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東南アジアで高成長するカンボジア。熱帯の高原のなかで、巨大なリゾート学園都市の開発に挑む東京工業大学大学院出身のIT(情報技術)起業家がいる。元デジタルフォレスト社長の猪塚武氏だ。2009年に同社をNTTコミュニケーションズに24億円で売却後、シンガポールに移住、カンボジアの高原リゾートに「キリロム工科大学」を設立し、IT人材を育成しようとしている。だが、先端技術では未開の国。猪塚氏の挑戦は実るのか。

◇   ◇   ◇

「次はカンボジアじゃないかと。アジアの親日国だし、食べ物もあう。なんといっても外資規制がほとんどない。日本の100%資本で会社が作れる」。猪塚氏はこう話す。早稲田大学理工学部から東工大大学院を修了。専門は応用物理だ。しかし、いつしか政治家志望に。アクセンチュアを経て起業、デジタルフォレストを設立し、ウェブのアクセス解析技術のトップ企業として有名になったが、「起業も政治資金の確保が狙いだった」という。

キリムロ工科大学学長の猪塚武氏

キリムロ工科大学学長の猪塚武氏

社長在任中に選挙に出たため、「株主にふざけるな」と怒られた。その後、社長業に専念したが、NTTコムに全株式を総額24億円で売却した。「もう一度、海外に出て起業家として出直すことにした」という。デジタルフォレスト時代は中国とインドに子会社を持っていたが、両国は日本人が起業するには難しい国だ。中継地点に位置し、日本人の起業家も歓迎するシンガポールに居を構えた。子供3人の英語教育の場としても最適な国だったからだ。

しかし、シンガポール自体は市場は小さい。猪塚氏は「サウジアラビア、ミャンマーなどアジア・アフリカ地域の様々な国を対象に事業化を考えたが、カンボジアは外資に開かれているし、将来性にかけようと思った」という。

「カンボジアの軽井沢」に目をつける

ただ、カンボジアは経済成長率は高いが、アジアの最貧国の1つで、教育水準も高いとは言えない。事業化には様々なリスクがある。「ポルポト政権下で教師など多くの知識層は虐殺されたから、若手人材もあまり育っていない」という。1人当たりの国内総生産(GDP)はやっと1000ドルを突破した程度、どのようなビジネスモデルを構築すれば、成果が上がるのか。猪塚氏はカンボジアを多角的にリサーチした。

この結果、猪塚氏は、得意のITを活用し、人材の教育水準を高めながら、この国の豊かな自然を生かすことにビジネスチャンスがあるのではないかと考えた。

目をつけたのが首都プノンペンから車で南に2時間余りの「カンボジアの軽井沢」と呼ばれたキリロム国立公園。ここにITを核に人材教育の場をつくろうと決めた。山手線の内側の1.5倍の土地を手当てし、11年からリゾート学園都市の建設に取り組んだ。リゾートといっても主な役割は企業研修用だ。コストはあまりかけず、簡易なコテージやキャンプ場、レストランなどを逐次建設し、16年だけでカンボジア中心に1万5000人が利用したという。

そしてキリロム工科大学を設立し、猪塚氏が学長に就いた。インドなどからITに強い先生を集め、フィリピンから英語教師を派遣してもらい、学生も厳選した。「有能な学生だけを集めるために、授業料を奨学金でまかなう形にした」という。まずソフトウエア開発学科を創設したが、まだ学ぶのは77人だ。

「10年以内に学生数は5000~1万人にしたい」と語る

「10年以内に学生数は5000~1万人にしたい」と語る

企業にも資金を負担してもらう

それにしても授業料など学生のコストはどうまかなうのか。実際、学生はインターンとしてIT企業に仕事を委託してもらい、その後、就職する企業にも資金を負担してもらう形態にしたという。

しかしカンボジアといはいえ、リゾート学園都市の運営には多額の資金が必要だ。猪塚氏は資金集めのため日本企業を回るが、ネットイヤーグループ社長の石黒不二代氏など約20人が個人として投資するほか、学生の奨学金のスポンサーとしてワークスアプリケーションズなど日本の3社が名乗りを上げているという。

アジアの新興国で、日系企業がリゾート学園都市を開発したという例はほとんどない。猪塚氏は「10年以内に学生数は5000~1万人。うち2割は日本からの留学生にしたい」というが、新興国には様々なリスクがある。日本人起業家の夢はかなうのか。挑戦はまだ始まったばかりだ。

(代慶達也)

「キャリアコラム」は随時掲載です。

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