根深い長時間労働 サービス社会の改革を
男女 ギャップを斬る(池田心豪氏)
2017年はどのような年になるだろうか。今年は法定労働時間を48時間から40時間に短縮した1987年の労働基準法改正から30年に当たる。1986年施行の男女雇用機会均等法は長時間労働の男性と同じように女性を働かせる法律だという批判をときどき耳にするが、実際は男女の職域統合と並行して「時短」の取り組みも行われてきた。にもかかわらず、依然として正社員の労働時間は長い。
一つの原因は経営スリム化である。日本企業は個々人の担当職務の範囲が曖昧であるため、仕事の区切りをつけにくく際限なく業務が増えるという指摘がある。だが、職務範囲が曖昧だからこそ担当を越えてカバーし合えるという面もある。そうした助け合いが難しいのは人員をギリギリまで減らしているからである。
特に最近はパートや派遣社員ではできない仕事、つまり正社員でないとできない仕事の人手が足りないという現場の声を耳にする。働き方改革の効果を高めるためには正社員を増やす必要がある。
だが、もっと根深い問題がある。顧客優先主義である。来日した外国人に夜遅くまで消えない街の灯を見せると、この国の労働時間の実情を直感的に理解する。日本はサービスを受ける者にとってはこの上ない「おもてなし」の国であるが、サービスを提供する者には厳しい社会である。企業は顧客獲得のため昼夜不問で無理な注文にも応じるサービス合戦をしている。
最近は内勤の事務など社内で業務が完結する仕事は、会議や書類作成の仕事を減らすといった業務効率化によって残業削減が進みつつある。だが、外回りの営業など顧客の都合に合わせて働く仕事はなかなか残業が減らないという話をよく耳にする。そして、そのような仕事には子育てをしながら働く社員を配置しにくく、女性のキャリアを制約しているという問題がある。働き方改革の先にサービス社会改革という課題が見える。
ある企業は社員の残業削減と休暇取得に理解を求める手紙を顧客に送った。その後の業績は落ち込むどころか上向いたという。こうした長時間労働をともなわない良質なサービス経済の実現に向けた取り組みを政府も支援すべきであろう。
〔日本経済新聞朝刊2017年1月7日付〕
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。