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動物アニメが問う「女性が働くこと」の理想と現実

『ズートピア』(2016年・米)

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NIKKEI STYLE

貴重な時間を無駄にしたくないアラフォー世代のために、稲田豊史さんがおすすめの映画・DVDをピックアップする新連載です。見て絶対に損しない新作・旧作の中から、今あなたが「見るべき理由」も添えて。ごゆっくりお楽しみください。

女性は果たして「働きやすく」なったか

昨年、さんざん議論された配偶者控除の撤廃は結局見送りとなり、2017年から控除適用年収が申し訳程度に緩和されただけに終わりました。働く女性たちの深い溜め息は、まだしばらく止まらないでしょう。1986年に男女雇用機会均等法が施行されてから、はや30年。果たして、この国で女性は本当に「働きやすく」なったのでしょうか?

もちろん、雇用側である企業の理解は30年で大きく進みましたし、ここ数年はダイバーシティーだの、女性活躍担当大臣だの、一億総活躍社会といった言葉が頻繁に飛び交うようにもなりました。しかし、現に職場でたくさんの理不尽と戦っている最前線の女性たちは少なからず、モヤモヤした気持ちを抱えているのではないでしょうか。「理想と現実は違うよね」と。

昨年公開され、興収76億円の大ヒットを記録したディズニーのCGアニメ『ズートピア』は、そんな働く女性に見てほしい映画。この1月にはゴールデン・グローブ賞の最優秀アニメーション映画賞も受賞しています。

主人公は、新米の女性警官であるウサギのジュディ。彼女が多様な動物たちの暮らす大都市「ズートピア」の警察署に赴任し、種族間にはびこる潜在的な「差別」や「偏見」に直面しながら、肉食動物の連続失踪事件を追う――というのが物語の主軸です。

ここで、「動物の世界? 親子で見に行く子ども向けアニメね」と切り捨てるのは得策ではありません。なぜなら、これほどまでに「女性が社会で働くこと」を真正面から問題提起したアニメは類を見ないからです。

優等生女子を阻む男性中心の職場

本作は女性が働くことに関して、大きくふたつの問題を提起しています。ひとつめはジュディの職場での受難。ジュディは幼い頃から地元では知られた優等生で、正義感が強く、異種族同士の共存を高らかにうたいあげる先進的な理想論者でした。保守的な両親に反発し「世界をもっと良い場所にしたい」と願い、必死で努力して、ウサギとしては史上初の警察官になります。

しかし、いざ配属された警察組織は体の大きな男性の動物たちで占められるマッチョな職場。体の小さな女性のウサギであるジュディは露骨に軽んじられ、「か弱い優等生の女の子」扱いです。ジュディは警察学校を首席で卒業したにもかかわらず、明らかにその知性や運動能力を生かせない「違反切符係」を命じられてしまいます。

実は警察署長(スイギュウの男性)はウサギの採用を望んではいませんでした。が、市長のライオン(男性)が、おそらく政治的パフォーマンスの一環として「初のウサギ女性警官」であるジュディの配属を決めたのです。政治家の話題集め、もしくは「お上がダイバーシティー推進を命じるも、現場は納得していない」の典型です。

そのため、ジュディは肉食動物の失踪事件を捜査するにあたっても、まったく権限を与えられません。端末からの情報アクセス権もなければ、人員もあてがわれないのです。しかし、それでも結果を出せなければ警官を辞めなければならないところまで追い詰められるジュディ。そこで彼女は、詐欺師のキツネ・ニックの協力をあおぐことになります。

ここまでは、ハリウッド映画でもよく見かける「優等生の高学歴女子が男性中心の職場で理想と現実のギャップに打ちのめされるが、奮闘して彼らを見返す話」です。健気(けなげ)なジュディの姿に自分の新人時代を重ねて涙する女性もいらっしゃるでしょう。実際、よくできた上京物語であり、お仕事映画です。

しかし、この映画が圧倒的に傑作であるゆえんはその先に。ここでは明かしませんが、肉食動物失踪事件の黒幕の正体とその動機自体が「社会的弱者が社会的地位を得ることの難しさ」をダイレクトに表しているのです。いうまでもなく、「社会的弱者」は「女性」に置き換え可能。これが、ふたつめの問題提起です。

黒幕が動機を語るシーンで、働く女性たちは複雑な想いにかられることでしょう。なぜならこの黒幕も、自分たちと同じように「ダイバーシティー」や「女性活躍」が机上の空論であり、「意識高い系」の企業家や政治家といえども現場の実態などわかっていないのを身にしみて味わったはずだから。そこでなめた辛酸こそが黒幕が悪に手を染める原動力だったのだと、痛いほど共感できるからです。

女性のなかには、正義ヅラしたジュディがいちいち振りかざす優等生的な正論にいらだち、むしろ黒幕の思想に共感できる方もいるかもしれません。ただ、働く女性の心をざわつかせるにしても、本作の存在意義は、もう一段高いところにあります。

少女たちの30年前と30年後

本作を「子ども向けアニメ」として観賞した年端もいかない少女たちは、職場の理不尽を鮮やかに克服するジュディの勇姿をその目に焼きつけ、「ズートピア」という街がきれいごと抜きで理想郷に近づくさまを深く心に刻みつけたでしょう。

彼女たちを映画館に連れて行った母親がかつて少女だった30年前、つまり男女雇用機会均等法が施行されたばかりの頃、ディズニーアニメのヒロインとは「ヒラヒラしたドレスを着て王子様に選ばれることを待つプリンセス」でした。30年がたった現在、ディズニーアニメのヒロインは「理想を現実化しようと汗まみれで行動する現場の警察官」へと更新されたわけです。

まるで社会活動家のようなジュディを心のロールモデルとしてインプットした少女たちは、今から30年後、いったいどんな行動規範をもって社会に参加しているでしょうか。きっと、今とは比べ物にならないほど「女性が働きやすい社会」を作り上げているに違いありません。『ズートピア』が傑作たるゆえんは、ともすれば楽観的にすぎるこのような理想論を、たった2時間弱で「信じてもいいかもしれない」と思わせてくれる点にあるのです。

理想と現実は明らかに違いますが、埋める努力はできる。既に行動している女性もいる。彼女たちは、意識高い系の企業家や政治家が口にするバズワードなんぞに頼ってはいません。働く女性が1年のはじまりに景気づけとして見るのに『ズートピア』はうってつけの映画ではないでしょうか。せんえつながら、男性である筆者はそう思うわけです。

稲田豊史(いなだ・とよし)
 編集者・ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年に独立。著書に『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)、構成担当書籍に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎/原田曜平・著)など。「サイゾー」で「オトメゴコロ乱読修行」連載中。「SPA!」「DVD&ブルーレイでーた」「dancyu」などに執筆。http://inadatoyoshi.com

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