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スタンフォード大学経営大学院の授業風景 (C)Elena Zhukova

スタンフォード大学経営大学院の授業風景 (C)Elena Zhukova

世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回はアーヴィング・グロースベック教授の4回目だ。

日本では「会社を辞めます」と退職願をメールで伝える若者が急増している。だが、どんなにテクノロジーが進化しても対面で伝えるべきことはあるとグロースベック教授は言う。パソコン、携帯電話禁止の授業で、グロースベック教授が伝えたいこととは?(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

スタンフォード大学経営大学院 アーヴィング・グロースベック教授(C)Nancy Rothstein

スタンフォード大学経営大学院 アーヴィング・グロースベック教授(C)Nancy Rothstein

なぜ今、コミュニケーションなのか

佐藤:グロースベック教授は、1960年代、ケーブルテレビの創成期にコンチネンタル・ケーブルビジョン社を創業し、全米でも有数の起業家となりました。またNBAのプロバスケットボールチーム、ボストン・セルティックスのオーナーを長らく務めていたことでも有名です。これほどの経験と知識をもったグロースベック教授が、今「会話」にこだわって教えているのはなぜなのでしょうか。

グロースベック:その理由は2つあります。1つは学生が「難しい状況での会話術」を身につければ、卒業後必ず役に立つと信じているからです。もう1つは、ここスタンフォード大学に「会話術」を教える授業がほとんどないことです。経営大学院にも医学部にも、知識を身につけたり、分析力を磨いたりする授業はたくさんあります。ところが、「会話術」を教える授業はないのです。

経営大学院の学生、医学部の学生が卒業後直面する難しい状況はそれぞれ異なりますが、私が教えているのは両者に共通する本質的な部分です。リーダーとして活躍するための「ラストワンマイル」を教えているのです。

佐藤:経営学修士(MBA)プログラムの学生と医学部の学生は、どこが違いますか。

グロースベック:MBAの学生は積極的にリスクをとりますし、こういうことを言ってみようとチャレンジしますね。彼らは社会人経験があるので、授業であまり失敗することを恐れません。一方、医学部の学生はまだ学部の2年生なので、患者やその家族と実際に接した経験がほとんどありません。ですから医師役として会話をするのに苦労しているようです。

授業中のパソコン、携帯の使用は禁止

佐藤:先ほど授業を聴講させていただいて気づいたのですが、学生は誰もパソコンを開いていませんでしたね。あえてパソコン、携帯電話禁止にしているのですか。

グロースベック:私が初回にお願いしたのです。「皆さんが使用するのを止められないのはわかっています。でも私の授業では、パソコンも携帯電話も使用しないでください」と。

佐藤:MBAの授業ではとても珍しいですよね。今、若者は何でもメールやテキストでコミュニケーションしていますが、テクノロジーの進化によって、私たちのコミュニケーション方法はどのように変わってきたでしょうか。

グロースベック:大きく変わりました。コミュニケーションそのものがより効率的になりました。たとえば、数十年前であれば、ランチからオフィスに戻ってくると、「〇〇さんから電話がありました。折り返してください」というメッセージが机の上に置いてあったものです。覚えていますか?

佐藤:もちろんです。私が働いていたテレビ局では粘着メモを使っていました。

「直接会って話すべき問題」は今もある

グロースベック:今、そのような光景はほとんど見られませんね。用件はメールで送りますし、電話をしたいときも、電話をしてよい時間を事前にメールで聞いたりしますから、何度も電話をする必要がありません。

それと同時に、コミュニケーションはより機械的になりました。廊下を歩いて相手の席まで行ったり、電話をかけたりしなくても、メールを送れば用件を伝えられる。生身の人間が対面しなくともやりとりはできるわけです。

そうは言っても、何でもかんでもメールやテキストメッセージで伝えればいいというわけではありません。どんなにテクノロジーが進化しても「直接会って話すべきデリケートな問題」というのは存在するのです。たとえば、人事評価などはその最たるものです。会話はその場で消えてしまいますが、文字は永遠に残ってしまいますから、とても気をつけなければなりません。

佐藤:メールは証拠書類にもなりますから、仕事で使用する場合は特に注意が必要ですね。

グロースベック:ビジネスの場だけに限らず、誰にとっても「きちんと会って話をしなくてはならない状況」というのはあるのです。医師が「あなたはがんで、そんなに長く生きられません」とか「あなたの母親はあと2カ月の命です」とかメールで伝えたら、受け取った側はどう思うでしょうか。あるいは、誰かに「結婚してください」とプロポーズするとき、メールを使いますか。自分や他人の人生に大きな影響を与えるような重要な事柄を伝えるとき、メールを使うべきではないのです。

佐藤:日本では、「会社を辞めます」といった重要なことも、メールで伝える若者が急増しています。

グロースベック:これはメールやテキストメッセージで伝えるべきか、対面で伝えるべきか、という点について、もっと気を配ってほしいと思います。メールやテキストで伝えてはいけないことがあることを若者には学んでほしいですね。

グロースベック教授の略歴は第1回をご参照ください。

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