全部コミコミ 格安SIMおまかせプランが人気のワケ
格安SIM最前線
自分の使い方に合わせて自由にプランを選べるのが特長の格安SIM。しかし最近は大手キャリアと同じような、基本的な料金や通信量を選ぶだけの"おまかせ"ともいえるプランが人気を集めているという。このプランを選ぶと、通信容量や選べる機種が限られるし、"2年縛り"といった制約も発生する場合がある。にもかかわらず、なぜ好評なのだろうか。
格安SIMなのに大手キャリアと似たプラン
大手キャリアと契約する場合と比べ、格安SIMを利用する場合のメリットは、消費した通信容量に応じて月額料金が変わるプランや、通信容量が使い放題のプランなど、自分に合ったさまざまなプランを選べることだろう。SIMフリーのスマートフォン(スマホ)さえあれば、自分の使い方に適した通信・通話プランを自由に選ぶことができる。
しかし、最近、格安SIMサービスにも「月額料金を選ぶだけ」「スマホとセットで購入」という、従来の大手キャリアとよく似たプランが登場してきた。
インターネット流通大手の楽天が手がける格安SIMサービス「楽天モバイル」が提供する「コミコミプラン」は、通信容量の選択肢は2ギガバイトか4ギガバイトの2種類のみ。最も安い「プランS」(1年目の月額料金は2030円。税込み、以下同)から「プランLL」(同3758円)まで、選べるスマホが異なる4種類の専用プランが用意される(下表参照)。このプランの中にスマホの分割購入代金、音声通話の基本料金、5分間通話定額オプションの料金すべてが含まれている。
プラン名 | 月額料金(1年目) | 通信容量 | 選べるスマホ |
プランS | 2030円 | 2ギガバイト/月 | ZenFone Go、ZenFone 2 Laser、BLADE E01 |
プランM | 2678円 | AQUOS SH-M04、AQUOS SH-RM02、P9 lite | |
プランL | 3218円 | 4ギガバイト/月 | arrows M03、ZenFone 3 |
プランLL | 3758円 | honor8 |
格安SIMサービスの提供と独自端末の開発・販売を手がけるプラスワン・マーケティングが提供する「スマートコミコミ」も、同社の格安SIM「FREETEL SIM」、フリーテルブランドのスマホ、通話定額オプションの料金がまとめられたプランだ。
KDDI(au)やソフトバンクのサブブランドである「UQ mobile」と「ワイモバイル」も、基本料金と無料通話がセットになった「ぴったりプラン」や「スマホプラン」といった料金プランを提供している。毎月1ギガバイトのプランにおける月額料金はUQ mobileが3218円、ワイモバイルが4298円(※月額料金と通信容量は契約時の条件により異なる場合がある)。この2つのプランの場合は、別途、UQ mobileやワイモバイルが提供するスマホや、家電量販店などで販売されているSIMフリースマホの購入代金が必要になる。
「自分に合ったプランがわからない」という声が
格安SIMサービスを提供する各社がこうしたおまかせプランに力を入れる背景には、格安SIMを利用する人たちの幅が広がっているという事情がある。
格安SIMサービスが始まったころの利用者は、データ通信を積極的に利用するスマホのヘビーユーザーが中心だった。彼らは自分でSIMフリーのスマホを準備して、自らの手で契約から設定までを行った。
しかし、大手キャリアに比べて割安で済むことが広く知られ、音声通話もできるメインの電話回線として格安SIMを選ぶ人たちが増えてきた。MMD研究所の市場調査(2016年10月6日発表)によると、音声通話とデータ通信の両方に対応するSIMの利用率は53.8パーセントと半数を超えている。
こうした人たちのハードルとなったのが、格安SIMの契約内容の複雑さだった。
通信料金の安さで注目を集めた格安SIMサービスには、ここ数年、さまざまな企業が参入し、格安SIM事業者同士の競争も激しくなった。他社との差別化を図るべく新たなサービスが生み出され、格安SIMと組み合わせて販売されるスマホの機種も増えている。
その結果、格安SIMの料金体系は黎明(れいめい)期と比べて複雑になった。現在、格安SIMを契約するには、スマホに合ったSIMカードの種類とサイズ、通信容量のコース、音声通話オプションの有無、スマホを同時に購入するならその機種や保証オプションの有無……といった契約内容を、ユーザー自身が理解して組み立てねばならない。
「大手からの乗り換えを検討する人から『毎月かかる料金の計算が面倒』『自分にあった組み合わせがわからない』といった声が多く寄せられていた」(楽天広報部)
そこで登場したのが、「基本料金」「端末代金」「通話定額」を一つにまとめたセットプランだ。大手キャリアの料金体系のように、通信容量と機種を選ぶだけで毎月かかる料金がわかり、契約時に料金も比較しやすくなった。
従来のプランと比べると、スマホの機種や通信容量といった選択肢はあえて絞り込んでいるが、「来店者を中心に、とてもわかりやすく、検討しやすいと好評」(楽天広報部)だという。
楽天の実店舗は半年で約2倍に
格安SIM利用者の広がりは、窓口の変化からも見て取れる。
格安SIMを提供する通信会社は、初期は経費を節約するためもあって、店舗を構えていないところが多かった。契約したりサポートを受けたりするには、通信会社のサイトを経由するのが一般的だった。しかし、大手キャリアの店頭での対応になじんだユーザーが、格安SIMへの乗り換えを検討するようになってきたことを受けて、店舗を構えたり、家電量販店にカウンターを設置したりする通信会社も増えているのだ。
楽天モバイルの場合、2016年5月に56カ所だった店舗数は、2017年1月5日の時点で111カ所と倍増した。同様にセットプランに力を入れているプラスワン・マーケティングや、UQ mobileやワイモバイルも、店舗展開を活発化させている。
実は楽天のコミコミプランは、こうした店舗やカウンターでの契約者を中心に寄せられてきた「計算が大変」「組み合わせがわからない」という声から生まれた。「店頭では『とにかくおすすめを教えてほしい』という声が多かったため、ユーザーが検討しやすく、こちらからもおすすめしやすいプランをスタートさせた」(楽天広報部)。同社によれば「ウェブサイト経由の契約では通常の料金プランが人気だが、店舗への来店者にはコミコミプランが好評」だという。
格安SIMなのに「2年縛り」
楽天のコミコミプランのような、いわゆる"おまかせプラン"は、スマホにあまり詳しくない人が格安SIMをスタートするための入門セットといえる。契約内容の自由度は低いが、スマホ、高速通信容量、通話定額オプションが一通りそろったプランの中から、気に入ったものを選ぶだけでいいという手軽さがある。
ただし、従来の格安SIMにはなかったデメリットもある。
これまで音声通話とデータ通信に対応した格安SIMは、利用を開始した月から最長でも12カ月が過ぎていれば、いつ契約をやめたり他社に乗り換えたりしても、大手キャリアのような解約金はかからなかった。しかし、UQ mobileのぴったりプラン、ワイモバイルのスマホプランの場合は2年単位の契約となり、契約期間内に解約したり乗り換えたりすると契約解除料が発生する。いわゆる大手キャリアの「2年縛り」が格安SIMでも適用されることになる。楽天モバイルは、通常のプランでも契約期間があるが、通常プランでは契約期間が12カ月間、解約手数料1万584円なのに対し、コミコミプランでは24カ月間、解約手数料も1万2960円になる。
料金プランやスマホの機種が限定されているのもデメリットの一つ。FREETEL SIMのスマートコミコミも、選べるスマホはプラスワン・マーケティングが販売する機種に限られる。自分でプラン内容を組み立てたい人や、使いたい機種が決まっている人、他社のサービスと比較して乗り換えを検討するような人は、選択肢が幅広く、解約・乗り換え時の制限がおまかせプランよりも緩い通常の契約方法を選ぶのがいいだろう。
増える格安SIMの選択肢
総務省が2016年12月16日に発表した資料によれば、同年9月末時点における格安SIMの契約数は762万回線。わずか半年の間に158万回線も増えている。格安SIMの利用者が増えるにつれて、初心者でも手軽に契約できるおまかせプランの需要はますます高まっていくと予想される。
その一方で、大容量プラン(「月1万円超でも『格安SIM』 動画見放題に照準の新潮流」参照)やカウントフリー(「特定の動画・音楽視聴が安く 格安SIMの新トレンド」参照)など、必要なサービスをピンポイントで選べる自由度の高さも引き続き求められていくはずだ。
格安SIMとその料金プランにおいて選択肢が増えている今だからこそ、自分の知識や使用法に合わせて適切なサービスを見つけていきたい。
(ライター 松村武宏)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。