一度は見たい神秘のオーロラ 北極圏でつかまえて!
トラベルライター 小野アムスデン道子
漆黒の空に現れる波打つ光のカーテン。そんなオーロラの幻想的な写真を見て、いつかは見に行きたいと憧れる人は多いだろう。オーロラがよく出現するのは、北緯65度から70度の「オーロラベルト」という北極を輪のように取り巻く帯状エリアで、北欧、カナダ、アラスカなどが入る。その帯の中にあるノルウェーの北極圏の町、トロムソで見たオーロラとは?
◇ ◇ ◇
北極圏最大の街トロムソには、世界最北のビール醸造所も
ノルウェー北部の港町トロムソは、オスロから飛行機で約2時間。北極圏にあると聞いて、へき地にある過疎の町を想像するととんでもない。漁業、交易で古くから栄え、人口7万人、ホテルや商業施設、病院、教会そして大学もある。降雪は多いが、気温は海流の影響を受けて、真冬の1月で平均最低気温がセ氏マイナス6.6度と北緯70度という緯度の割に低くはない。
トロムソの町は、中心となるトロムソイヤ島と、橋で結ばれた本土に広がっている。空港はトロムソイヤ島にあり、中心街から約3キロメートルと至近。冬には、港に凍(い)てついた船が停泊し、町にも雪が積もっている。町並みはとても整っていて、お店やホテルもしゃれた感じ。インテリアも北欧モダンだ。ただ、物価は高く、コンビニエンスストアでは、ホットドッグ1本、水のボトル1本も400円ほどする。
さすが北極圏の町だけあって、ここには「世界最北」と冠したスポットも多い。
トロムソ空港近くの商業施設にあるバーガーキングは、大手ハンバーガーチェーンとしては世界最北。中心部にあるトロムソ・ルーテル教会は、世界最北のプロテスタント教会だし、トロムソの地ビール「マックビール」を造る醸造所は、世界最北の醸造所というわけだ。
このマックビールを出すパブは、夜中に出港して朝に帰ってくる漁師たちのために、朝からオープンしている。
神秘のオーロラをオーロラハンターと共に追いかけて
オーロラとは、太陽風のプラズマ(電気を帯びた粒子)が地球の磁力線に高速で引き寄せられ、大気中の酸素や窒素の原子とぶつかって発光する現象だ。カナダやアラスカは晴天率が高いがオーロラの出現するのが夜中以降と遅い。一方、北欧のオーロラは午後8時頃から見えることもあって、タイミングを狙いやすいという利点がある。
トロムソのオーロラ観察ツアーには2種類ある。一つは滞在型、もう一つは追跡型で共に6~7時間。まず滞在型は、町の明りから遠く離れた郊外のベースキャンプに赴き、テントの中でオーロラの出現を待つ。テントの中は火がたかれて暖かく、夕食を楽しむこともできる。もう一つは、オーロラハンターと共にバスに乗って、天気などの状況を見ながらオーロラの出現しやすい場所を狙って移動する方法だ。
オーロラツアーの料金は、現地ツアー専門予約サイトの「VELTRA」によると、滞在型で1万円ほど、追跡型で2万円ほどだ。
オーロラは、どちらのツアーでも100%出現するという保証はない現象だ。滞在型は「オーロラが出た!」という瞬間まで、待っている間は暖かいものの、その場所で、訪れた日にオーロラが出なければアウト。その点、追跡型はオーロラが現れそうな場所にいるスタッフと連絡を取り合い、状況を見て移動できるので、見られる確率が上がるようである。私が感激のオーロラに出合えたのもこの追跡型の方だ。
波打つ緑のオーロラや、中には虹のように赤や黄色、紫などの色を放つオーロラの写真を見ることが多いと思うが、実際のところは、写真ほど色のついた発光が見られるわけではない。肉眼とカメラが捉える光の波長の範囲には差があるためだ。肉眼では、どちらかというと白いもやのようなものが空で揺れている感じ。それでも、その動きが移動していくのは分かるし、私が見た時は幸運にもどんどんオーロラが濃くなっていって、最後には「オーロラ爆発」と呼ばれる最高レベルに近いところまで行った。その瞬間には、揺らめきが空全体に広がり、光のカーテン「オーロラ」をはっきりと認識できたのだ。
犬ぞりツアーや北極圏博物館など、極地の暮らしを知る
トロムソでは、オーロラ以外にも北極圏らしい観光をいろいろとできるのが楽しい。犬ぞりは、何頭ものアラスカンハスキーたちが引くそりに乗る。何百匹と飼われているよく訓練された犬たちは、走り出す前はにぎやかにほえているものの、走り出すと一心不乱。犬ぞりに寝そべるように腰かけて、風を切って雪原を走るのは爽快だ。また、スカンジナビア半島やロシア北部の先住民であるサーミ人によるトナカイそりもあり、民族衣装に身を包んだサーミ人が操るトナカイの引くそりに乗ることができる。「VELTRA」によると、料金は犬ぞりが2万5000円ほど、トナカイそりは2万4000円ほどだ。
また、小さな博物館だが、かつての極地の暮らしをリアルに見せる北極圏博物館(Polarmuseet)は必見。1936年までスバールバル諸島にあったトナカイやホッキョクギツネ、アザラシのハンター小屋が再現されている。また、初めて南極点に立ったことで知られるノルウェーの探検家、ロアール・アムンゼンの軌跡についても紹介されている。実はアムンゼンは、北極で消息を絶った飛行船の捜索のために、トロムソから水上機で飛び立ったがそのまま行方不明になった。厳しい自然と向かい合って来た人々の姿が間近に迫るような展示が興味深い博物館だ。
北極圏の町トロムソは、神秘的なオーロラツアーに加えて、過去と現在の極地での生活を垣間みることができるのもまた魅力の一つだ。
世界的な旅行ガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経てフリーランス。東京とポートランドのデュアルライフを送りながら、旅の楽しみ方を中心に食・文化・アートなどについて執筆、編集、プロデュース多数。日本旅行作家協会会員。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。