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IBJ社長 石坂茂氏

IBJ社長 石坂茂氏

結婚情報サービス大手のIBJ。インターネットを介していわゆる「婚活」を支援するサービスを展開しているが、業績は堅調で高収益体質を築いている。2017年春から人工知能(AI)を活用した新マッチングサービスも展開する。「出会い系」など怪しいサイトもあるなか、IBJはどのようにして顧客の信頼を勝ち取ったのか。創業者の石坂茂社長(45)に聞いた。

「AIや画像認識を活用した新たなサービスをスタートしようと考え、今、東京大学と組んで実験段階です」。IBJが組織化する日本結婚相談所連盟には会員のプロフィルとして写真、年収、職業、居住地、自己紹介などが載っている。相手を探すときは年収や職業などの項目で条件を指定して検索するが、新サービスでは、マッチングする可能性がより高い相手をAIなどシステムが自動で判断し、会員に提案する仕組みだ。

東大と共同開発、マッチング成功 10%から30%に

IBJとマッチングシステムを共同開発中の東大大学院情報理工学系研究科の山崎俊彦准教授は、「実験段階ですが、男性が女性に交際のメールを出し、OKの返事をもらう割合は、これまでは10~12%でしたが、このマッチングシステムを活用することで30%に上がった」という。好みのタイプの顔の画像や、様々なプロフィルなど180万件のビッグデータを解析し、マッチングの精度を高めているという。

東京大学大学院 山崎俊彦准教授

東京大学大学院 山崎俊彦准教授

ビッグデータを活用すれば「恋愛偏差値や男女のマッチング予測も可能です。就活や転職などのサービスにも応用できる」(山崎准教授)という。ただ、石坂氏に結婚もAIが決める時代なのかと問うと、「いいえ、AIはサポートするだけです。やはり結婚がうまくいくためには相手方の個性を認め合い、価値観が同一の場合が一番です」という。

IBJはネットを活用した婚活サービスのトップ企業に成長している。昨年後半、16年12月期の売上高予想を52億4000万円、営業利益予想を11億1600万円にそれぞれ上方修正した。競合他社と比べて高収益モデルを確立している。創業以来、同社を設立し、率いてきたのが石坂氏だ。しかし、2000年の創業時は不安でいっぱいだったという。

楽天の三木谷氏に名乗れず

「まだビジネスになるか自信がなかったので、三木谷さんに自分も興銀出身だと名乗れませんでした」。石坂氏は創業当時をこう振り返る。日本興業銀行(現みずほ銀行)出身の三木谷浩史氏(楽天社長)が1997年にスタートしたネット通販「楽天市場」。ここに石坂氏が出店しようと、楽天に電話をしたら、偶然にも出たのは三木谷氏本人。当時の楽天もまだ、小規模な会社だった。石坂氏は開成高校から東大経済学部を経て興銀に入行。三木谷氏とは同じ銀行、そして起業の先輩にあたるが、それを口に出せなかったという。

ちなみに「IBJ」というのは、興銀の英語名「The Industrial Bank of Japan」の略称だった。戦後の日本産業界の育成・再編を主導してきた興銀は銀行界でも別格的な存在、IBJは金融界の最高級ブランドといわれた。

銀行再編、IT勃興で起業

なぜ石坂氏はエリート銀行員の道を捨て、結婚情報サービス事業に乗り出したのか。「きっかけは、やはり興銀が他行と統合する銀行再編でしたが、自分が担当していた海運業界再編も先が見えてきたこともある。そんな時にIT(情報技術)が勃興し、何か新しいことができないか」(石坂社長)と考えて銀行に辞表を出した。

投資会社に移り、何のビジネスをやるか、半年余り考え抜いた。「景況感に左右される会社はダメ。在庫や資金繰りを気にする業態も嫌だ」。最初は消去法で選択していった。人材・不動産分野に商機があると考えたが、すでにリクルートなどガリバー企業が存在する。「ITを活用し社会的なニーズがあり、まだ競争の少ない分野はないかと探したら、行き着いたのが結婚情報サービスだった」という。

2000年にIBJの前身となるブライダルネットを設立し、結婚情報サービスをスタートした。だが、男女の出会いを仕掛ける怪しい「出会い系サイト」も増え始めていた。「当時は男女のマッチング課金が出てきて、うまくすればかなりの収益が上がっていた。しかし、我々は短期間で収益を得るという発想はすべて排除しました。短期の収益増加に走れば、信用を失うだけですから」と石坂社長は話す。

出会えない、交際に発展しない、苦情次々

「もう一度、自分たちでやってみよう」と、会社を買い戻した。

「もう一度、自分たちでやってみよう」と、会社を買い戻した。

「出会えないじゃないか」。実際、サービスを開始した直後にはこんなクレームが殺到した。事業を継続するために、あえて顧客を選別してサービスの質を上げることに奔走した。続いてネットとリアルの融合を始めた。ネット上で集客し、事前課金してもらい、男女比をできるだけ同数に近づけ「婚活パーティー」を次々開催した。実際に男女が会う場を演出した。

しかし、次は「うまく交際に発展できない」「結婚につながらない」という不満の声がわき上がってくる。男女の出会いから交際、結婚と総合的なソリューションサービスを展開する必要があった。

石坂氏は03年にヤフーに同社を売却し、100%子会社となった。だが、06年にMBO(経営陣が参加する買収)により、ヤフーから独立、新たに設立したのがIBJだ。「ヤフーから会社を買い戻すなんて当時は驚かれたけど、もう一度、自分たちでやってみようと、新たな手法で展開しようと考えた」(石坂氏)という。石坂氏が考えた新たなソリューション、それは昔ながらの『アナログ世界』の活用だった。

すご腕の仲人、成婚率8割も

目を付けたのが以前からある結婚相談所だ。「昔から60歳代の年配の女性が男女にお見合いの場を仕掛け、結婚につなげる『仲人役』となるケースがありますよね。すご腕の仲人さんの場合、入会者が少なくても成婚率が8割という人もいる。そんな方たちと手を組もうと考えました。ただ、年配の方々が多いので、まずパソコンの使い方を教えて回りました。うちの母親を見ていると、年配の女性も意外とパソコンを使いこなせるんです。全国に『仲人さん』の人脈を広げていきました」。結果、全国の1300店の結婚相談所と提携、日本結婚相談所連盟を組織化した。この『アナログ世界』をデジタル化に誘うことによって、IBJは成長の基盤を築いたのだ。

現在、IBJの会員は54万人に膨らんだ。入会金や月会費をもらい、常時結婚情報サービスを提供するコアな会員は5万8000人。男性の平均年齢は37歳、女性は同33歳。入会金の平均は約20万円、月会費は1万5000円になるが、成婚率は3割弱に達する。一般の結婚情報サービスは10%台といわれているが、「結構高い数字だと思います。直営店の場合は成婚率52%。半分の人が結婚が決まり退会するわけです」(石坂氏)という。

後輩もサービス利用

 少子高齢化は日本にとって最も大きな課題になっている。50歳までに結婚しない男性は20.3%、女性は11.4%(2015年時点)。どちらも1995年の2倍といわれている。

「一昔前は会員の方は30歳代中心でしたが、今は20歳代から70歳代まで幅広く多様ですね。驚くほど有能で年収の高い男性とか、美人の女性会員もいます。以前と違い、結婚情報サービスを活用することに抵抗がなくなってきています」という石坂氏。エリート銀行マンの道を捨て、結婚情報サービスの会社を起業したときは「周囲の人や友人からなぜそんな事業をといわれましたが、先輩の子供さんとか、後輩とか、うちのサービスを利用してくれている人も増えている」と笑う。ネットでの婚活サービス市場を切り開いたIBJ。元興銀マンは、「仲人パワー」にAIをプラスしてさらなる成長を目指している。

(代慶達也)

「キャリアコラム」は随時掲載です。

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