「なぜ?」のつもりが… 日本人が避けたい3つの英語
デイビッド・セイン「影の英語」(10)ええ、でも…
ひとつの言葉は様々な顔を持っています。日本人の言葉が意図していない意味合いで伝わることもあります。日本人向けの英語教育で豊富な経験を持つデイビッド・セインさんが、日本人が使いがちな言葉から「影にある意味」を紹介します。今回は理由を尋ねるときの英語です。
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職場では仕事の依頼をしたり受けたりという場面は、あちらでもこちらでも日常の風景です。受け方、断り方、ひと通り学んできましたが、その前に「なぜ?」という理由を尋ねる選択肢もあるはずです。
I need you to shred all these documents. 「この書類を全部シュレッダーにかけてもらいたいんだけれど」と言われて、すぐに依頼に応じるのもひとつ。でも「なぜなんだろう?」とも、つい思ってしまうのですが……。
正しい訳:どうしてでしょうか?
影の訳:何でなの?
ネイティブであれば、イントネーションは自在です。「どうしてでしょうか?」とソフトに表すことができますが、真面目に真顔で尋ねると「何でなのよ」と聞こえてしまう恐れがあります。
正しい訳:どうしてですか?
影の訳:え、何でなのよ?
How come? はネイティブのカジュアルな日常会話にはしばしば登場します。実はビジネスには不向きであるというよりも、真面目な返事を期待していないときに使う場合がよくあるので、あまりきちんとした答えは返ってこないかもしれません。
正しい訳:それはなぜやった方がいいのでしょうか?
影の訳:なぜそんなバカなことをするの?
Why should I do such a stupid thing? 「なぜそんな馬鹿なことをしなければならないの?」を省略したように聞こえます。
これなら影の意味はない!
なぜするのか、話してくれますか?
真面目に答えが欲しい場合によく使われます。
本当に大丈夫ですか?
理由を聞く場合には効果的な言い回しです。でも、その前に「承諾」のOKを入れて、Okay, but are you sure? 「分かりました。でも大丈夫ですか?」と言う方が、相手にとってはすんなり受け入れやすいでしょう。
承知しました。でも本当に必要なことですか?
少し心配なときは、このように言って相手に確認を取ってもよいでしょう。Are you sure…? でも悪くはありませんが、相手を責めるニュアンスがあります。主語をyou から weに変えて Are we sure…? にすれば相手と共に自分も主語に含めることで、「一緒に考える」ニュアンスがあります。
あなたが知らない本当の使い方――Why
日本の英語の教科書ではWhy…? と尋ねた問いには Because…で答えるようになっています。Why と Because がセットになっているわけです。しかし、実際にはWhy…? の質問にBecause で答えるととてもトゲのある会話に聞こえてしまいます。悪くすれば、争いやけんかにつながることもあります。
Why did you shred the documents? なぜこの書類をシュレッダーにかけちゃったの?
Because you told me to. だってあなたがそうしろって言ったでしょ。
*このような会話のやり取りには穏やかさもなく、お互いのイライラが感じられます。
You shred the documents? 書類をシュレッダーにかけたの?
Yeah, I thought you told me to. ええ、あなたにそうするように言われたと思ったので。
*この会話であれば、イライラ感はありません。
Why bother? やっても意味ないよ。無駄。
*「なぜわざわざしないといけないの?」のニュアンス。
Why in the world did you do that? いったいぜんたい、どうしてそんなことしたの?
*why in the world: why を強調した表現。他にもwhy on earth, why in God's nameなどがあります。
(Do you) Know why? (なぜだか)知っている?
That's why. だから~なんだ/そんなわけで~なんだ。
*「結果」を表します。
Don't ask me why, but… 理由は分からないんだけど…
*「理由は尋ねないでね」の意味。
I can't figure out why. どうしてこうなるかわかりません。
*「どうしてこのような結果になっているか分かりません」ということ。
Why me? どうして僕に?
* Why do I have to do this? 「どうして私がこれをしなければならないの?」と聞こえてしまいます。不公平だと文句を言う場合のひと言になります。
Why now? どうして今なの?/どうして今やらないといけなの?
Why, that's amazing! あら、それはすごいね!
*この場合のwhy は疑問詞ではなく、「間投詞」で「あら/まあ/おや」のように驚きを表します。
自分の気持ちを英語でニュアンス通りに表すのはなかなかむずかしいものです。やはり数多くの例文にあたり、理解し、覚えて行くのが近道でしょう。
Keep on going!
: D セイン
米国出身、20数年前に来日。 翻訳、通訳、執筆、英語学校経営など活動は多岐にわたる。企業や学校の人気セミナー講師。英語関連の出版物の企画・編集を手掛けるAtoZ(http://www.atozenglish.jp)・AtoZ 英語学校代表。長年にわたる豊富な英語教育経験を生かし、数多くの英語関連書籍を執筆。著者に「英語サンドイッチメソッド」シリーズ(アスコム)、「カシオ英会話学習機 入門ビジネス英会話 Joy Study」、「TOEIC テスト完全教本 新形式問題対応」(研究社)などの他ベストセラーも多数、累計300万部以上の著作を刊行している。日本経済新聞、朝日新聞、毎日新聞などでコラムを連載。NHKの日本語学習番組にレギュラー出演。英語教育推進事業団(EEPS) の学術顧問。受験生向けの英語学習サイト(http://david-thayne.com/)と日本文化を英語で紹介する英語学習サイト(http://www.wakaru.guide/ )を監修。