満島ひかりと松たか子 演技派女優2人が冬ドラマ競演
2017年1月スタートのNHK、民放各局のいわゆる冬ドラマが始動しました。2016年10~12月期のドラマが豊作だっただけに、今期も視聴者の関心は高く、ネットはドラマ関連の話題で満載です。
ドラマ好きの間で注目度が高いのが人気ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の後枠で放送中の『カルテット』(TBS)。
この『カルテット』は、冬の軽井沢を舞台に、都内のカラオケボックスで出会った30代男女4人が弦楽四重奏団を結成し、共同生活を送るという不思議な人間模様を描いた物語です。
脚本家・坂元裕二と再タッグ
出演者も松たか子さん、満島ひかりさん、高橋一生さん、松田龍平さんと、実力派俳優が勢ぞろいしています。
個人的には、社会派ドラマとして話題を呼んだ『Woman』(日本テレビ)の脚本家・坂元裕二さんと満島ひかりさん、高橋一生さんが再タッグを組んだこともあり、作品性の高いドラマになるのでは……と勝手に期待を寄せています。
その満島さんといえば、「週刊現代」が2015年1/17.24号で行った「いま日本で『本当にうまい役者』ベスト100人を決める女優編ベスト50」ランキングで見事1位に輝いた実績を持つ、今の時代を代表する女優さんです。
審査員からは、泣きの演技、笑いの演技、怒りの演技、何でもこなせる「全方位型女優」と評価する声が寄せられていました。
ちなみに同調査で6位になったのが松たか子さん。つまり『カルテット』は演技派女優の競演が最大の魅力となる可能性が大です。
期待される2人ですがキャリアを見るととても好対照です。松さんは歌舞伎の名門の家庭に生まれ、16歳の時に歌舞伎座でデビュー。大河ドラマに出演後、19歳で大ヒットドラマ『ロングバケーション』でブレーク。以後はドラマ、舞台、映画の第一線で活躍してきました。また、アニメ映画『ブレイブ・ストーリー』にも出演し、プロの声優さん顔負けの演技が話題となった他、『アナと雪の女王』では声優に加えミュージカル歌唱に挑み、シンガーとしても世間から絶大な評価を得ていています。連ドラ出演は5年ぶりで、『カルテット』には満を持しての登場です。
アイドルから女優へ
一方、満島ひかりさんは元アイドルですが、当時はさほど注目を集めていたとはいえません。小学生の頃、「Folder」というグループでデビュー。その後、女性5人となった「Folder5」に所属していましたが、グループは2003年に活動を停止しています。それ以降はソロで活動していたわけですが、決して順調とはいえない状況だったようです。
満島さんの転機は2009年に公開された映画『愛のむきだし』(監督・園子温)です。この作品のなかで満島さんは、園監督から何度も演技のダメ出しをされ、精神的にも肉体的にもハードな状態に追い詰められるなか、演技との向き合い方を学んでいったのだそうです。のちに満島さん自身が「(女優としての)自分のベースを作れた」と振り返っている通り、アイドルから脱皮した証しとして、数々の映画新人賞を受賞、キネマ旬報賞では助演女優賞を獲得しています。
その後も「女優・満島ひかり」の快進撃は続き、1年後の2010年には、『月の恋人~Moon Lovers』(フジテレビ)で明朗なインテリアデザイナーのアシスタント役を務め、『愛のむきだし』とは全く別のキャラクターを自然体で表現していました。
2011年には、『それでも、生きてゆく』(フジテレビ)で問題を抱えた家族と共に希望を見出そうとする難役のヒロインを演じ、2013年の『Woman』(日本テレビ)では初めて主演の座を射止め、シングルマザー役を熱演しました。
その後、2015年には『ど根性ガエル』(日本テレビ)のピョン吉の声を担当し、声優ファンからも高い評価を得ています。
まさに役柄によって、カメレオンのようにイメージを変え続ける満島さん。その演技力の礎は、ご自身が20代前半(23歳・24歳)の時に出合った『愛のむきだし』によって作られたと語っている通り、若い時期に築き上げられたと言ってよいのかもしれません。
苦労に耐えて、踏ん張れるか
考えてみれば、23歳・24歳という年齢は、大卒のビジネスパーソンであれば、入社したばかりの社会人としての基礎を築く大事な時期です。ひと通り仕事の流れを覚え、会社組織内の人間関係についても把握し、社会の現実と厳しさを実感し始める頃でもあります。一方、思うようにいかない人のなかには「3年勤めたらこの会社は辞めよう……」などと考えている人もいるかもしれません。
ここで踏ん張るのか、踏ん張ることなく避けるのか、その決断は各々によって異なりますが、満島さんの場合は、新たな自身の価値を見いだすために、苦労して自分を鍛える道を選び、女優として開眼しました。
皆さんもご存じの通り、アイドルの世界はまさに量産体制の群雄割拠。Folder5時代、センターではなかった満島さんは、アイドル群のなかでは自分の個性と実力を発揮することはできず、個性が埋もれてしまうという現実に直面したのです。しかし、それは満島さんにとって好機となったのかもしれません。若いうちに発想を転換し、自分の基盤と価値を築き始めたことが、「演技派女優・満島ひかり」の今につながっているからです。
この満島さんが築いた基盤とその後に続くキャリア構築のストーリーは、ビジネスパーソンにとっても参考となる道筋なのではないでしょうか。
実際、これまで私が取材してきた企業経営者やスペシャリストの方々の中にも、20代前半の時点では仕事に戸惑い迷走していたものの、若いうちにしっかりと基礎を固めることに注力し、経験を積んでいくなかで新たな価値を生み出す創意工夫を試み、その後のチャンスをモノにしたという方が数多くいらっしゃいます。
もしかしたら、ビジネスパーソンとしてのキャリア形成モデルのヒントが、若いうちにアイドル戦線を抜け出し、自身の個性と価値をいち早く見いだすことで「演技派女優・満島ひかり」を築き上げた、彼女のキャリア道に隠れているのかもしれない……そんな思いを抱きながら、ドラマ『カルテット』の今後の展開と「満島さんの個性豊かな演技×松さんの存在感あふれる演技」の競演を楽しみたいと思います。
経済キャスター、ファイナンシャル・プランナー。日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。TV、ラジオ、各種シンポジウムへの出演の他、雑誌やWeb(ニュースサイト)にてコラムを連載。主な著書に『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。株式市況番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重TV・ストックボイス)キャスターとしても活動中。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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