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三井不動産、三菱地所、住友不動産の財閥系の総合不動産大手に挑む野村不動産ホールディングス(HD)。1990年代のバブル経済の崩壊、リーマン・ショックなど数々の経済危機を乗り越え、高級マンション「プラウド」ブランドで発売戸数業界1位も実現した。マンションデベロッパーから総合不動産大手へ。これまでの道程と今後の戦略を中井加明三会長に聞いた。

バブル崩壊 マンション事業に集中

――かつて野村不動産はマンションのトップブランド企業というイメージはありませんでした。どのようにプラウドを育てたのですか。

「野村不動産は1990年代のバブル崩壊で、大量の不良債権を抱え込みました。当時の社長の中野淳一さんはこうした難問を一つずつ解決していきましたが、限られた経営資源は必然的に、当社の強みであるマンション事業へと集中せざるを得ませんでした」

野村不動産HD会長 中井加明三氏

野村不動産HD会長 中井加明三氏

「ところが財務体質は盤石ではありません。そこでマンションが完成した時には全ての住戸を売り切るという営業モデルに力を注いでいったのです。投資資金を早めに回収しなければ次の開発案件に取りかかれるほどの資金的な余裕がなかったからです。『カネがない』というところから始まったわけです。このモデルを絶えず繰り返していくことで、会社の利益も少しずつ積み重なっていきました」

「ただこの前提として、マンションが売れなければ意味がありません。当時の経営陣は高い品質の確保がポイントになるとみていました。質の高い設備やマンションの仕様だけでなく開発に携わる社員の連携を強めることも必要でした」

「そこで当時としては業界で珍しかった、マンションの開発・販売・管理の業務を組織的に分離せずに、包摂するような形態にしました。情報の共有化がしやすくなることで課題も顕在化しやすくなり、高品質を担保できるようになったのです。それが当社のブランド『プラウド』でした」

――プラウド育成のため組織体制も見直したのですか。

「プラウドの高級ブランド路線が的中したこともあり、住宅事業は軌道に乗りました。おかげでキャッシュは数百億円を確保できるようになり、資金的な余裕も生まれました。経営の選択肢は広がることになりました」

「11年に社長に就いた私の仕事は社員に『プライド』を持ってもらうことだと思いました。バブル崩壊後に厳しい経営環境が続いたなか、やはり誇りというモノをもう一度持ってほしいと思ったからです。目標設定が効果的だと思い、分譲マンションの暦年の発売戸数で首位になることを目指すことにしました。これまで一度も首位を飾ったことはありませんでした」

役員を若返り 組織を活性化

「もっとも、私ができることはと言えば、組織や社員の配置を変えることぐらい。しかし事業を円滑に進める上では重要なことです。役員を若返らせることも重要だと思いました。これまで役員への昇格は年功序列型。新任役員は毎年1人ずつでした。しかし、これでは世代交代もなかなか進みません。そこで私は一気に6人を新任役員に引き上げました。いま野村不動産の社長を務める宮嶋誠一氏もこの時は専務に昇格させ、住宅事業本部長に抜てきしました」

「人事を断行するというのはトップから社員への最大のメッセージです。私は若返りを図ることで、前職の野村グループ伝統の『キープヤング』の考え方を野村不動産にも植え付けたいと思いました。結果として、社員のモチベーションも上がったと思います」

「こうした組織改革も手伝ってか、社長に11年に就任した当初のマンション発売戸数は年4000戸。これが2年後には同7000戸に増え、この年に初めて業界首位に躍り出ることができたのです」

ビル・商業事業へも

――マンション販売も常に右肩上がりではないと思います。住宅事業を今後も強化するのですか。

「住宅一本足打法というわけにもいかない。事業領域を広げる必要がある」

「住宅一本足打法というわけにもいかない。事業領域を広げる必要がある」

「マンションの発売戸数を追い求める戦略は長くは続かないと思います。以前のようにマンションが売れなくなってきたからです。したがって住宅一本足打法というわけにもいきません。ビル事業や商業事業へと領域を広げる必要があると思います」

「既に当社はこうした領域に取り組んでおり、実績を着実に上げてきました。例えばビル事業では中規模ビルのブランドを作り上げることに成功しました。10年ごろから本格的に供給を始めた『PMO』です。規模は地上10階建ての中規模クラスですが、スペックやグレードは大規模ビル『Sクラス』と同じ高い性能を確保するなど、テナント様からは品質面の定評をいただいています」

「いまのまちづくりは住宅や商業、オフィスといった機能を複合的に取り入れた開発型が増えています。当然、住宅以外の開発ノウハウも必要ですし、海外事業も検討しなければなりません。複合開発や海外事業は投資額が時に膨大になることがありますが、今の当社の財務体質であれば十分に対応できると思います」

強みは交渉力

――既存の総合不動産大手とどのように差異化していくのでしょうか。

「グループの総合力をいかに発揮できる環境を整えるかは大きな課題です。ただ当社の実力は残念ながら財閥系不動産会社に匹敵していません。そんな中で『住宅出身だから、ビル出身だから』といった縦割り思考で仕事を進めることは非合理的です。グループが一丸となって事業に取り組む姿勢が重要です」

「しかし、臆することはありません。他社にはない強みもあります。例えば地権者との交渉ノウハウです。再開発案件にあたっては、地権者が案件を十分に納得した上で進めなければ失敗します。当社はこの交渉にたけていると思っています」

「2000年代に始めた東京都大田区の再開発や、JR立川駅前(同立川市)の再開発などは地権者らから高い評価を得ています。地権者が複雑に入り組む土地というのはたくさんあるものです。これからも焦らずにコツコツと開発を進めていく考えです」

中井加明三氏(なかい・かめぞう)
1974年関学大商卒、野村証券入社。取締役、常務などを経て、2011年野村不動産ホールディングス(HD)社長就任。12年野村不動産社長兼務、15年野村不動産HD、野村不動産会長。

(岩本圭剛 代慶達也)

「リーダーのマネジメント論」は原則火曜日に掲載します。

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