相続・税金

ぼくらのリアル相続

年末年始 相続の話の切り出し方 親の気持ち思いやる 税理士 内藤 克

2016/12/30

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 今年も残すところあと2日。年内の仕事も無事終了し、帰省して故郷でホッと一息つかれている方も多いことと思います。帰省といえば、久々に実家の両親と会うと年々シワが増え、どんどん年を取っていく姿に感じ入るものがあるでしょう。お互いの近況報告の後は、多少お酒の入ったおめでたい状況ですので、じっくりと今後(相続)の話をするにはいい機会ではないでしょうか。今回は、子供の立場からどうやって相続の話を切り出したらいいかを考えてみました。

■人間は「説得されると拒否してしまう」

 先日、あるセミナーを受講しました。講師はかつて訪問販売や保険のセールスで全国一になるなどの経験を持ち、自らの実績をもとに「営業マン研修」を数多く行っている方です。

 この講師によると、セールスの基本は「しゃべることではなく、聞くこと」「説得からでなく同調からである」ということです。セミナー中、彼は何度もこのフレーズを繰り返していました。会計事務所で例えれば「おたくの見積もりは高いねえ」と言われたら、それに対し「いいえ、そんなことありませんよ」と反論するのではなく、「そうかもしれません」から始めなければ相手の心を開くことができないというのです。最終的には事務所のサービス内容や対応力の違いを理解してもらうにせよ、途中で「なんかこの人に説得されそうだな(同調してくれないな)」と思った瞬間に、人間は心を閉ざしてしまうという話でした。

 私はこの話を聞き、相続の話も同じかもしれないと感じました。「お父さん、あのアパートは誰に相続させるの?」「みんながもめないように遺言を書いてよ」と自分の要求ばかり耳元で話しても、「お正月というとその話か」と拒否されてしまいます。同調することから始めなければならないのです。

■「相続税が大変だよ」は本人には響かない

 一方、我々のところに相続対策の相談に来られる方(財産を残す側)の興味・関心はどんなものでしょうか。おそらく「自分のこれからの生活をまず確保したい」があり、次に「自分の子供たちにもめてほしくない」、事業を行っている経営者であれば「会社をしっかり守ってもらいたい」がくるものでしょう。

 よく我々税理士が税額試算をして「こんなに相続税がかかります。対策をしなくては大変ですよ」と伝えても、「だって子供らは苦労しないで財産をもらうんだから、仕方がないですよ」とおっしゃる方が意外に多いのです。「計画的に生前贈与をしましょう。基礎控除(年間110万円)の範囲内でやっている場合ではないですよ」と伝えても「まだいいや」と。これは「説得されると拒否してしまう」のパターンです。まして子供が「お父さん、このままでは相続税が払えないよ」と言っても「借金がないだけマシだ。自分で考えな」と言われてしまいます。

 つまり、まずは「自分の老後が心配なんだよ、そこをわかってくれよ」という親の気持ちを察して同調する必要があるのです。

 老後、誰の世話にもならずに済むようなお金のある人は別として、老後生活の心配は「寝たきりにでもなったら生活資金が足りるのか」と「孤独な老人になるのはいやだ」の2点です。あなたの親御さんは「生前贈与を繰り返したあげく、自分自身の生活資金が足りなくなり、さらにあてにしていた子供たちからも冷たくされたらどうしよう」と考えているかもしれません。そうだとしたら、自分の死後の税金問題なんぞを考えている場合ではないはずです。まずはこれからどう一緒に生きていくかの相談に乗ってあげましょう。

■「父さん、来年はいくつになるんだい?」から始めよう

 足腰の弱ってきた高齢者はちょっとした段差で転んだりするものですが、他にも突然の事故に巻き込まれたり認知症を患ったりしたら、いろいろとお金が必要になってきます。親に長生きしてもらうためにも、「どこの銀行に預金しているのか?」「医療保険や障害保険はどこの保険会社で加入しているのか?」「利用している証券会社はどこか?」など、生きるために必要な情報は聞いておく必要があります(これに関しては親御さんの協力も得やすいはずです)。

 また財産に関する情報だけでなく、「かかりつけのお医者さんはどこ?」「もしものとき、真っ先に伝えてほしい友達は?」などを聞いておくのも必要です。財産の預け先がわかればそれを一覧表にできますし、万が一の場合の対応もできます。

 ですので、大みそかには「お父さん、他でもないけど相続税が……」ではなく「来年はいくつになるの?」と聞いてみましょう。そこから「ワシももう〇〇歳だ、早いもんだよ」と親自身も年齢を意識し、「来年は〇〇がしたい」「元気なうちに〇〇に行きたい」とやりたいことの話になり、そして「ワシに万一のことがあったら……」と、「生きるため」の話から「死んだら」の話に進むこともよくあるのです。

 このお正月は、「生きようとする親」とじっくり向き合って話すところから始めてみてはいかがでしょう。

内藤 克(ないとう・かつみ) 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。90年に税理士登録、95年に東京・虎ノ門で個人税理士事務所を開業。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。事例中心のわかりやすい講演にも定評あり。「士業はサービス業である」ことを強く意識し、顧客満足度を追求。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行っている。趣味はロックギター演奏。

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