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ジャック・ウェルチ氏といえば、希代のカリスマ経営者だ。1980~90年代にゼネラル・エレクトリック(GE)の最高経営責任者(CEO)としてその手腕を発揮し、その後もプライベート・エクイティ・ファンドのパートナーとして活躍するとともに精力的に講演活動を続けている。そんなウェルチ氏が妻のスージー氏と共著で刊行したビジネス指南書が『ジャック・ウェルチの「リアルライフMBA」』(日本経済新聞出版社)だ。ビジネスに勝ち残るための教えを13章にわたって書き込んだ本書の中から第1章を6回に分けて紹介しよう。3回目はミッションを果たしていくための行動についてだ。

◇  ◇  ◇

ミッションが会社の目標であるなら、行動は、そこにたどりつく手段、「交通手段」だ。

目標と手段の関係性がおかしい例が多いことはよく知られている。たとえば、顧客重視をミッションで強調している会社なのに、現場の社員は顧客を毛嫌いしているということがよくある。いや、毛嫌いというのは言い過ぎかもしれない。社員のやりたいこと、たとえば5時には家に帰りたいのにその邪魔になるので顧客を軽視するというほうが正しいかもしれない。ミッションでは製品投入の速さを誇らしげにうたっているのに、管理職が官僚主義にじっと耐えているという会社もある。また、ミッションでイノベーションの実現を大々的に掲げているのに、経営陣はリスクをとって失敗した人材を降格させたり解雇したりしているというケースもある。

それは、まずい。

ミッションと行動の関係がぷつんと切れることなく一貫性がとれているのが望ましい。顧客重視をうたう会社なら、他人の気持ち・感情を理解しようという気持ちが社員の間に溢れている。携帯番号を顧客に教え、勤務時間外でも連絡がとれるようにする。サービスが悪いという苦情を自分のこととして受け止める。できるのであれば、すべての製品を自宅に持ち帰り、完璧に機能しているかどうか試してみたいと思う。

誇張しすぎているかもしれないが、何を言いたいか理解してもらえただろう。ミッションと行動は一つの線でつながっていなければならない。

以前に私たちが書いた本やコラムを読んだことのある読者であれば、なぜ「バリュー」ではなく「行動」という言葉を使うのだろうと不思議に思っているかもしれない。私たちは10年ほど同様の意味で「バリュー」という言葉を使ってきた。「バリュー」は私たちのお気に入りの言葉だと思っていたかもしれない。

たしかにそうだった。しかし、「バリュー」は混乱を招くことがわかった。抽象的に過ぎる。「バリュー」というと、家族観などのような政治や文化について語っていると思われることが多い。

いや、そうではないのだ。

単純に、人が職場でどう「行動」し、彼らの「行動」が会社のミッションにどのように命を吹き込むかという意味で使っている。そこで、「行動」にしたという次第だ。

目下のトピックに戻ろう。リーダーが職場で「行動」について語る唯一の理由は、会社のミッションを達成するためにはどのような行動が必要とされるかを伝えるためだ。リーダーはオープンに、きわめて明快に、一貫性を強く持って語らなければならない。

ニールセンの話に戻ろう。デイブ・カルホーンはニールセンの新たなミッションを発表した直後に、その実現のための3つの行動を発表した。第一は、心を開くこと。

それは、控えめに言っても、変化だった。デイブはこう説明している。「わが社は市場調査会社だと思われていた。どんなタイプの人間が市場調査会社で成功するだろう? それはものすごく頭のよい人たちだ。彼らはアルゴリズムを完璧に仕上げて、誰にもそれを見せない。他人に盗まれるかもしれないからだ」

「だが、消費者データで支配的地位を築くなら、どんな情報源も受け入れ、進んで誰とでも一緒に働く人が必要だ。アルゴリズムがわかる人ばかりいても仕方ない」

第二の行動は、融合に情熱を持つこと。ビッグデータのおかげであらゆるところから入手できるようになった市場調査データを混ぜ合わせ、マッチングさせ、統合させることを愛している──好きを通り越して、愛している人がニールセンの成長をもたらすとデイブは信じていた。

またニールセンの成長は、この情報をクライアントが理解できる形に加工する能力にあると考えた。つまり「簡潔さ」こそが、ニールセンを成功に導く第三の行動であるとした。

「デジタルの世界はものすごいことになってきている。データの海に溺れそうだ」とデイブは説明する。そうなると、賛否双方の意見が入り乱れ、物事が複雑化する。「もしクライアントに簡潔にわかりやすく説得力を持って提案ができたら、絶対に勝てる」(そして、実際に彼らは勝っている。カルホーンがCEOを務めた6年間に、同社の時価総額は3倍になった)。

ニールセンと同様に、ナルコのエリック・ファーワルドとそのチームは新しいミッションを推し進めるのに必要な、核となる行動を明確に定義した。第一は節水活動に愛着を持つことだ。「私の仕事いいでしょ?」という程度の軽い愛着ではなく、「節水で世界を救うのが私の仕事です!」といった類の強い愛着だ。「毎朝コンピュータを立ち上げて、水道メーターを見て社員に興奮してもらいたい」とエリックは言う。ナルコのイントラネットでは会社の累積節水量、顧客一人あたりの節水量の数字がつねに更新されて掲載されている。

第二の行動は成長に対するハングリー精神だ。なにしろ一ケタの成長ではない。ナルコのミッション達成には、従来は手が届かないと思われていた顧客や、誰もが恐れるような市場に機会を見出す人間、つまり成長中毒者が必要だとエリックは心に決めた。2009年、ナルコの周りの会社は、中国経済の減速を懸念して、ほとんどが中国に後ろ向きだった。だが、ナルコは強い実績のあるリーダーを連れてきてアジアの経営を任せた。彼は本社を心地よいシンガポールから上海に移転させ、新しいビルを建てた。そこには、社員の研修センター、技術センター、営業・マーケティングの施設も併設した。社員数は200人から800人へと飛躍的に伸びた。ナルコは中国市場への本気度を高め、水処理で環境を改善したい、重工業の生産性を高めたいと願う優秀な中国人エンジニアを採用することができた。

同時期、ナルコはまた、水関連の応用化学でグローバルな成長を積極的に推進するために、石油・ガス部門を設立した(1バレルの石油を得るためには、4バレルの水を使って分離し、浄化し、安全に環境に戻す必要がある)。その甲斐あって同社はメキシコ湾で深海掘削を手掛ける顧客とのビジネスを短期間に広げることができた。また、はるか遠くの西シベリア、カザフスタン、アゼルバイジャン、ナイジェリア、アンゴラ、マレーシアといった場所でも顧客と実りある関係を新たに築いた。「当社の石油・ガス部門長は信じがたいほど優れた起業家タイプで、成長を追い求めるロールモデルだった」とエリックは言う。「彼は部下たちにもその感覚を共有させた」

彼をはじめ、会社を信じる多数の社員が組織をしっかり束ねていた。2010年には、ナルコの売上も利益も二ケタ台で成長していた。

(斎藤聖美訳)

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