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命守るヘルメット 過酷な衝撃性能試験の中身 ヘルメットの科学(4) 北岡哲子日本文理大学特任教授

日経テクノロジーオンライン

2017/3/6

図1 ヘルメット衝撃性能試験の様子(写真:アライヘルメット)

 頭部への衝撃から人間の命を守る――。連載「ヘルメットの科学」第4回は、アライヘルメットへの取材を基に衝撃性能試験について解説する。

 衝撃吸収性の評価試験は、人頭模型(ヘッドフォーム)にヘルメットを装着し、規定の高さから落下させ、衝撃加速度(G)やその継続時間などを計測。さらにシェル(帽体)やライナーがどの程度の損傷を受けるかを調べる。

 人間の脳は300Gを超える衝撃を受けると、致命傷に至る危険性があるといわれる。人頭模型単体にヘルメットなどを何も被せずに、30cmの高さから厚さ10mmの合板ベニヤ板の上に落下させると、衝撃加速度の計測値は400Gを超える。

 アライヘルメットは、日本のJIS(日本工業規格)と米国のSNELLの両規格はもちろん、アライ独自の規格を設けて、それを満たしているかどうかをさまざまな試験で毎日確認している。加速度計を組み込んだヘッドフォームにヘルメットを装着させた上で落下させ、平面または半球形のアンビル(衝突板)に衝突させるのだ(図1)。

図2 ヘルメット用の落下衝撃試験機(出所:筆者によるスポーツ工学講義資料)

 試験は2回実施。その2回とも、ヘルメットの同じ場所を衝突させる。落下させる高さは、JIS規格では1回目が2.5m、2回目が1.28m。SNELL規格では1回目が3.06m、2回目が2.35m。ただし、これらの高さは衝撃時の速度を得るための理論値なので、実際にはそれよりも高い位置からヘルメットを落下させる(図2)。

■衝撃の継続時間を計測する理由

 ヘルメットは、外形を形成するFRP(繊維強化樹脂)製のシェルと、発泡スチロールを主としたライナーと呼ばれる緩衝材で構成される。シェルの機能は形状を保持し、衝撃による荷重を分散することにあり、高いレベルの衝撃に対しては自らを破壊することによりエネルギーを吸収する。ライナーは、シェルによって分散された衝撃エネルギーを、不可逆的な圧縮変形により吸収する機能を持つ。

 しかし、ライナーは限界を超えた圧縮力を受けると、いわゆる「底付き現象」を起こして衝撃加速度の急上昇を招く。底付き現象が発生するのは、空気を含んだ発泡性ビーズがつぶれてエアクッションがなくなるためだ。

 ヘルメット試験の規定について、JISと海外の例を表1に示す。日本の規格は海外の基準を参照にして作られているが、許容衝撃レベル、つまり一定以上の衝撃加速度の継続時間を計測するところに特徴がある。

表1 乗車用ヘルメットの安全基準

 継続時間を測ることの根拠は、衝撃を受ける頭部の耐性曲線WSTC(Wayne State Tolerance Curve)に基づく(図3)。この曲線の下側が安全領域、上側は生命の危険がある領域とされる。ヘルメットの安全基準、頭部保護性能はこのWSTCの下側に収まることを要件として規定している。

図3 頭部の耐性曲線WSTC

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