将棋・最年少プロ藤井四段、デビュー戦で大器の片りん
史上最年少で将棋のプロ棋士になった中学2年生、藤井聡太四段(14)がプロデビュー戦を白星で飾った。敗れた元名人で現役最年長76歳の加藤一二三・九段は「素晴らしい才能の持ち主」と絶賛する。経験豊富な大先輩が得意とする矢倉戦法を真っ向から受け止めての勝ち方は、将来の将棋界を担いうる大器の片りんをうかがわせた。
第30期竜王戦の予選1回戦として24日、東京都渋谷区の将棋会館で指された。約50人の報道陣が集まった4階特別対局室に、緊張気味の藤井四段が詰め襟の学生服姿で現れたのは午前9時25分。対局開始の35分も前で「大切なデビュー戦で万一にも遅れないようにしました」と初々しさをのぞかせた。加藤九段もそれから5分とたたずに入室。この対局を「棋士冥利に尽きる」と心待ちにしていた様子が、気合の入った表情や駒を並べる力強い手つきから伝わってきた。
戦型は先手番の加藤九段が得意とする相矢倉に進んだ。拮抗した競り合いのなか藤井四段は小刻みに時間を使い、勝負どころでじっくりと長考する。この対局は持ち時間が5時間ずつ。これまで藤井四段が戦っていた棋士養成機関の奨励会の三段リーグは1時間30分ずつなので、慣れない長時間のペース配分を心配する向きもあったが、「むしろ楽しみにしていた」と豪胆さもみせる。
相矢倉の戦い方はかつて主流だったが、最近では少なくなった。しかし藤井四段は「矢倉で教わりたいという気持ちが強かった」。加藤九段が62年のプロ生活で積み重ねてきた研究や経験を少しでも吸収しようという意気込みなのだろう。実戦が学びの場になると話す棋士は少なくないが、相手の土俵上で戦って、さらに勝つというのは並大抵のことではない。実際、慣れ親しんだ戦い方となった加藤九段の駒は躍動し、「途中まで猛攻撃を受ける、相手の展開になった」と藤井四段も認める。
その攻めをうまくかわし、反撃に転じて素早く寄せきれたのは、卓越した「読み」の能力を発揮できたからだろう。藤井四段は詰め将棋を解く正確さとスピードを競う「詰将棋解答選手権」で2015~16年、トッププロらを破って2連覇したほどだ。控室を訪れた渡辺明竜王・棋王(32)も「読みが入った手を指している」と評価していた。
昼食休憩中にはアクシデントもあった。両対局者が早めに席に戻ったので勘違いしたのか、再開時刻になる前に加藤九段が指してしまったのだ。反則ではないが、めったにない珍事。周りが騒然とするなかで藤井四段は動じるそぶりも見せず、次の手を考え込んでいた。別室で対局を解説した飯塚祐紀七段(47)は「14歳とは思えない落ち着きぶり。時間の使い方をみても熟練のプロのよう。すごい人が出てきたと思う」と驚きを隠さない。
5歳で将棋を覚えた藤井四段は、近所の将棋教室でめきめき強くなり2年でアマ初段に。10歳でプロを目指す奨励会に入会し、勝ち抜きが厳しいことで知られる三段リーグを最短の1期で突破した。今年10月、史上最年少14歳2カ月でプロ入りし、5人目の中学生棋士となった。
中学生プロ第1号は加藤九段。1954年に14歳7カ月でプロ入りし、藤井四段に抜かれるまで最年少記録を保持していた。その後も20歳で名人に挑戦するなど「神武以来の天才」と称され、名人など数々のタイトルを手に入れた。続いて中学生棋士となった谷川浩司九段(54)、羽生善治王座(46、王位・棋聖)、渡辺竜王・棋王もタイトル獲得数は2桁に上る。
加藤九段とのデビュー戦の対局を終えた藤井四段は「偉大な先輩に教えてもらえて光栄。勝てたのはうれしいけれど、これからが険しい。将来タイトルを取りたいので、まず自分の実力をもっと上げたい」と力強く語った。そして「これからプロ棋士としてやっていくと改めて痛感した」と付け加えた。長い棋士人生は始まったばかりだ。
(文化部 山川公生)
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