育児や介護の社員を支援 週4や週6勤務が選べる会社
IDCフロンティア(前編)
妊娠中・育児中・介護中の社員向けにユニークな制度を取り入れ、社員が生き生きと働いている企業があります。ヤフー子会社のIDCフロンティア(東京都千代田区)は、「週4日勤務」「週6日分散勤務」「フレックスタイム勤務」など働き方が柔軟に選べる会社。制度がどのように社員に使われているのか、取材してきました。
育児や介護は"待ったなし" 制度準備に1年もかけられない
妊娠中・育児中・介護中の人が、「週4日勤務」や「フレックスタイム勤務」などから選べ、しかもお給料が変わらなかったら……どんなにいいことでしょうか。それを昨年10月から取り入れている企業があります。
IDCフロンティアは、Yahoo! JAPANグループの戦略ITインフラプロバイダーを担い、クラウド・データ分析プラットフォーム・データセンターの事業を行っている企業。2016年10月から「フルサポート勤務制度」として、妊娠中の社員(配偶者の妊娠含む)、育児中の社員(小学校6年生以下の子ども)、介護者となる社員(家族の常時介護)を対象に、以下の4つの勤務形態から選べるようにしました。
週の労働時間は通常勤務(38.75時間)同様で、4日に集中して勤務。土日祝日に加えて、平日1日を休日に設定
2.週6日勤務
週の労働時間は通常勤務(38.75時間)同様で、6日に分散して勤務。平日5日に加え、土曜日を勤務日に設定
3.Fワーク勤務
自宅もしくは実家で月2回勤務し、1日の勤務時間(7.75時間)を5時~22時の間で自由にスライド
4.フレックスタイム制勤務
コアタイムを10時~15時とし、1日の勤務時間(7.75時間)を5時~22時の間で自由にスライド
※半年単位で、勤務形態の変更が可能。どちらを選んでも、給与に変更はない。
※妊娠中・育児中の社員は、上記4つのうち1つを選べる。介護中の社員は、Fワーク勤務を選べるうえ、週4日勤務・週6日勤務・フレックスタイム制勤務から1つを選べる。
―― この制度を作ったきっかけは、どんなことだったのでしょうか。
土屋麻美さん(取締役 コーポレート管理本部 本部長)(以下、敬称略):これまで「社員がいかに働きやすい環境をつくれるか」をずっと考えてきました。社員は会社にとっての財産ですので、社員ががんばってくれれば、会社は必ずいい方向を向きます。人事部は「どうサポートしたらいいか」をいつも考えてくれていて、私はそれを「ぜひやってみよう」と後押ししているだけです。
もちろん、うまくいかないこともありますが、ほとんどの提案が実践されていますね。スピード感のある社風なため、大きな制度の導入には1年以上かかるものですが、今回の「フルサポート制度」は今年4月の発案から導入まで6カ月間ほどでした。
枝松茂幸さん(コーポレート管理本部 人事部)(以下、敬称略):はい、この制度に限らずですが、「どうしよう、うまくいくかな……」などと気をもんでいないで、何よりもまずは導入して、様子を見ながら改善していくほうがいいと考えています。特に育児や介護は、"待ったなし"で、1年もかけて準備しているのはもったいないですから。
2016年4月1日から、法令では育児休暇が1歳6カ月までだったものを2年に延長したり、介護休暇・看護休暇は、法令では無給のところを有給化したりという変更を行ってきました。ただ、これだけではまだ休暇を取ることにちゅうちょする社員がいるので再検討。その結果、この4つの選択肢から選べる「フルサポート制度」を導入することになりました。全社員数のおよそ1.5割がこの制度を利用しています。対象となる育児・介護をしている社員のうち、およそ3割ほどです。
導入してから1カ月ほど経ち、課題や改善点がだんだん見えてきたので、それらを集め、来春くらいにバージョンアップできればと考えています。
様々な家庭事情に合わせ、カスタマイズできる点が強み
――「この制度に統一」ではなく、選べるようにしたのも利便性が高そうですね。
枝松:育児・介護といっても、様々な事情があります。育児でも、親元が近くにあるかないかによって、負担は大きく変わりますから。シングルマザーやシングルファーザーでも違います。違う課題に対して、柔軟にカスタマイズできる点が新しいと思っています。
例えば、「週4日勤務」を選んだ人は、所定労働時間が9時~17時45分なので、通常18時くらいに退社している人なら、毎日さらに1、2時間残業をして、19時か19時半くらいに退社するようなイメージです。当社は月の残業時間が平均30時間前後でして、残業を含めて週4日内に収まるような勤務時間になります。
今までも時短勤務の制度はありましたが、ママさんが園のお迎えのためにダッシュで帰るのを見てきました。これでは、仕事と家庭を両立させるのが大変だと思ったのです。これから育児を迎えるような女性社員が「この会社で本当に働きたいと思うか」ということを真剣に考え、女性社員にもたくさんヒアリングをして改善を進めてきました。
笹山恭子さん(ビジネス開発本部 コンテンツマーケティング部 広報グループ)(以下、敬称略):私も子どもが保育園児と小学1年生の共働きなのですが、当社は色々な制度を活用しやすいのがありがたいです。「制度があるけれど、男性は周りの目を気にして使いにくい」ことがよくあると思いますが、うちではみんなが気軽に制度を利用しているんです。人事のパパさん自ら、フルサポート制度を活用していますから。夫がうちの会社に勤めていたら、私はもっと働きやすくなるだろうな…と感じることもあります(笑)。
枝松:はい、人事部の私もパパでして、妻が結構厳しいタイプなので(笑)、私も育児に積極的になっているのですが、フルサポート制度を利用し、週休3日で働いています。それを一番喜ぶのは子どもですね。これまでは、保育園のお迎えがどうしても遅くなってしまい、子どもが悲しい顔をしていたんです。でも、毎週金曜が休みになり、一番乗りでお迎えに行くこともできるし、平日に公園で遊ぶこともできる。子どもの笑顔を見ると、また仕事への活力が湧いてくる。メリットが非常に大きいと感じています。金曜・土曜・日曜の休日は、基本的に緊急時以外はメールも電話も来ないので、家族との時間に充てることができます。
ただし、業種上、部署によっては24時間365日休みなく営業をしていますので、一部の社員に関しては、例外的に外で対応してもらうことはあります。それは、今回の制度とは別で、勤務時間として計上してもらっています。
――育児中の社員の方には、どの制度が人気でしょうか。
枝松:フレックスタイム制勤務が一番人気ですね。これまで、時短勤務や時差勤務の制度はありましたが、それよりもさらに柔軟に勤務時間を選べる点が人気です。前日に、仕事の進み具合や家庭の状況などに合わせて、翌日の勤務時間を決められますので。
ただし、フレックスを導入するに当たり、気を付けた点もあります。勤務時間が自由になると、職場の雰囲気がだらっとしてしまうことが往々にしてあるからです。ただし、当社は育児・介護に絞っていますので、「帰らなければならない」「朝は送ってから来なくてはならない」という制約がある方が多く、決してだらっとはしないですね。育児・介護中の人が、仮に権利をふりかざして、周囲に迷惑を掛けるようなことになってはいけないなと、自戒を込めて思っています。あくまでチームで働いているということを考えたうえで、同僚のパフォーマンスを落とさず、自分のパフォーマンスを上げるために、勤務時間をあらかじめ上司に報告してもらい、社内のWEBスケジュールで共有してもらっています。
制約の中で一生懸命やるママに周囲は温かい
――フルサポート制度を導入して、社員からどんな声が出ていますか?
土屋:日頃、若手社員からは色々な質問を受けるのですが、今回の制度については「ライフステージの変化に対応できる制度ができて安心した」との意見をよく聞きます。
ちなみに、2016年11月13日にオフィスの引っ越しをしたのですが、100人いたら100人が満足してもらえるように、フルサポート制度と同じように、職場のレイアウトに"選択肢"を多く持たせました。静かなところでコードを書きたい人向けに集中エリアをつくり、気分を変えたい人のために小上がりがあり、オープンスペースにはプロジェクトエリアもあります。コラボスペースはインテリアショールームのようなデザインにして、背の高いカウンター式の椅子もあれば、低いテーブルもある。その人の仕事や気持ちに合った環境を選べるようにしています。
――みんなが相手の希望を受け入れられるような「土壌」があるのですね。
笹山:そうだと思います。一昔前のワーママというと、なんでもバリバリやるケースと、制度に甘えて周りから白い目で見られるケース、両極端のイメージだったと思うんです。ところが大多数の人は、どちらのケースにも当てはまらない。時間に制約があっても、その制約内で一生懸命やりたいと思っている人が多いと感じます。私の職場にはママも多く、ママ会もやるのですが「同じワーママでもそれぞれ環境は違っているのでやれることも違う。でもその中でできる限りのパフォーマンスをして、その部分を見てもらえるといいね」という話がよく出ています。
ママ同士で仕事のカバーをすることも多いですし、誰かの子どもが急に具合が悪くなって早退しても、育児中ではない人も嫌な顔をされないんです。もしかしたら、ちょっと大変だなと思っているかもしれませんが…職場のみなさんは本当に温かいですね。
私は、上の子が4月から小学1年生になって、「小一の壁」に加えて、「小学校と保育園のまたぎの壁」があると痛感しています。同じ場所に通ってくれれば楽なのですが、小学校と学童、そして保育園では、始まる時間も異なるし、通う場所も違う。夏休みや冬休みは、保育園は朝から開いていますけれど、学童はスタートが遅めですし、お弁当も必要ですよね。そんなとき、フレックス制度を使えば、家に親がいなくなって、学童があく時間まで、子どもにマンションのロビーで待機してもらわなくても済むので、ホッとしています。本当に助かりますね。
枝松:また、全社員対象の「朝早出勤務」という制度もあります。最長で朝7時から15時45分までの勤務なのですが、前日申請すれば1日単位で利用できるので、例えば夫婦でどちらかが早く出社して、帰宅時間を早めて、保育園などのお迎えに行けるようにする形で利用している方もいらっしゃいます。
育児と介護、同時に直面している社員も
笹山:今は制度が整ってきましたが、私が妊娠したころは、まだワーママが社員に見当たらない時代でした。出産後復帰して、もしどうしてもダメだったら、正直仕事を続けないという選択肢もあるかな……と心の中で思っていました。
土屋:笹山さんからは、妊娠されて初期の段階で相談されたんです。「家族より誰より、最初に会社に相談しました」と。そのときは制度が整っていなかったので、「周りのサポートでカバーするよ」「これから制度を必ず整えていくからね」と話をしました。社員みんなに、できる限り心地よく働いてもらいたいと常々思っていますから。
笹山:「出産して復帰したらどうなるんだろう」という不安がありましたが、土屋さんのお話を聞いて、とても安心しました。
――ほかにも、介護と育児、両方に直面されている社員がいらっしゃるとお聞きしました。
木内宏幸さん(コーポレート管理本部 総務部 部長)(以下、敬称略) はい、私は3歳の子どもがいるのですが、2015年12月に実家の母親が倒れてしまいました。実家が遠くにありまして、最初は有給を使って見舞いに行っていたんです。そして、2016年4月からは介護休暇を利用しながら、週末に金曜日の休みをつけて、帰省していました。ただ、毎週休暇を取るのも大変だと感じていたところ、10月からフルサポート制度ができたので、週4勤務をさせてもらっています。
――育児も介護も仕事もあるというのは、どのような生活でしょうか。
木内:子どもの園への送り迎えで、雨の日は車が必要なのですが、妻だけが車に乗ると、車から子どもだけを降ろすことができなかったので、夫婦で一緒に行ける機会が増え、助かっています。
介護で実家に帰るときは、移動時間もかなりかかるのですが、金曜から3日間の休みがあると、中日を丸一日有効に使うことができていいですね。金曜と土曜は実家に行き、日曜は戻って子どもと過ごすこともあります。今までは、平日19時半くらいまで仕事をしていたのですが、フルサポート制度により、平日に業務時間が1時間強増えるようなイメージです。それ以外はあまり変わらないので、トータルの残業時間に変化はありません。介護休暇を取って、長期間休みたいわけではないけれど、週に少しずつ時間が欲しいという私のような場合は、大変助かっています。
次回の記事では、IDCフロンティアにて、月に2回、自宅もしくは実家で勤務ができる「Fワーク勤務制度」を利用し、ロボットを使って、まるでオフィスにいるかのように仕事をしている事例について紹介します。
(ライター 西山美紀)
[日経DUAL 2017年1月6日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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