年金・老後

定年楽園への扉

定年後の転職や起業 自分の能力を知る簡単な方法 経済コラムニスト 大江英樹

2017/1/12

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 サラリーマンで定年が近づいてくると、会社によって「ライフプランセミナー」などといった催しがあります。該当する定年間近の社員が参加を義務付けられたりするのですが、かくいう私もこうしたセミナーに妻と一緒に参加したことがあります。最近ではセミナーの講師に呼ばれることも度々あり、定年後の仕事や生活、健康などの話題についてお話しする機会が増えました。

■難しい自分の能力の「棚卸し」

 セミナーの中で、特に定年後の仕事についての話題になると、よく出てくるのが「自分の持っている能力が何かを見極めなさい」というフレーズです。いわゆる「自分の能力の棚卸しをしなさい」ということですが、会社による再雇用を受けず、転職したり、起業したりする場合にはこの「自分の能力の棚卸し」が極めて重要なことだといわれます。

 それはその通りであり、決して間違ってはいないのですが、多くのサラリーマンにとって、この言葉はどことなく違和感があるのではないでしょうか。事実、私も様々なライフプランセミナーでこの大切さを話してきましたが、聴いている方々の顔にはいまひとつ「納得感」がうかがえないのです。

 セミナーではグループに分かれて感想を述べたり、意見を出し合ったりするセッションもあります。そこで話を聞いていると「自分の能力といわれてもなあ……。果たしてそんなものがあるんだろうか?」という声が多いのです。

 これはある意味、正直な感想だと思います。多くのサラリーマンは自分のやりたいことや好きなことをしてきたわけではなく、会社に命じられたことをやってきたのです。そしてそれに対する評価は、時に過分であったり、時に理不尽であったりします。

 所詮人間が評価することですから、これはしょうがありません。そして部署が変われば、また違った種類の仕事に取り組むことになります。「自分自身、本当はどんな能力を持っているのか」などということを認識する機会はほとんどないのです。「自分の能力の棚卸しをしなさい」といわれても、明確に自分の能力を説明できる人はいないでしょう。まして、それをアピールすることはかなり無理なことだといわざるを得ません。

 しかしながら、転職や起業をする場合には、この「自分の能力を知ってアピールする」ことは不可欠です。だとすれば、一体どうすればいいのでしょうか?

■他人の方が案外能力を知る

 答えは簡単です。自分ができないなら、他人に棚卸しをやってもらうのです。他人は自分のことを意外に冷静に見ています。何が得意で何が不得意かをよく知っています。

 自分の友達のことを考えてみればわかるでしょう。「彼はこれが得意だ」とか「こういう仕事は不向きだ」ということが容易に思い浮かぶと思います。案外それは当たっているものです。

 会社以外の場で、できるだけ多くの人と一緒に活動することで自分の能力を相手に理解してもらうことができます。私自身、退職した時に自分が得意だと思うことでビジネスをやろうとしましたが、現実はなかなかうまくいきませんでした。

 そうこうしているうちに、人から「こんなことができないか」とか「こういうことをやらないか」といわれ、それをやってみると意外とうまくいったのです。結果として現在の仕事の多くは当初自分では思いも及ばなかった分野のものになっています。

 転職や起業にあたって大切なのは「人脈」だといいますが、それは単に知り合いが多いということを意味するのではありません。自分が気が付かない能力や適性を教えてくれる貴重な存在こそが人脈なのです。定年後も稼ぎ、老後の生活を豊かにするためにも人脈は大切なのです。

 「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は1月26日付の予定です。

大江英樹(おおえ・ひでき) 野村証券で個人の資産運用や確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。行動経済学会の会員で、行動ファイナンスからみた個人消費や投資行動に詳しい。著書に「定年楽園」(きんざい)など。近著は「投資賢者の心理学」(日本経済新聞出版社)。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。
オフィス・リベルタス ホームページhttp://www.officelibertas.co.jp/
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