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90秒にかけた男

古舘さんTV通販に挑戦 「伝えられず」売り上げ8割 ジャパネットたかた前社長 高田明氏(12)

2017/1/4

 通信販売大手ジャパネットたかた。前社長の高田明氏はテレビ通販王国を一代で築き、お茶の間の人気者ともなりました。朝から晩までテレビカメラの前に立ち続け、「伝える」ということを追究してきた高田氏。同じように「伝える」ことを追究してきた喋(しゃべ)りのプロと、「伝えたい」という気持ちにあふれる学生と接し、「伝える」ことについての思いを新たにします。

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 今日は最近の私のテレビ活動についてお話ししましょう。すでに私は通販番組のMC(総合司会)から降りていますが、フジテレビからアナウンサーの古舘伊知郎さんがジャパネットたかたの通販番組で商品を売る企画の提案がありました。

 古舘さんが司会を務める「フルタチさん」というバラエティー番組の企画で、彼がジャパネットのMCとして実演販売に挑戦して、商品の売れ行きを試そうという趣向です。古舘さんが「ぜひやってみたい」ということでしたのでお受けしたところ、ロケのために長崎県佐世保市までわざわざ来てくださいました。その模様は2016年12月11日に地上波テレビで放映されました。

■喋りのプロ、通常のジャパネットの80%

ジャパネットたかた前社長 高田明氏

 結果をご存じの方も多いでしょうが、古舘さんは小型掃除機「レイコップ」に挑戦され、成績はジャパネットの通常の売り上げの80%でした。

 これを多いと見るか、少ないと見るか分かれると思いますが、私は「視聴者は古舘さんがどんな紹介、どんなことをするかに関心がいってしまって、電話をかける手が止まってしまった」のだと感じました。

 数々のバラエティーやニュース報道番組で経験を積まれてきた古舘さんが、異分野のショッピングに挑戦して果たしてどうなるか。多くの方が興味を持たれたと思います。

 実際、古舘さんの語りはうまいですよね。商品説明でも、レイコップの本体カラーが赤、白、青の3色あるのですが、それをフランスの国旗の色にたとえてみたり、UV(紫外線)ランプのブルーの色を米高級ブランドの「ティファニーブルー」に形容したりするなど、記憶に残るようなプレゼンでした。

 間の取り方も絶妙。話の先を急がず、頭にメッセージが定着するような間合いで進行され、「やっぱりプロだな~」と率直に思いました。

 ただ、ショッピングはビジネスですから、視聴者に買っていただく、消費行動につながらないと成功と言えません。そこの視点というのが、報道を伝えるという「伝え方」とは微妙に違う部分です。

 番組では、通常の通販ショッピングと同じように、視聴者からの注文のかかり具合を円グラフで示して古舘さんにリアルタイムで見ていただきました。ショッピングで「伝わった」と言えるのは、お客さんからの注文があった時だからです。古舘さんも一瞬一瞬が勝負のショッピングというものがどういうものか感じられたと思います。

 冒頭で言いましたが、見ている人は「古舘さんがどうレイコップを説明するか」という点に100パーセント、頭がいってしまい、その時点で通販という番組は消えてしまっているのです。

■視聴者の関心をいかにひきつけるか

「私は商品を紹介するために生きてきた人間です」とコメンテーターなどの依頼は断っている

 これは私の経験でも思い当たることがあります。番組で「笑い」を取り入れてプレゼンしてみようとしたことがあります。絶対うまくいきませんでした。笑いの方に視点が向いてしまい、商品を売ることが目的でなくなっているのです。

 そうした事情があって、古舘さんの実演販売も80%という結果になったのだと思います。値段を「1万9980円です」といっても、ジャパネットのMCが言えば、モノを売るMCだから、視聴者も「ああ、ここまで安くなっているのか」と素直に受け取るわけです。ところが、古舘さんが「8000円引きます」「1万9980円です!」といっても、その時に古舘さんがどういう表情で言うだろうか、どんな言い方をするだろうか、という点に視聴者の関心がいってしまって金額に関心が向いていないのです。

 視聴者は買おうという意思を持っていないのだから売れない。「伝える」ということが一筋縄でいかないところです。

 買う目的でみているのではなく、視聴者は古舘さんのプレゼンそのものを見ている。通販番組が「フルタチさん」の番組の一コマになってしまっては商品が売れないのも道理です。番組の中で古舘さんが「もう一度挑戦する」とおっしゃられていました。本当に実現するかどうかは分かりませんが、来ていただいたら本当に大歓迎で、私からも「ぜひ来てください」とお伝えしたいですね。

 私も報道番組にチャレンジしたり、番組のコメンテーターとして発言したりするといった企画のお申し出をたまに受けることがあります。ほとんどお断りしています。

 私は商品を紹介するために生きてきた人間です。社会問題や政治の問題を語る立場ではないので、おそらく番組に出演しても誰にもプラスにならない。経営者として景気の動向に触れてきた人間ですから、経済問題に対して取材を受けたことはありますが、「政治はどうだ」「オリンピックはどうだ」と私がコメンテーターとして何か発言しても視聴者に響くことは何も言えません。やっぱり、その世界を知り尽くしている人がやるのが一番です。

■「伝えたい」学生、伝える難しさに直面

「何を伝えるか、誰に伝えるか、それをどう伝えるか」それは今も感じている課題だ

 年末にはもう一つ、NHKの「東北発未来塾」という番組に出演しました。東北の大学生が東北の良さ、魅力を発信する3部構成の企画で、私はアドバイス役です。

 4人の学生が東北の食や町について調べ、プレゼンしました。最後の審査ではジャパネットのMCがプレゼンを評価しました。

 「何を伝えるか、誰に伝えるか、それをどう伝えるか」という3つの課題で学生が苦悩を味わうのですが、それは私が今も感じている「伝えることの課題」です。

 常にそういう視点を持って、伝えることを学んでいかないと、伝えた「つもり」になってしまい、伝わらない。それはこの「出世ナビ」でずっとお話ししてきたことです。

 番組を見られた方もおられるでしょうが、泣き出す学生もいれば、持ち時間を2倍以上もオーバーしても何を伝えたかったのか分からなくなる学生もいる。不完全燃焼で終わって悔しさを感じた学生もいます。その中で人生を学んだ、伝える困難を学んだっていうふうになってくれればいいと思います。

 そのなかの1人の女子学生は、東日本大震災の津波で大きな被害に遭った宮城県女川町をプレゼンのテーマにしました。練習では伝えたいことが多すぎてメッセージが漠然としていたので、本番では写真もモニターも使わずに、一人しゃべりをするように指示しました。厳しい注文だと思いますが、練習の成果もあり結果は5人の採点者(持ち点は1人10点)の合計で39点。かなりの高得点です。

 高得点をつけたMCは「楽しそうに東北の魅力を語っていて感動した」と太鼓判を押しました。その一方で、別のMCは「リハをこなした劇(プレゼン)を演じているようだ」として減点対象にしました。見る人によって見方は変わります。この番組で学んだことを彼らがこれからの人生に生かしてほしいですね。

高田明(たかた・あきら)
1971年大阪経済大経卒。機械メーカーを経て、74年実家が経営するカメラ店に入社。86年にジャパネットたかたの前身の「たかた」を設立し社長。99年現社名に変更。2015年1月社長退任。16年1月テレビ通販番組のレギュラー出演を終える。長崎県出身。68歳

(シニア・エディター 木ノ内敏久)

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