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東大合格トップの開成、「楽しい」9割は本当? 開成中学・高校の研究(上)

2017/1/7

 2016年まで35年連続で東京大学合格者数トップを走る開成中学・高校。合格者数が200人を超える時もある。16年も171人と、累計合格者数は6000人に迫る勢いだ。日本の政治経済界に「開成人脈」を形成し、多数のリーダーを輩出している。東京・西日暮里にある開成を訪ねた。

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■冬休みに運動会の準備

 「おお、君らは何やっているの」。クリスマス明けの12月26日、開成中学・高校の柳沢幸雄校長(69、東大名誉教授)は大きな声でこう尋ねた。校舎の脇にある倉庫の前で4~5人の生徒らがマットをたたむような作業をしていた。

 「先生、運動会の棒倒しの準備です」と生徒が答えると、柳沢校長は「そうか、頑張れよ」と笑った。2学期の授業は22日に終了しているし、開成の運動会が開かれるのはもちろん冬ではない。毎年5月だ。「開成は運動会が終わった直後から、来年の準備を始めますから、1年中、各担当の生徒たちはああやって作業をしているんです」と柳沢校長は解説する。

 冬休みに入った開成。生徒たちは一斉に進学塾に足を向けているのかと思ったら、次々正門をくぐり抜けてくる。補習授業を受けに来るのではない。大半の生徒はクラブ活動のために学校に来るのだ。真新しい人工芝のグラウンドではサッカー部の部員が走り回り、屋内施設ではバレーボール部がジャンプの練習、体育館内ではバドミントン部と、いずれの部員も大声を上げ、気合を入れている。東大合格トップを走る開成。青白い顔をした「ガリ勉集団」と思っていたが、想像と全く違う。進学校ではなく、スポーツ校に来たかのような雰囲気だ。

開成中学・高校の柳沢幸雄校長

 「いや、部活はどこも結構強いんです」と柳沢校長も胸を張る。伝統のボート部は17年3月に全国選抜の出場が決まっている。サッカー部も中学は強く、首都圏私立中学校チャンピオンズカップでは東京都から出場した8校の一角を占めた。高校の野球部も東東京大会でベスト16に進み、「開成旋風」と話題になったこともある。

 開成中学の1学年の定員は300人、高校は同400人。ライバルの筑波大学付属駒場高校の160人、灘高校の220人と比べると、かなり多い。16年の東大合格者は開成171人に対して筑駒が102人、灘高が94人だから、学年当たりの東大合格率でいえば、筑駒がトップだ。とはいえ、開成は過去最高で205人が東大に合格するなど、合格率が5割を上回った年も何度かある。東大は1学年3000人規模のため、開成出身者は圧倒的な存在感だ。

■開成「楽しくない」は1人

 なぜ開成は35年も連続して東大合格トップを維持できているのか、その理由を柳沢校長は一言でこう答えた。「それは学校が楽しいからですよ」。拍子抜けするような返事だが、その裏付けとなるデータを見せてくれた。開成は毎年6月に「学校生活についての満足度」調査を実施している。

 16年6月のデータによると、入学3カ月後の中学1年生が「楽しい」と回答した割合は89.2%、「まあまあ楽しい」の9.3%を加えると、なんと98.5%。逆に「あまり楽しくない」「楽しくない」と回答した生徒はそれぞれ3人、1人しかいない。小学校時代は成績がトップだったが、有名進学校に入学したとたんに優秀な生徒のなかに埋没し、学校嫌いになるという話はよく聞くが、本当に開成は楽しいのだろうか。

 柳沢校長は「入学後3カ月で本物の開成生になる。実は私も感心するほど巧みに4~6月の学校行事は配置されています」と意味深なことをいう。 

マネックス証券の松本大会長も開成出身だ

 入学して1週間後。中学1年生の前に現れるのは高校3年生のまるで大人のような大先輩だ。4月下旬、先輩の指導の下、新入生全員がボートレースの対校戦の応援に駆り出される。

 開成出身のマネックス証券会長の松本大氏(53)は「中学に入学したとたんに、高3の先輩からバカ野郎、返事は、『おう』だと気合を入れられた」と振り返る。これは開成生になるための儀式だという。

 このレースは開成高校対筑波大学付属高校による定期競漕(きょうそう)大会だ。日本最古のボートレースの対校戦として知られる。「実は今、44勝44敗なんです。東大対一橋大学のボートレースよりも古く、戦争の一時期を除きますが、90年以上の歴史がある」と柳沢校長は話す。

 そして5月の「母の日」に開催されるのが開成名物の運動会だ。中1から高3まで、縦割りにして8組に分け、競い合う。応援団長や組責任者は、それぞれ大将や参謀タイプのリーダーが立候補し、選挙で選ばれる。競技や応援の練習は、それぞれの組の高3の生徒が下級生を指導する形で、種目は、騎馬戦や棒倒しなど激しい競技ばかり。

■開成DNA 高3から中1へ伝承

 ボートレースは集団での応援だが、運動会での特長は高3が中1を直接個人的に指導することだ。「先輩後輩の個人的なきずなが強まり、先輩のファンみたいになる子もいる。運動会にあんなに精を出していた先輩が東大に合格したら、じゃ自分もがんばればできる、そんな正の連鎖も生まれる」と柳沢校長は説く。高3から中1へ「開成DNA」が伝承されてゆく。

 「やはり開成のバネは運動会です」。結婚情報サービス、IBJ社長の石坂茂氏(45)はこう話す。開成時代は柔道部主将、高3の時は運動会で8組のうち黄色組の応援団長も務めた。東大を経て日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行後、2000年に起業した。

 「もちろん開成は進学校だし、スポーツの得意な人間ばかりではなく、いやいや運動会に参加している人もいます。しかし、そんな人間にも運動会では様々な役割がある。運動会をやるためみんなが人材だから、大事なんです。開成では意外なほどいじめが少ない」という。石坂氏は開成時代の後輩を参謀に据え、東証1部上場を果たした。「運動会にはチームのシンボルとして畳24畳の大きさの壁画を描く『画家』や応援歌の『作曲家』も必要です」。柳沢校長は運動会を通じて芸術分野など多様な人材が磨かれるという。

開成の校章「ペンと剣」。明治19年(1886年)に開催した最初の運動会で、「ペンは剣に優れり」と揮毫(きごう)した大旗を校旗の代わりとしたことに由来する。

 この運動会後に中間試験があり、試験直後にクラブの勧誘がスタートする。開成には同好会を含めると70余りのクラブがある。運動会で多くの先輩を知った新入生はクラブの実情もある程度分かっているので、選択しやすいのだ。

 試験の結果が出る前に大半の生徒がクラブに入る。そして6月に生徒らが自主的に企画した学年旅行を実施、同級生との人間関係も深まる。「これで各新入生は自分の居場所ができるわけです。我々も一安心というわけです」(柳沢校長)

 ボートレース、運動会を通じて先輩後輩の縦のきずなを深め、クラブで新入生の「居場所」をつくる。確かにこのやり方なら、孤立したり、「五月病」になっている隙もなさそうだ。入学後3カ月で新入生たちは開成生に生まれ変わる。このようにして日本トップの進学校の生徒としての基盤をつくるのだ。

(代慶達也)

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