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世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回は心理学からマーケティングを考えるジェニファー・アーカー教授の5回目だ。自ら提唱した社会活動を成功に導くフレームワーク「ドラゴンフライエフェクト」の活用法や、大学教授と社会活動の双方で活躍する理由を語る。(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

意外にそろわない4つの羽

スタンフォード大学経営大学院 ジェニファー・アーカー教授

スタンフォード大学経営大学院 ジェニファー・アーカー教授

佐藤:社会活動の中でも、成功するものもあれば、失敗するものもあります。その違いは何でしょうか。

アーカー:交流サイト(SNS)上では、多くの人々が「世の中に役立ちたい」という思いから、様々なストーリーを伝えています。ところが、4つの羽がすべてそろったキャンペーンというのは意外に少ないのです。(1)焦点を絞る(2)注意を引く(3)魅了する(4)行動を起こさせる――という「ドラゴンフライエフェクト」を実行すれば、キャンペーンはどんどん広がっていきます。

多くの人々が「すばらしいミッションを達成するためのプロジェクト」に参加できるなら、自分も参加したいと思っています。要はその機会をうまく提供できるかどうかなのです。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤:日本では、「難民の子どもたちを救ってください」「交通遺児に奨学金を」「難病の◯◯ちゃんに海外手術費用を」など様々な団体が、駅前で募金活動をしています。同じ日にいくつもの団体が並んでいることもあり、募金をめぐる競争が激しくなっているように思います。あまたある慈善団体の中から、自分の団体を選んでもらうには、どうしたらよいのでしょうか。

アーカー:まずは、何を達成するために、何をしてほしいのか、目的をはっきり伝えることです。ボランティアなのか、ドナー登録なのか、寄付なのか。お金は最もハードルが高いですから、すぐに寄付してもらうのは難しいかもしれませんが、時間をかけて訴求していけば、何らかの形で協力してもらえる可能性もあります。

私たちが行った調査(注1)では、多くの人々がミッションに共感し、寄付しているキャンペーンには自分も参加したいと思うようになることが分かっています。特に自分と同じような属性の人が寄付していると聞くと、社会貢献したいというアイデンティティーが刺激され、自分自身の時間とお金を提供したいと思い始めるのです。

寄付以外から働きかける方法も

佐藤:それで「24時間テレビ」のようなテレビ番組は多額の寄付金を集めるわけですね。多くの人々が参加していますから「この人が募金しているなら、私も」という気持ちが芽生えやすいですし、結果を映像で見せてくれますから、寄付の成果が分かりやすい。でも、SNSを使えば、同じようにミッションやストーリーを効果的に伝えることは可能だということですね。慈善活動において、寄付を得るのは、最もハードルが高いとのことでしたが、それを乗り越えるのによい方法はありますか。

アーカー:寄付以外の方法でまずはお願いしてみるのも手です。別の調査(注2)では、「ボランティア活動に参加しませんか」と先にお願いした上で、「それが無理でしたら、せめてお金を寄付していただけませんか」と聞いたほうが、ただ「お金を寄付してください」と頼んだ時よりも、結果的に多くのお金を寄付してくれることにつながるという結果が出ています。お願いする順番というのも大切なのです。

佐藤:アーカー教授はスタンフォードの教授として活躍するかたわら、様々な社会活動にも熱心にとりくんでいます。最後にアーカー教授の「シグニチャー・ストーリー」(語り手である企業や個人の強みを象徴する物語)を語っていただけますか。

アーカー:私の夢はがんの専門医になることでした。がんで苦しむ人々の数を減らしたいと思い、医者をめざしていたのです。ところが、結果的にマーケティングの教授になることを選びました。なぜなら、私にとっては、仕事もプライベートも両方大事だったからです。良い母、良い妻、良い友人であることと、医師としてがん治療に邁進(まいしん)すること。この2つは両立できない、と思いました。

家庭と両立しつつ世界にインパクトを

素晴らしい家庭を築きながら、世界にインパクトを与える仕事をしている両親の姿を見ているうちに、父と同じように私もマーケティングの教授になろうと思い始めました。自分のスキルは、行動心理学の分野で生かせるはずだ、と思ったからです。そのほうが医師になるよりもずっと世の中にインパクトを与えられると。どうしてもマーケティングの教授になりたい、という情熱があったわけではありません。現実的な選択だったのです。

マーケティングの教授になってからも、何らかの形でがん患者の役に立ちたいという思いは変わりませんでした。そこで、私は夫とともに「ドラゴンフライ エフェクト ソーシャルメディアで世界を変える」を書き、2011年にはスタンフォード大学で12人の学生とともに「100K Cheeks」という骨髄ドナー登録キャンペーンを立ち上げました。サミールとビナイのプロジェクトは終わっても、別の形で続けたいと思ったからです。その結果、ソーシャルネットワークとストーリーの力で、1年間で、11万3000人もの人が骨髄バンクにドナー登録をしてくれたのです。

これが私のシグニチャー・ストーリーです。私がこのストーリーを通じて伝えたいのは、こんなメッセージです。「もし自分の情熱や目標とは違った仕事をしているとしても、夢をかなえることはできます。今の仕事でどうやったら夢をかなえられるかを考えたらいいのです。あきらめないでください。常に自分自身を再定義しつづけてください」

=この項おわり

(注1)"Why Do People Give? The Role of Identity in Giving" Jennifer Aaker, Satoshi Akutsu, Journal of Consumer Psychology. Vol. 19, Issue 3, Pages 267-270, July 2009

(注2)"The Happiness of Giving: The Time-Ask Effect Restricted access" Wendy Liu, Jennifer Aaker, Journal of Consumer Research, Volume 35, Issue 3, October 1, 2008

※アーカー教授の略歴はシリーズの1回目「あなたの伝える力を飛躍的に向上させるストーリー戦略」をご参照ください。

ドラゴンフライ エフェクト ソーシャルメディアで世界を変える

著者 : ジェニファー・アーカー, アンディ・スミス
出版 : 翔泳社
価格 : 2,160円 (税込み)

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