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都会に残る庶民の足 大阪渡し船巡り 日伊協会常務理事 二村高史

2017/1/24

天保山大橋のもと、安治川を渡る天保山渡船。天保山側(向こう側)の乗り場は、橋のたもと近くにある

 「渡し船」という言葉には、どこか旅情と哀愁を感じる。年配の船頭さんが、手こぎで小さな船を操る姿を思い浮かべる人も多いだろう。日本各地に残されていたそんな渡し船も、時代を下るに従って珍しい存在になってしまった。だが、なんと大都会の大阪市内に、今も渡し船が8カ所残っていると知れば、驚かれるだろうか。国内外の鉄道やバスなど乗り物に造詣が深い日伊協会常務理事の二村高史氏に、案内してもらった。

◇     ◇

 かつては大阪市内のあちこちに渡し船があったようだが、現在残っているのは、すべて大阪湾に近い地域。10年ほど前、個人的な趣味で大阪の渡し船巡りをして以来、今回の再訪である。大都市に残る渡し船の姿をご覧いただきたい。

■「日本一低い山」「ポケGO聖地」など見どころ満載――天保山渡船場

 8カ所の渡船場のうち、有名観光地の近くにあるのが、この天保山(てんぽうざん)渡船場だ。安治川をはさんで、北側にはUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)、南側には天保山公園が控えている。運がよければ、天保山に大型客船が止まっているかもしれない。大型客船と渡し船のコントラストもユーモラスである。

天保山に大型客船がやってきた。渡し船から見るとまさに巨大。2006年5月撮影

 まずは、JR桜島線の終点・桜島駅から徒歩10分ほどのところにある北側の乗り場に向かった。この渡船場では昼間は30分おきに運航されている。通常、船は南側(天保山側)に停泊しており、出航時刻が迫ると、2人の係員が近くの詰め所から出てきて、乗り場へのゲートを開ける。そして、約400メートルの航路を2~3分かけて進む。北側(桜島側)の乗り場に到着して、乗客の乗り下りが済んだら、すぐに折り返すという運航だ。

 大阪の渡船場8カ所いずれも船内に座席はなく、立ったまま乗る。もっとも、歩行者の利用はあまりなく、ほとんどが地元の人による自転車での利用だ。自転車で渡船場にやってきて、自転車から降り、自転車を手で押して乗船。渡航中は自転車の脇に立ち、手で自転車を支える。対岸に到着したら、またそこから自転車に乗っていく。

 桜島側で待っていると、おそらく貸自転車なのだろう、欧米人観光客らしき男女が4~5人、自転車を押しながら、ワーオと声を上げ、満面の笑みで下りてきた。

 南側の乗り場は天保山公園の北東端にある。天保山は人工的につくられた山だが、地元の要望によって国土地理院に“山”と認定されたそうで、公園内には「日本一低い山 4.53m」という看板が立っていた!

ここが「日本一低い山」天保山の山頂らしい

 その“山頂”から、さらに高いところへと階段を上がると、スマートフォンを見ながらうろうろしている人が大勢いて、ちょっと不気味だった。あとで知ったところによると、天保山公園はポケモンGOの聖地なのだそうだ。

■鉄道ファンに名高い「汐見橋線」でアクセス――落合上渡船場・落合下渡船場

 天保山渡船場とは対照的に、地元の人の生活に密着しているのが、落合上渡船場と落合下渡船場である。どちらも、大正区と西成区の間を流れる木津川を渡るもので、木津川の渡し船はこの2カ所を含めて4カ所が残されている。

 落合上渡船場は、南海電鉄汐見橋線の木津川駅と津守駅のほぼ中間に位置している。実は、この汐見橋線こそ鉄道ファンに名高い、都会の中のローカル色あふれる路線なのだ。10年前は津守駅から歩いたのだが、今回は1日の乗降客が100人たらずという「都会の秘境駅」として知られる木津川駅で下車した。

都会の秘境駅と呼ばれる南海電鉄汐見橋線木津川駅。駅前には茫漠(ぼうばく)とした空き地が広がっている

 この駅は、住宅地とは反対側に出口があり、駅を出ると目に飛び込んでくるのは空き地や倉庫や工場ばかり。こんな殺風景で歩道のない川沿いの道を、ひんぱんに通るトラックを避けながら南に15分ほど歩くと、落合上渡船場の東側(北津守側)乗り場に着いた。対岸の千島側乗り場までは、わずか100メートル。手を伸ばせば届くような距離である。

 これならば橋を架ければいいと思う人もいるだろうが、大型船も安全に通過できるようにするには、膨大な建設費用をかけて桁下の高い橋を架けなければならない。車の需要がそれほどなければ、渡し船でいいだろうという理屈のようだ。

 ちなみに、落合上渡船場のすぐ上流にある木津川水門は、水面からの距離が驚くほど高く、見たこともないような形をしていた。月に1回ほど、水門を閉じるための試運転を行うそうで、チャンスがあればぜひ見てみたいものである。

 落合上渡船場で大正区に渡り、10分ほど南に歩いたところにある落合下渡船場から再び西成区に戻ってきた。この2カ所の渡し船は、日中15分おきに運航されている。

 ところで、この大阪に限らず、渡し船に乗るときは片道に限るという条件を自分に課している。そもそも渡し船は対岸に渡るためのものである。いくら無料とはいえ、自分の道楽のために、ただ往復するのは申し訳ないという私なりの美学……ではなく見栄(みえ)である。

落合上渡船場の東側(北津守側)乗り場。バックに見えるアーチが木津川水門。月に1回程度、開閉試運転をしているそうだ
船内には座席はなく、平らな床面が広がるだけ。2006年5月撮影

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