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命守るヘルメット 過酷な衝撃性能試験の中身 ヘルメットの科学(4) 北岡哲子日本文理大学特任教授

日経テクノロジーオンライン

2017/3/6

■1960年に始まった危険性定量化の試み

 頭部衝撃の危険性を定量化する試みは1960年に始まった。その目的は、危険性を平均衝撃加速度と衝撃の持続時間で定義することだった。この曲線は、過去の貴重な実験データから求められた。

 このWSTCは、縦軸に加速度の平均値、横軸にはその持続時間を取って描いた曲線だ。といえば簡単だが、実際に計測される加速度は時間とともに複雑に変化する波形であり、そこから加速度の平均値と持続時間を求めることは容易ではない。無理に求めたとしてもその値が本当に妥当といえるのか、曖昧さが生じてしまう。

 そこで、加速度波形を時間で積分し、その結果の数値の大きさで評価する方法が利用されている。計測された波形を一種の実験式によって積分し、その値が1000のときに曲線上にある、と考える。

 自動車の歩行者保護の話題に出てくる頭部傷害値(HIC)という指標も、このWSTCに根拠がある。歩行者の頭部が自動車のボンネットやフロントウィンドウなどに衝突したことを想定し、大人または子供の頭部を模擬したダミー(頭部インパクター)を試験機から発射、ボンネットなどに衝突させる。そのとき、頭部インパクターが受ける衝撃を測定し、HICとして評価する。

■危険な「装飾用ヘルメット」

 安全性に関してJISに規格があるのは、乗車用ヘルメットだけである。乗車用以外のさまざまなスポーツ用ヘルメットの安全性に関しては、製品安全協会が定める「SG規格」がある。規格内容自体は国の安全基準PSCと同等で、すなわち規定や試験方法の多くがJIS T 8133から引用された(SG規格には乗車用ヘルメットの規定もある)。

 さまざまな用途の、市販のヘルメットを買ってきて実験してみた結果がある(表2)。高さわずか50cmから落下させたにすぎないにもかかわらず、加速度が300g以上になり、底付き(ライナーの完全圧縮)現象がみられるヘルメットが半数もあった。

表2 ヘルメットの衝撃試験結果(落下高さ0.5m)

 これまで世間には、乗車用ヘルメットとしての性能を持たず、PSCマークの表示もない「装飾用ヘルメット」と呼ばれるものが多く出回っていた。2002年10月から2003年9月までの関東都市圏における調査では、産業用ヘルメットや装飾用ヘルメットなど、安全基準に適合していないヘルメットの着用数は、調査総数3553件中359件と、全体の10%を超えていたという。このようなヘルメットを着用して二輪車を運転することは、転倒時にはヘルメット非着用とほとんど同じダメージを頭部に受ける恐れがあり、極めて危険だ。

 メーカーはヘルメットの安全性をより高めようと日々努力している。そのためにも、ユーザーは真剣に性能を吟味し決めるべき――もしヘルメット購入を考えている人がいたら、迷わずそうアドバイスしよう、と心に誓った。

(次回に続く)

(日本文理大学特任教授 北岡哲子)

[日経テクノロジーオンライン2016年12月9日の記事を再構成]

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