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なやみのとびら、著名人が解決!

されたらうれしいこと、人はしてくれない 著述家、湯山玲子

 
NIKKEIプラス1

2017/1/12 NIKKEIプラス1

ゆやま・れいこ 著述家、プロデューサー。東京都生まれ。「女装する女」など著作多数。クラシック音楽のイベント「爆クラ!」を主宰。テレビのコメンテーターとしても活躍。

 誰にでも、自分がされたらうれしいことをすることをモットーにしています。でも、他の人は約束をすっぽかしたり、困ったときだけ連絡してきたり。時々むなしくなります。見返りを求めるわけではないですが、私も心を少しぽかぽかさせたいのです。考え方を助言してください。(千葉県・女性・30代)

 長いこと生きていると、世間一般に言われている「良きモットー」の中には、良いどころか、人生を損ねてしまうものが少なくないことに気がつきます。その最たるものが「人様に迷惑をかけてはいけない」というもの。

 コレを厳しかった祖母にたたき込まれ、骨身にしみている私ですが、この通りに生きていると、自分の欲求というものは、それによって傷ついたり、歓迎しない人間たちを前に、すべて我慢することになり、結局、自分の人生を生きられなくなってしまう。人間は生きていれば迷惑をかける存在なので、迷惑同士の調停こそが大事である、というのが、祖母の教えを卒業した私の実感なのです。

 さて、相談者のモットーも、実は同じような危険さをはらんでいます。この行為には「それをされた人間が必ず笑顔になり、感謝して、自分との間に暖かい空気が流れる」という予定調和が入っています。しかし、果たして「自分がされたらうれしいこと」というのは、誰に対してもうれしいことなのか?

 特に生き方が多様化している現在、ある人間にとってはうれしいことが、違う人にとってはプライドが傷ついたり、腹立たしいおせっかいになったりもする。異文化の外国人ならば、そのあたりは確実に違ってくるわけで、海外生活で挫折する人の多くは「自分が思った良きことの返礼がない」ことの怒りが引き金になることも多いのです。

 そして、人は「自分がされたらうれしいこと」をするという相談者と同じモットーでは必ずしも生きていません。生きる指針もまたそれぞれで、大切なのは、自分がどこまで違う考え方の人間に対して寛容になれるかどうか。寛容の尺度もまた人それぞれで、「約束をすっぽかす相手が許せない」というのだったら、きれいごとで収めるのではなく、「自分はソコには怒る人間だぜ!」と、きちんと認識しておくことが重要なのです。

 人それぞれならば、不特定多数の人間全員がハッピーになるモットーはないのか!? それは全世界で「困っている人を助ける」、これにつきる。

 私もこの間、ストックホルムの空港でカフェの席が無くて立ち往生しているドイツ人のおばあさんに席を譲り、北京に住む娘のところに行くという彼女の長い待ち時間のケアのために、航空会社のラウンジが使えるように交渉してあげました。彼女からお礼に手渡された、ルームソックスは足だけでなく、今でも心をほかぼかさせ続けてくれています。

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[NIKKEIプラス1 2017年1月7日付]

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