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なぜ東急ハンズは米国にない?デザイン経営で勝つ方法 IDEO共同経営者 トム・ケリー氏

 

2017/1/11

トム・ケリー氏

 米アップルのパソコン「マッキントッシュ」の初代マウスに代表される製品デザインをはじめ、組織や経営のデザインまで手掛ける米デザインコンサルティング会社、IDEO(アイディオ、カリフォルニア州)。創造的にビジネスの課題を解決する「デザイン思考」で世界の注目を集めるが、新たに日本のベンチャー支援に乗り出し、国内ベンチャーキャピタル(VC)のジェニュインスタートアップス(東京・渋谷)と投資ファンド運営会社、D4V(東京・港)を設立した。スティーブ・ジョブズ氏のようにイノベーションを生み出す創造力を組織や個人から引き出し、世界的な成果を上げるにはどうすればよいのか。2016年12月に来日したIDEO共同経営者のトム・ケリー氏に聞いた。

■必要なのは創造力に対する自信

 ――D4Vのベンチャー支援でIDEOが果たす役割は何ですか。

 「日本は世界に評価される豊かな創造力があります。ただ、もったいないことに、組織や個人において、まだその自覚がないように感じます。経済など様々な分野で日本がさらに成長する上で最も重要なのは、自らの創造力に対する自信を持つことです」

 「起業においても状況は同じです。会社を辞めて起業したいと考える若い人に、多くの親たちは『そんな危ないことはやめなさい』という。日本で起業するには資金調達というハードルの前に、会社を辞めるという高いハードルがあるのです」

 「私たちは日本の創造力を解放する触媒となるため、5年前に日本支社 IDEO Tokyo(東京・港)を設立しました。さらに今後、D4Vを通じて自信を持って起業する人をサポートし、起業を取り巻くエコシステム全体を徐々に変えていきたいと考えています」

 ――日本企業に「創造力に対する自信」がないと感じるのはどんな場面ですか。

米アップルのパソコン「マッキントッシュ」の初代マウス

 「海外企業にとって魅力的な技術や製品をすでに持っているにもかかわらず、グローバルに飛躍しようという発想を持っていない企業が日本には多いですね。これは非常にもったいない」

 「例えば、今から17年ほど前、私たちは携帯情報端末(PDA)『パームV』の開発に携わり、アルミ製の外枠をかなり薄型につくりたいと考えた。その高い技術力を持つ企業を日本で見つけたのですが、彼らは当初、海外進出に全く興味を示さず、説得するまでにとても苦労しました。こうした例はたくさんあります」

■世界で一番お気に入りの店は東急ハンズだが

 「もう一つ、個人的にフラストレーションを感じていることをお話ししましょう。日本を訪れたら必ず行く、世界で一番お気に入りの店があります。それはクリエイティブライフストア、東急ハンズです。しかし、私が日本に訪れるようになって30年以上たつのに、まだサンフランシスコなど米国に東急ハンズがありません。なぜでしょうか」

 「『MUJI』や『ユニクロ』、『JINS』というブランドの日本企業はすでに出店しているのに。東急ハンズが米欧へ積極的に展開しない理由を知りませんが、とても残念です。世界に目を向ければ、このようなチャンスはまだまだ眠っているのです」

 ――個人が「創造力に対する自信」を持ちたいと思ったとき、どんなことから始めればよいでしょうか。

 「たくさんありますが、私たちが実践してきた2つの代表的なアイデアを紹介しましょう。1つ目は旅行者のように考える方法。海外旅行に出ると『あれは珍しい!』『これは日本と同じだな』などと観光名所などで街や人を観察し、たくさんの発見をしますね。その視点を帰国後も持ち続け、見慣れた風景をあらゆる角度から眺めるのです。特に人々の行動をそのように観察すると、私たちIDEOが実践してきた『人間中心デザイン』のヒントが見えてくるでしょう」

■野性の創造力を解き放て

IDEOが開発に携わったPDA「パームV」

 「2つ目の方法は、1日のうちで最も創造的な考えがひらめく時間を発見すること。例えば3日間ほど自分自身を観察してみてください。私の兄の場合はシャワーを浴びているとき、私の場合は朝、目覚めてすぐの5分間がその時間です。アイデアを書き留めるために兄はマーカーを持ってシャワーに入り、私はベッドサイドにメモ帳を置いています」

 「道具は何でも構いませんが、浮かんだアイデアはすぐにメモしてつかまえること。これを私たちは『リラックスした注意』と呼んでいます。使い物にならないメモもあるでしょうが、それでも1週間、1カ月、1年たてば、たくさんの創造的なアイデアが集まっているでしょう」

 「日本人は何もしない、何も考えないという時がないくらい、常に時間に追われているように見えます。メールを見ず、ゲームも読書もせず、脳がリラックスした時にこそ、本来自分が持っている野性の創造力が解放されるのです」

 

トム・ケリー(Tom Kelley)
1955年生まれ。兄デイビッド・ケリー氏が1978年に設立したデザインコンサルティング会社、IDEOの共同経営者として、創業当初から同社の成長を支える。現在は主にイノベーションやIDEOのデザインアプローチをテーマに各地で講演活動を展開。米カリフォルニア大学バークレー校のビジネススクール、東京大学でエグゼクティブフェローを務める。兄との共著書「クリエイティブ・マインドセット」(日経BP社)を刊行

(柳下朋子)

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