変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

2017年がスタートして1カ月。「今年は転職活動を始めてみようか」あるいは「今年こそ転職を実現させよう」という方もいらっしゃることでしょう。さて、皆さんが転職に向けての戦略を立てるなら「短期決戦」を目指しますか、それとも「長期戦」で臨みますか。これは、どちらがいいということではなく、その人の状況によってどちらが効果的なのかが変わってきます。今回は転職活動に長期間かけていいケース、悪いケースをご紹介します。

退職後の「ブランク」は大きな不利になることも

転職活動をする場合、情報収集を始めてから転職先企業に入社するまで、早い人であれば2~3カ月というケースもあります。しかし、年齢を重ねていくと、応募先の選択肢が限られてくること、給与面の折り合いがつきにくいケースも多いことなどから、転職活動期間は長引く傾向にあります。情報収集を開始してから数年を経て転職を実現させる方も少なくありません。

さて、私は転職活動に長期間かけた方のケースをいくつも見てきましたが、そこには「失敗のパターン」と「成功のパターン」が存在します。まずは「失敗のパターン」からお話ししましょう。

「会社を辞めて、しばらくの間は好きなことをして、それから本格的に次の仕事を探そう」――こうした考え方はリスクをはらんでいますので、くれぐれも注意してください。

このパターンは、早期退職制度を利用した方にもよく見られます。「旅行にでも行って骨休めをしつつ、ゆっくり次を探そう」と。

会社都合によって退職した場合、失業給付が長期間支給されるため、「せっかくだから満額もらっておこう」という気持ちもあるでしょう。しかも、大手企業に勤務してきた方は、「転職市場では高く評価されるはず。動き出せば、すぐに次が見つかるだろう」と楽観視しているケースも少なくありません。

ところが、休養期間を経て転職活動を始めてみると、思いがけず苦戦することになります。「大手企業出身」という経歴が、自分が思っていたほどには評価されないという現実に向き合うのです。

それでも、プライドがあること、給与などの条件で譲歩できないことから、中小企業への応募に踏み切れない方は多数。「いずれ希望に合う求人が出てくるのでは」と待ってみても、なかなかチャンスが訪れない。こうして転職活動がどんどん長引いていきます。

こうして無職期間が長くなると、希望条件に合致する求人が出てきても、選考を通過しにくくなります。求人側としては、「ビジネスの感覚が鈍っていて、業務や組織にスムーズに入っていけないのでは」「こんなに長く休んで何とも感じなかったのかな。働く意欲があるのだろうか」などと疑念を抱き、採用をためらうからです。

このように「不採用」が続くと、自信を失い、不安になり、焦りが出てきます。その結果、妥協して会社を選び、入社後にもやもや感を抱き続けてしまうはめに……。

退職後、やりたいことを思いきりやってリフレッシュするのも、もちろんいいでしょう。しかし、「休みグセ」がついてしまうと、どんどん腰が重くなっていくもの。手遅れにならないように、せめて情報収集は早めに開始し、転職活動期間を長引かせないようにしたいものです。

転職を焦らず、自分の価値を高める経験を積む

一方、転職活動開始から長期間をかけて取り組むことにより、成功につながるケースもあります。

それは、今の会社に在籍した状態で転職に関する情報を集め、「求められる人材」をつかみ、その人材像に近づくために今の会社を利用して経験を積む、というやり方です。

大手企業に勤務するある40代の方は、転職を迫られるような事情はなかったものの、「このまま今の会社にいても明るい展望はない」と考え、転職の相談にいらっしゃいました。転職のプロの目から見て、その方が転職市場で評価されそうなポイントは「海外駐在経験」でした。しかし、もうひとつ弱いのは、欧米での駐在経験しかないこと。今、海外関連の人材ニーズはアジアが中心です。現状では、経験を生かせる選択肢は限られていました。

そこで私からは「今の会社でアジア関連の事業を経験することはできませんか」と問いかけ、その方は社内でその可能性を探り始めました。そして数カ月後、その会社で、東南アジアのある国に進出する計画が持ち上がったのです。

この時点で、彼は「転職活動を続けるか、そのプロジェクトに立候補するか」をまだ迷っていました。私は「ぜひ行ってください」と背中を押し、その方はアジアへの赴任を決意。現地拠点を立ち上げ、数年かけて軌道に乗せることに成功しました。

アジア地域での事業の立ち上げやマネジメントを経験すれば、そのノウハウは他の国や異業種での事業にも応用できると評価されます。その方は帰国後、転職活動を再開。数年前に比べて求人の選択肢は倍増していました。

転職を考え始めると、その悩みを早く解決したくなり、決断を急いでしまうケースもあります。しかし、長期戦を覚悟し、情報収集を続けながら今の会社で自分の価値をさらに高めていく……という戦略をとることで、納得のいく転職につながることもあるのです。自分の今のキャリアやスキル、転職市場で求められている要素を正しくつかみ、自分にふさわしい転職活動スケジュールを見極めてください。

また、転職を何となく考え始めた段階から「自分はこういう仕事がしたい」というビジョンをいろいろな人に発信しておくのもお勧めです。

その情報が人の記憶に残れば、そういうプロジェクトで人材を求めているという情報をキャッチしたとき、「そういえばあの人、こういうことがしたいと言っていたな」と思い出してくれるかもしれません。数カ月、数年越しに、求めていた情報が寄せられる可能性もあるのです。普段からそうした種をまいておき、芽が出るのを待つというのも、希望通りの転職を成功させるひとつの手といえるでしょう。

 「次世代リーダーの転職学」は金曜更新です。次回は2月3日の予定です。
 連載は3人が交代で担当します。
 *黒田真行 ミドル世代専門転職コンサルタント
 *森本千賀子 エグゼクティブ専門の転職エージェント
 *波戸内啓介 リクルートエグゼクティブエージェント社長
森本千賀子(もりもと・ちかこ)
リクルートエグゼクティブエージェント エグゼクティブコンサルタント
1970年生まれ。独協大学外国語学部英語学科卒業後、93年にリクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。大手からベンチャーまで幅広い企業に対する人材戦略コンサルティング、採用支援、転職支援を手がける。入社1年目にして営業成績1位、全社MVPを受賞以来、つねに高い業績を上げ続けるスーパー営業ウーマン。現在は、主に経営幹部、管理職を対象とした採用支援、転職支援に取り組む。
 2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『リクルートエージェントNo.1営業ウーマンが教える 社長が欲しい「人財」!』(大和書房)、『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣』(日本実業出版社)、『後悔しない社会人1年目の働き方』(西東社)など著書多数。

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック