変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

高級マンションブランド「プラウド」を育て、総合不動産大手を目指す野村不動産ホールディングス(HD)会長の中井加明三氏。もともとはやり手の証券マンだが、今は未来を担う不動産パーソンの育成に力を注ぐ。どんな人材をどのように育成しているのか、中井会長に聞いた。

成長企業、社員の5%は「ナマズ社員」

――野村不動産のグローバル化はまだ途上ですが、ダイバーシティー(多様性)をキーワードに人材育成を進めています。

「経営学でよく出てくる、北欧の寓話(ぐうわ)で『ナマズとイワシ』という話があります。たくさんのイワシが入った水槽が2つあるとします。違いはナマズが入っているかどうか。さて、どちらの水槽の魚の方が生き生きしているでしょうか。それは、イワシにとって異質に映るナマズがいる水槽の方だという話です。緊張しているから動き回るのでしょうか」

野村不動産HD会長の中井加明三氏

野村不動産HD会長の中井加明三氏

「成長する会社というのは、こうした『ナマズ社員』が職場で活躍していることなのだと思います。こうした社員は感度が高いだけでなく、社風を変えるきっかけをつくってくれることでしょう。そんな社員は時に『むちゃくちゃなことを言っている』。だけど『面白いよね』と周囲から言われることもあるでしょう。でも社員の5%程度の人はナマズ社員であってもよいと思うのです」

「私はユニークな社員を発掘し、適所へと引き上げるように心がけています。こうした人事に社内がざわつくこともありますが、彼らを上司が見逃すはずがありません。優秀だからです。社員を評価する物差しというのは仕事に対する高い能力を持っているかどうかです」

「多様な考え方を持った社員がいることが重要です。こうしたダイバーシティーの必要性を社員に説こうと、専門家の谷口真美・早大教授を招いて役員向けにレクチャーしたこともありましたね」

女性役員も招聘 新入社員3割理系

――不動産は男の職場で、古い体質の業界というイメージがあります。

「女性社員も活躍のフィールドをもっと広げてもよいと思います。例えばマンションやビルなどの開発現場には積極的に関わってもよいはずです。私が2011年に社長に就任してから社外取締役として女性役員を招聘(しょうへい)しました。さらにいまや新入社員の30%は理系の専攻を卒業・修了した人で占めます。不動産の開発・設計などに関わってほしいためで、昔の当社では考えられない採用形態だと思います。外国籍の人も意欲的に採用するようにしています」

「こうした組織改革には、私の野村証券時代の経験が少なからず生きていると思います。総務担当の役員などを務めたからです。私が不動産業に足を踏み入れたのは11年のこと。野村不動産HDの社長となりましたが、当時の当社の企業文化や戦略はといえば、私がそれまで30年余り在籍していた証券の業界とは全く違うものでした」

分厚い資料は不要

――組織改革をやろうと考えたきっかけは何ですか。

「私は社長就任後まもまく役員に問いました。『これからも住宅専業の会社にとどまるのか、それとも住宅も含めた総合デベロッパー型の会社になっていきたいのか』。社員の出した答えは後者でした。そうであれば人材を育成したり組織を変えたりした方がさらなる成長が見込めると思い、改革に踏み切ることにしたのです」

「例えば役員会。当初は数十ページにものぼる分厚い資料が机の上に用意されていました。これは見方を変えれば、スタッフがそのために早朝出勤をして準備しているともいえます。これはもっと効率化できると思い、すぐにやめさせましたね。タブレット(多機能携帯端末)『iPad』を使った会議形式へと移行させました。何ら問題は起きていません」

「役員会の改革はもう1つ。過去に行われた役員会の議事録を振り返ってみると、議論が交わされた形跡がありません。役員会を開く前に役員への事前説明が慣例化していたためです。これでは役員会を何のために開いているのか分かりません。役員合宿でも同じような傾向がみられました」

「そこでまずは議論を始めるところから改革をスタートさせました。それぞれの役員は自分の担当領域の発言については得意満面なのですが、いざ会社の経営面について話を進めようとすると、発言を遠慮してしまうのです」

「しかし経営全体のことを見渡してこそ自分の担当領域も事業として成り立つというものです。野村証券にいたときはこうした意識が社内に浸透していました。これを野村不動産の社員にも自覚してほしいと思いました」

社員とランチ 400人と議論

――トップとして社員をどのように指導していますか。

「15年に会長に退いた私がいまやっている人材育成といえば、昼食時に社員らとランチミーティングを持つようにしていることです。1日に1~2時間、6人程度の社員を1グループにして話し合いをしています。話し合う内容は特段縛っていませんが、社員らが普段どんな課題を抱えているのか。私の経験が少しでも役に立てればと思ってやっています。これまで400人超の社員と議論をしてきました」

――リーダーとして心がけていることはありますか。

「仕事の『オンとオフ』の区別をはっきりとさせることだと思います。いまは仕事の合間にパーソナルトレーニングを定期的に受けています。以前は自宅周辺を散歩していたのですが、忙しくなってしまいやめました。体をしっかりと動かす時間を確保する手段として私はパーソナルトレーニングが合っていると思ったのです」

「自分一人の時間を持つことも重要です。私は夏休みの1日は一人になれる時間を確保し、例えば旅行などに出かけています。自分と向きあえる時間を持つことは良いことだと思います」

中井加明三氏(なかい・かめぞう)
1974年関学大商卒、野村証券入社。取締役、常務などを経て、2011年野村不動産ホールディングス(HD)社長就任。12年野村不動産社長兼務、15年野村不動産HD、野村不動産会長。

(岩本圭剛 代慶達也)

前回掲載「『カネがない』逆風下 マンション『プラウド』育成」では、高級マンション「プラウド」ブランドの誕生秘話を聞きました。

「リーダーのマネジメント論」は原則火曜日に掲載します。

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック