オールシーズンタイヤ 都市部の降雪に威力を発揮
冬本番、降雪が気になるシーズンだ。2016年は54年ぶりに11月に初雪が観測され、交通への影響が懸念された。都市部での降雪は珍しいことではなく、毎年のように雪による交通障害がニュースになる。東京の都市部でも、冬用タイヤを準備するドライバーが増えてはいるようだ。しかし、はき替えたタイヤの保管場所に困るし、できれば、1種類のタイヤで通常の天候から突然の降雪にまで対応できればと考える人もいることだろう。実際に欧米では、年間を通して使えるオールシーズンタイヤを使う人も多いとも聞く。
というわけで今回、筆者は日本グッドイヤー(東京都港区)が開催したオールシーズンタイヤ「Vector 4Seasons Hybrid」の試乗会に参加し、オールシーズンタイヤの長所と短所を探ることにした。
海外では標準装備されることも
自動車用のタイヤには、大きく分けて夏タイヤと冬タイヤがある。
夏タイヤにはエコタイヤやコンフォートタイヤ、スポーツタイヤなどがあり、それぞれキャラクターに違いはあるが、基本的に乾いた路面と濡れた路面で使用することを前提としたもの。新車に標準装備されているのはこの夏タイヤだ。一方、冬タイヤは、雪の上や凍結した道路に対応できるスタッドレスタイヤやスノータイヤと呼ばれるものを指し、通常は新車に標準で装備されてはいない。
オールシーズンタイヤとはこの両方の特性を備えた、年間を通して使用できるタイヤのことで、海外ではカーメーカーとタイヤメーカーが共同開発したものなどが多くのクルマに標準装備されている。しかし日本では、一部のSUVやクロスオーバーモデルに用意されている程度で、販売数の多いコンパクトカーやセダン、ミニバンなどの乗用車では標準になっていない。なおSUVに装着されるオフロードタイヤは、基本的にマッド&スノー、つまり泥道などのオフロードだけでなく、雪上にも対応したオールシーズンタイヤの性格を持つものが多い。装着タイヤのサイド面にM+S、SNOW、STUDLESSなどの表記があれば冬タイヤとして使える。ただし、その性能はタイヤのキャラクターによって異なる。
最大のメリットは緊急性と保管場所
オールシーズンタイヤの最大のメリットは、冬に備えたスタッドレスタイヤの準備と、タイヤの交換が不要なこと。もし突然の降雪予報が出ても慌てなくていいし、タイヤを2種類用意して保管場所に頭を悩ますこともない。また、冬用タイヤ規制及びチェーン規制が出された高速道路も走れるのでタイヤチェーンの着脱も不要だ。ただし、さらに路面条件が悪い場合に出される全車両チェーン装着規制など、たとえ冬タイヤを装着していてもタイヤチェーン装着が義務となることもあるので、表示された道路規制や路面状況をよく確認することが必要だ。
というとメリットばかりのように聞こえるが、年間を通して使えるように作られているために、夏冬いずれの性能もほどほどにとどまるというデメリットがある。
夏タイヤは、燃費性能に特化したエコタイヤや乗り心地や静粛性を重視したコンフォートタイヤなど用途に合わせて特定の性能を際立たせたタイヤが存在するが、オールシーズンタイヤは、夏タイヤとしての性能は極めて平均的だ。グリップ性能や排水性能などの安全性に関わる基本性能は十分でも、燃費性能や静粛性などの付加価値面は弱い。冬期も本格的な降雪となると、スタッドレスに当然軍配が上がるし、特に凍結したアイスバーンでの性能は大きな差があるとされる。
乾いた路面やぬれた路面なら夏タイヤとの差は少ない
今回、参加した日本グッドイヤーの試乗会は、オールシーズンタイヤであるVector 4Seasons Hybridと比較用の夏タイヤ「E-Grip ECO EG1」とスタッドレスタイヤ「ICE NAVI 6」という3種類のタイヤで、テスト車は現行型のトヨタ「プリウス」だった。なおテストコースでの試乗だったため、雪上走行は直線だけで短い距離だったことを付け加えておこう。
乾いた路面とぬれた路面では、夏タイヤとオールシーズンタイヤに差は少なく、ブレーキ性能やグリップ性能共に不満はない。夏タイヤに比べると、オールシーズンタイヤは少し走行音が気になった。いずれも、都会の市街地で普通に乗っている分には、十分満足できるレベルだろう。
一方、同じ路面をスタッドレスタイヤで走ったところ、以前よりブレーキ性能やグリップ性能が向上しているとはいえ、夏タイヤとの性能差がみられる。夏タイヤより、強くブレーキを踏めば車体の動きも大きくなるし、コーナリングもややロールが強くなる。低速域では差は小さいが、速度が上がればより差は大きくなる。また路面温度が高い場合も不利だ。タイヤ表面のゴム(コンパウンド)が柔らかく作られているからで、スタッドレスが冬期以外に不向きとされるのはこのためだ。
圧雪路はハンドルを取られることも
大きな差が表れたのは雪上での走行だ。スタッドレスタイヤよりは制動距離がやや延びるが、オールシーズンタイヤは路面をしっかり捉えて、停車できる。最も威力を発揮したのは解けた雪の路面で、べちゃべちゃの雪の上では、夏タイヤではタイヤがロックし、滑走気味に停車する。一旦停止後、再発進を試みるとタイヤがスリップして再発進できなくなってしまった。しかし、オールシーズンタイヤは停止から再発進までスムーズに行えた。タイヤ表面のパターン(溝と切り込みで構成された柄や模様)が雪をかきやすい形状になっているからだ。
ところが、路面が圧雪路(積もった雪を踏み固めた道路)に近い状態になるとオールシーズンタイヤの弱点が表れ始める。停車はできても轍(わだち)にハンドルが取られるようになった。一方、同じ圧雪路をスタッドレスタイヤで走ってもハンドルが取られることはなかった。オールシーズンタイヤは、スタッドレスタイヤほど路面との密着度が高くないからだろう。
見た目がワイルドでコンパクトカーには似合わない
年間を通して使えるというオールシーズンタイヤだが、試乗してみた結果、冬の圧雪路は不得意な面があることが分かった。特に日本の雪は水分が多く溶けやすく、氷上に水の膜ができやすい。このため、本格的な降雪地で走る場合はスタッドレスタイヤの装着がベターだが、雪が解けかけた路面にはしっかり対応できるし、突然の降雪に悩まされる都市部であれば、オールシーズンタイヤを履くメリットは十分にある。また寿命に関しても一般的な夏タイヤと大きくは変わらないようだ。
一方で路面の雪をかき出しやすい特徴的なタイヤパターンは見た目がワイルドになるので、コンパクトカーやセダンに装着するとなると、オールシーズンタイヤは多少違和感がある。さらに、クルマに乗る頻度が高い人ほど燃費や静粛性が重要になるだろうし、そうなると都市部では夏タイヤのほうが有利だろう。
ではどんな人なら買う意味があるのか? と聞かれれば、とにかくクルマにかかる手間を減らしたい人。実用性を重視する都市部在住者、といえそうだ。またワイルドな見た目を生かすこともでき、街乗りSUVのドレスアップには良いかもしれない。
日本グッドイヤーは2016年から、日本で販売するVector 4Seasonsの生産を欧州から国内に切り替えて対応サイズも拡大し、都市部を中心に市場拡大を狙っている。大手タイヤブランドでのオールシーズンタイヤはSUVや商用車向けが中心。乗用車向けを用意しているのは、今のところGOODYEARとピレリ、ファルケンの3社くらいで選択肢も限られている。基本的に夏タイヤに比べて価格が高いし、購入を検討するならタイヤ販売店などでアドバイスを受けたほうがいい。タイヤはクルマの走りと安全性を大きく左右し、印象まで変えてしまうこともあるのだから。またスタッドレスタイヤを含め冬タイヤといえど、急が付く運転は厳禁であることは変わらない。タイヤ性能を過信せず、慎重な運転を心がけるようにしたい。
(文・写真 大音安弘)
[日経トレンディネット 2017年1月4日付の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界