う。「社員は世界の環境を守りつつ、顧客の成功を手助けしようと張り切った。自分たちの未来をそこに見出した。信じられないくらい、素晴らしいアイデアがあちこちから生まれてくるようになった」

それがミッションの素晴らしい点だ。すべての人が焦点を一つに合わせ、燃え上がる。 そのとき、行動が重要になる。

とっても重要になる。

(斎藤聖美訳)

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