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宇多田ヒカル 新アルバムは「じらし」戦略で大成功

 
日経エンタテインメント!

2017/1/5

1983年生まれ。米国出身。98年デビュー。99年の1stアルバム『First Love』が国内外デジタル合わせ1000万枚以上出荷の大ヒットに。10年より活動休止。その間、母の死、結婚と出産など様々な経験をした

 8年ぶりのアルバム『Fantôme』が約58万枚のヒット(オリコン調べ、16年12月28日現在)となった宇多田ヒカル。近年のヒットCDは、様々な特典を付けた複数バージョンでの展開が主流。特典なしの1形態のみでの50万枚超えは異例のヒットといえる。

 比類なき才能がヒットした最大の理由だが、6年ぶりの復帰という話題に頼らず、「楽曲のみ」「コメントテキスト」「歌ってしゃべる映像」と宇多田の露出を段階的に増やしていったメディア戦略も功を奏した。「いきなり宇多田がテレビに出演するなど視覚に訴えると一過性の話題となり、作品の魅力が伝わりにくい。彼女の最大の魅力である楽曲、特に“歌声と歌詞”がフォーカスされるようにと考えた」と語るのはデビュー以来、宇多田を手がけるユニバーサルミュージックの梶望(のぞむ)氏だ。

 活動開始直前の3月にSNSなどでユーザーが過去曲について語れる場を創出し、ファン心理をウォーミングアップ。4月4日にNHK朝ドラ『とと姉ちゃん』と『NEWS ZERO』(日テレ系)で楽曲のオンエアが開始されたが、この時点では楽曲以外での露出はない。しかし平日の定刻に繰り返し流れたことで、歌声と歌詞が多くの人々の心に刷り込まれた。

■亡き母への思いを込める

 一方でファンとはSNSでより密度の濃いつながりも持った。ツイッター経由での質問に宇多田が答える企画「ヒカルパイセンに聞け」がそれだ。

 9月のアルバムリリース直前、ついにテレビに本人が登場。8年ぶりの出演が話題となった『ミュージックステーション ウルトラフェス 30 th』(テレ朝系)では映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の主題歌『桜流し』を歌唱したが、そこでコアファンの心をくすぐる工夫も。「1日限定公開のプロモーションビデオの制作を、映画を手がけたスタジオカラーに依頼。1日で約140万回再生された」(梶氏、以下同)。『SONGS』(NHK)では新曲を披露したが、ここでテレビでは初めて『Fantôme』が「亡き母(藤圭子)への思いを込めた作品」と自ら告白。楽曲の深みがぐっと増した瞬間となった。

『Fantôme』タイアップ5曲や椎名林檎らとのコラボ曲を含む全11曲。(ユニバーサル/3000円・税別)

 『Fantôme』はiTunesチャートでアジア各国で1位、米国でも3位となり、国際的なヒットとなったが、これは全くの想定外だったという。「活動休止の間、宇多田の意向によりYouTubeですべてのプロモーションビデオをフルで視聴可能にしていた。それが海外でのファン増加につながり、今回のワールドワイドでのヒットの素地になったのでは」。

 12月9日にはバーチャルリアリティーを活用してファンと交流する斬新な企画「30代はほどほど。」を実施、31日は『NHK紅白歌合戦』に初出場するなど、話題が途切れず、宇多田フィーバーは続きそうだ。

(ライター 橘川有子)

[日経エンタテインメント! 2017年1月号の記事を再構成]

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