今年自己ベスト狙うランナーがすべき3つのこと
明けましておめでとうございます。ニューイヤー駅伝や箱根駅伝に触発されているランナーの皆さんも多いのではないでしょうか。
新たな年を迎えて、今年のランニングに対する目標や年間スケジュールを考えていらっしゃる方もいると思います。「今年こそサブフォー[注1]を目指すぞ!」などと、目標を高く持って走り始めている方もいるかもしれません。
レースに出場するからには、誰しもタイムを伸ばしたいですよね。記録が出れば成長を感じる。これは人間にとってうれしいことですし、ランニングは数字で成長を感じやすいスポーツです。では、レースでベスト記録を出すには、どのように年間スケジュールを考えればいいでしょうか。
[注1]フルマラソンで4時間を切るタイムのこと
"数打てば当たる"という考えでは、自己ベストは出ない
大会の前日などに開かれるトークショーなどで市民ランナーの方にお話を伺っていて気づくのは、出場する大会すべてにおいてベスト記録を目指している人の多さです。「すべてのレースで全力を尽くしていれば、どこかの大会で自己ベストが出るだろう」という考えで、年間スケジュールを組まれているのです。
でも実は、それはものすごく無駄な考え方で、ベスト記録が出る確率はとても低いと私は思います。中には、エントリーしたレースすべてに出場するために、足に痛みがあるのに無理をしてしまう人もいます。本当に自己ベストを狙うのであれば、足が痛いときは出場を取りやめて、ケガを治すという選択が賢明です。
公務員ランナーの川内優輝選手が多くのレースに出場し、記録を出しているので、その姿に触発された市民ランナーは少なくないように思います。しかし、川内選手にとっての"本命レース"は、あくまでも世界レベルの大会。彼にとってそれ以外のレースは練習の一環で、1つひとつ目的を持って挑んでいます。ベスト記録を狙って、闇雲に全力で走っているわけではないのです。
最初に本命レースを決め、緊張感と集中力を持って挑む
レースでベスト記録を狙うなら、"数打てば当たる"の精神を捨て、1年のうち1~2本のレースに本命を絞り込みましょう。その方が疲労は少ないですし、何よりもその本命1回にかけようとする気持ちから緊張感と集中力が高まり、記録が出やすいと思います。
プロのランナーも数カ月間に複数のフルマラソンに出場することなどありません。私も記録を狙うのは、オリンピックの選考会。そしてオリンピック自体は記録ではなく"勝負する場"と決めていました。そのほかの大会はすべて練習とみなして出場し、それぞれ目的を持って挑んでいたのです。
では、本命レースはどのように選んだらいいでしょう。「気候がいい」「高低差が少ない」「コースが広くて走りやすい」「プロのランナーが数多く出場する国際レースと絡めた大会」など、記録の出やすい条件はいろいろあると思います。
もし年2本と決めて挑むなら、春と秋のレースに絞るといいですが、私の経験上、春より10、11月の秋のレースの方が記録は出やすいように思います。春のレースだと練習期間である冬に食べ過ぎて体重が増えがちな一方、秋のレースであれば、夏は暑いですが体重は増えにくく、練習もそれなりにできるからです。
本命以外のレースは"練習"と考え、目的を持って臨もう
記録を狙う本命レースを決めたら、練習代わりになるレースを選び、年間スケジュールを立てるといいでしょう。「このフルマラソン大会は、20kmまで誰かに引っ張ってもらってタイムを重視し、後半はクールダウン代わりに走ろう」とか、「この5kmのレースではスピードを重視しよう」「この10kmレースのこの坂道を意識して走ろう」など、目的を明確にしてレースに挑みます。
レースを練習として使うメリットは、練習の質が格段にアップすることです。1人で走って練習するよりも、多くの人と一緒に走った方が、自分を追い込んだり、集中して走ることができます。
テーマを決めることで特徴や弱点が見えてくる
本命レースまでの準備期間は、できれば5、6カ月をみておいた方がいいと思います。そのうち、走る期間は4カ月~4カ月半ぐらいをみておきましょう。
例えば5月のレースに照準を定め、10月にフルマラソンに出場した場合、11月~12月はレースに出場した疲れた体をほぐす程度のジョギングで体調を戻し、その後、腹筋・背筋といった補強トレーニングを意識して行うといいでしょう。
1月頃から走る距離を少しずつ増やし、体や足に刺激を与え、モチベーションが続くようにするためにも、3~4月辺りに練習用のレースを予定に入れてみましょう。5月の"本命レース"が近づいた時期であれば、スピード練習を目的としたレースを組み込めばいいと思います。
例えば、ハーフマラソンでは最初の10kmをスピードを上げて走り、後半の10kmはクールダウンとして走る。あるいは、最初の10kmは抑えて、後半の10kmはスピードを上げて走るなど、様々なバリエーションの練習が考えられます。すると、「普段は1km6分程度のスピードだったけれど、レースで人に引っ張ってもらったら1km5分で走れた」「坂道を走った後の足の疲労感がとても大きい」など、自分の特徴や弱点が発見できます。
明確な課題が見えてくることが、レースを練習に使うメリットです。
仕事が忙しくて、なかなか計画通りに進めないこともあるでしょう。だからこそ、闇雲にレースに出るのではなく、本命と練習のレースを明確に区別し、効果的な練習をして本番で記録を狙う。そんな発想への切り替えに、今年はチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
ポイント1:闇雲にレースに出ない
闇雲にレースに出て、すべて全力で挑んでも疲労は残り、緊張感も高まらないため、そう簡単に自己ベストは出ない。"数打てば当たる"精神を捨てよう。
ポイント2:"本命レース"を年1~2回に絞る
記録を狙うためのレースを年1~2回に絞ろう。疲労が溜まらない一方、集中力や緊張感も高まるため、記録も出やすくなる。本命レースは、気候やコース状況など、記録が出そうな条件かどうかを見極めて選ぶといい。2個のレースを選ぶなら春と秋がベスト。1個に絞るなら、秋がベスト。
ポイント3:レースを練習代わりに使い、目的を持って挑む
本命レースが決まったら、その前の練習として挑む大会を選ぶ。「今回は持久走」「次回はスピード練習」など目的を持って、レースにチャレンジしよう。練習にバリエーションがつくと、「後半が弱い」「スピードがない」などの自分の特徴や弱点などが見えてきて、課題を克服するための練習につながる。
(まとめ:ライター 高島三幸)
元マラソンランナー。1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。
[日経Gooday 2016年1月4日付記事を再構成]
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