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いま明かす、顧客情報流出事件を防げなかった理由 ジャパネットたかた前社長 高田明氏(13)

2017/1/18

 通信販売大手ジャパネットたかた。前社長の高田明氏はテレビ通販王国を一代で築き、お茶の間の人気者ともなりました。朝から晩までテレビカメラの前に立ち続け、「伝える」ということを追究してきた高田氏。順調に事業を成長させてきましたが、思わぬ落とし穴が待ち受けていました。ジャパネット創業以来最大の痛恨事を2回にわたり赤裸々に語ります。

◇   ◇   ◇

 今日は2004年3月に起きた情報流出事件についてジャパネットがどう苦悩し、どう顧客の信頼回復に努めたのかなどをお話ししたいと思います。当時は「情報が大事」ということは今ほど認知されていませんでした。それが今や莫大な量の個人情報や顧客情報をコンピューターで管理するのが当たり前になり、企業は情報の管理について細心の注意を払わねばならない時代になりました。昔のアナログ時代だったら、1枚の顧客情報のペーパーが紛失したということで内部で済まされていたかもしれないことが、デジタル時代にはあっという間に拡散して取り返しのつかないことになる時代に入っています。今でもそうした問題が度々起こっていますが、私どもの事件はその先駆けとも言えるものでした。

■50万件の顧客情報が漏洩

顧客情報流出について記者会見する高田明氏(2004年3月9日、長崎県佐世保市)

 事件は1994~97年に契約した顧客の名簿が何者かによって持ち出され、氏名、住所、電話番号、生年月日などの情報が流出したというものです。流出規模は最終的に50万件を超えました。

 2005年4月に施行された個人情報保護法の審議中で、全国的に情報の管理が注目され始めた時期でした。情報化社会の中で情報流出がいかに企業経営にとって危機的なものであるかということが注目され始めた矢先に当社の事件が起きたわけです。だから、それだけ当社の情報流出というのは、世間にご迷惑をおかけし、関心を集めました。

 正直、我が社から情報流出が起こるなど夢にも思っていませんでした。事件の報道があった日は、前日までに一人の新聞記者の方が確認の取材が来ていたので、その新聞に出ることは覚悟していました。しかし翌朝には各局のテレビでもニュースを報道し始めていたのです。

■事件の全貌も分からぬまま、営業自粛を決断

 本社に出社すると、会社の入り口にはテレビから新聞、雑誌まで40人以上の報道陣が詰めかけていました。記者会見を開いてほしいとの要請を受け、心の整理もついておらず、事件の全貌も分かっていない中で、急きょ会見の場を設けることになりました。「夕方でいいですか」と報道陣に聞くと、「それでは夕刊に間に合わない」、「全国ニュースに間に合うように早くしてほしい」と言われ、午前11時ごろから会見を始めました。最終的にテレビ、ラジオなど全ての販売を止めるなど、会社の方針を決めたのはその間の2時間弱の間でした。

 当時副社長だった妻と2人で話し、「これはもう(販売チャネルを)閉めるしかない」と即決しました。その年はジャパネットのテレビショッピング10周年のキャンペーンの最中でした。すでにタレントさんを呼んで10周年記念番組などの制作を終え、放送局の枠も押さえて商品も仕込んでいました。それを全部キャンセルしたのです。多くの方々にご迷惑をかけているのだから、会見で販売自粛を発表し、問題の解決に取り組むことが必要という考えでした。記者会見も終了時間を設けず、質問が全部で尽くすまでお答えしました。答えられるものはお答えしなければならないという思いからです。

■甘かった認識 欠けていた想像力

 このような不祥事の会見はもちろん初めての経験です。次から次に質問が飛んできました。不祥事のときって、マスコミは強い姿勢で企業に臨むじゃないですか。厳しい質問が続き、「そこはちょっと質問の筋が違うでしょう」っていう悪意のある質問も幾つかありました。でもお客さまにご迷惑をおかけしていることは間違いないのだから、ジャパネットが最大の加害者なのだからという思いで質問に答え続けました。我々の思いを誠心誠意、マスコミの先にいる世間の皆さんに説明することを優先しました。

事件を教訓に情報セキュリティーを強化した

 でも今から振り返っても、情報というものに対する認識が甘かったんでしょうね。個人情報を盗む人がいると思わないし、まして社員がそんなことをするとは夢にも思わなかった。善意の中で動いているじゃないですか。漏れた顧客情報がどう使われてどんな影響を及ぼすかの想像力に欠けていました。

 日本企業の経営は本質的に性善説です。社員を信頼しているから社員を見張る仕組みはそれまでありませんでした。しかし、現実にお客さまにご迷惑をかけた。そこで社員にも理解を求め全社的な取り組みとして、ルールを作り情報セキュリティーを強化して監視カメラも付けました。

■「もう一度原点に帰ろう」と社員に訴え

 情報セキュリティーはどんなに強固にしてもそれで十分ということはありません。エンドレスでそうした脅威に向き合う姿勢が大事です。当社は事件を機に、「ISMS(インフォメーション・セキュリティー・マネジメントシステム)」という情報関連の認証を取得しました。これは1回取得して終わりではなく、更新制です。毎年1回、第三者機関がジャパネットの全拠点を回って、情報を守る体制が保たれているかをチェックしています。

 情報が持ち出されたのは2004年のさらに5、6年前の話でした。警察の捜査が入って、ジャパネットの中にも私を含めて数人の専門チームを作り捜査に協力しました。事件が起こった本社ビルも現在の本社ではなく、移転する前の旧ビルでした。皆で当時の社屋のレイアウトなどを思い出しながら、どうやって情報が流出したのか究明していったのです。犯人割り出しには非常な困難を伴いましたが、最終的に2人の元社員が関与したことが判明しました。犯人には刑事で執行猶予付きの有罪判決が下りました。

 こうした対応に追われる間、社員に訴え続けたのは「もう一度原点に帰ろう」「第2の情報流出を起こさぬよう、しっかり社内体制を整えなければならない」といったことでした。(次回に続く)

高田明(たかた・あきら)
1971年大阪経済大経卒。機械メーカーを経て、74年実家が経営するカメラ店に入社。86年にジャパネットたかたの前身の「たかた」を設立し社長。99年現社名に変更。2015年1月社長退任。16年1月テレビ通販番組のレギュラー出演を終える。長崎県出身。68歳

(シニア・エディター 木ノ内敏久)

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