不動産・住宅ローン

転ばぬ先の不動産学

住宅の売買、こんな仲介業者を選びたい 不動産コンサルタント 田中歩

2016/12/21

PIXTA

 不動産の売買仲介業に携わるひとりとして、「仲介の価値」とは何なのだろうと、ふと思うことがあります。

 売買仲介というのは(1)買い主のための物件探し、売り主のための買い主探し(2)価格査定(3)権利関係や都市計画法や建築基準法などの公法規制、マンション管理に関する重要なポイントなどに関する調査と説明(4)売買契約書案の策定と成約に向けた交渉――という仕事です。そして、これらを通じて成約に至ると、仲介手数料をいただけるということになっています。

■縮小する情報格差

 かつては、売り物件に対する情報量は仲介業者のほうが断然多かったのですが、現在はウェブサイトの発展によって仲介業者も消費者も売り物件情報を知るチャンスにほとんど差はなくなってきました。つまり、仲介業が消費者に提供してきた(1)の価値は大きく低下しているのです。

 そうなると、仲介の価値として残っているのは、上記(2)~(4)ということになります。

 (2)の価格査定ですが、現在は人工知能(AI)技術を利用し、中古住宅の販売事例をベースに価格を推定しているサイトがいくつも出てきています。

 過去の販売価格の事例をベースにするため正確性には欠けますが、もし実際の取引事例が公開されれば、より正確な価格推定がウェブ上で無料かつ自動的に開示されることになります。近い将来、仲介業者がわざわざ価格査定をする必要はなくなってしまうかもしれません。

 (3)や(4)は「消費者が後日トラブルに巻き込まれないようにするための業務」といえますが、これについても仲介業者の専門性が試される業務なのかといえば、疑義があります。

 仲介業者からは、物件調査力や契約書作成力を通じたトラブル回避力が自分たちの価値であるとの主張が聞かれます。しかし、トラブルの多くは基本的なミスによるものばかりなのです。

 例えば、宅地建物仲介業は従業員の5人に1人が宅地建物取引士であればいいというルールになっているため、宅地建物取引士の資格がない人でも契約直前まで営業することができます。しかし、売買契約締結前に行われる「重要事項説明」は宅地建物取引士でなければできません。

 結果として、物件を見たこともない、調査も自身で行っていない、これまでの交渉経緯も知らない宅地建物取引士が重要事項説明を行うということが多々行われています。当然、調査ミスに気付かないことや、これまでの経緯を知らないが故の説明ミスが発生します。

■インスペクションの重要性

 最近では、設備保証や瑕疵(かし)保険などが付帯した仲介サービスも広がっており、より安心な取引になってきてはいる面もあります。とはいえ、本来は保証や保険の前に、インスペクション(建物診断)で建物の劣化状況やコンディションをチェックし、購入後にどのようなメンテナンスをしていくべきかアドバイスすることの方が本質的です。設備についても交換時期やその費用を事前に買い主に説明しておくことのほうが大切なのではないかと思うのです。

 宅建業法改正に伴い、インスペクションのあっせんの可否やインスペクション結果の説明などが仲介業者に義務付けられることになりましたが、インスペクションの経験のない仲介業者に調査・説明能力があるのかどうか甚だ疑問です。

 では、仲介業が目指すべき価値とは何なのでしょうか?

 私見ではありますが、仲介業は金融業界でいう「ゲートキーパー(門番)」のような存在を目指すべきではないかと思っています。情報劣位の消費者のために様々な情報を提供し、消費者のためにわかりやすく説明しつつ、的確な選択肢を明示するという存在です。

 ゲートキーパーのような立場を目指すのであれば、少なくとも宅地建物取引士の資格がない者は仲介営業をすべきではないでしょう。そして、できれば、建築や建物劣化に関する知識、CFPやFP技能士1級程度のファイナンスや税務についての知識も宅地建物取引士は身につけ、かつ経験を積み、依頼者に寄り添いアドバイスしていく力が必要だと思います。

 中古住宅の売却についていえば、売り物件を一つの商品と考え、買ってくれそうな方を想定し、そのためにどのように商品化し、どのように想定した買い主に情報を届けるかというマーケティングの経験と実績も積んでいかなければならないでしょう。

 買い主のための仕事をするなら、その方の人生と暮らしのデザインを考えるサポート力が必須となるでしょう。買い主が何のために家を買おうとしているのか、その考え方は買い主にとって適正なのか、住宅資金、教育資金、老後資金のバランスを考えてサポートできているのかということを買い主に寄り添って考え、提案できる力を身につけねばならないと思います。単に「今払っている家賃と住宅ローンの返済額が変わらないから買った方がお得」というようなセールスは断じてやってはいけないと思います。

 こうした努力を私たち仲介業者が積み重ねる一方で、流通の仕組みも変えていく必要があります。

■買い主にも仲介業者を選ぶ権利を

 売り主は仲介業者を選べますが、買い主は選べない環境にあります。ウェブなどに掲載されている物件には、はじめから仲介業者がひも付いているからです。

 買い主は物件を選ぶ権利があるだけでなく、仲介業者や仲介担当者を選ぶ権利もあるはずです。売り物件情報に対する情報格差がなくなってきている現在、そのほうが健全です。

 また、取引事例を一般に公開することも消費者や業界にとってもよいことだと思います。成約価格がブラインドにならないということは、取引の活性化につながります。

 個々にばらばらになっている情報、例えば、公法規制、上下水等のインフラ情報、路線価、固定資産税評価額や年税額、浸水履歴、洪水ハザードマップ、地盤データなどをウェブに掲載された売り物件にひも付け、仲介業者だけでなく消費者も閲覧できるようにすればよいと思います。

 情報開示のハードルは高いかもしれませんが、マンション管理組合の財政状況や議事録、修繕履歴や長期修繕計画案、その他の活動実績なども開示されるべきだと思います。開示しているマンションは管理に自信がある証拠となり、開示していないマンションよりも資産価値が高くなるのではないでしょうか。そうなれば、管理組合の方々にとって、情報開示は資産価値維持向上のためのインセンティブにもなるでしょう。

 仲介業者はこうした各種情報を消費者に代わって読み解き、消費者に分かりやすく説明し、消費者のアドバイザーとして仕事をしていくことが今求められる価値の一つなのではないでしょうか。

 読者の皆さんの中には、これから住まいを買おう、売ろうとお考えの方もいらっしゃると思います。ここで挙げた仲介業の価値についてどうお感じになられたでしょうか。

 私と同じような考え方をしている仲介担当者の方は、大手中小問わず少なからずいらっしゃいます。こうした考え方を行動に移している仲介業者や担当者をぜひ見つけていただければと思います。

田中歩(たなか・あゆみ) 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション付き住宅売買コンサルティング仲介など、ユーザー目線のサービスを提供。2014年11月から「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」執行役員として、総合不動産コンサルティング事業の企画運営を担う。2017年1月14日(土)「不動産投資 成功の実践法則50」(ソーテック社)出版記念イベントを開催。不動産コンサルタントの長嶋修と田中歩が不動産投資の極意を語り尽くします。詳しくは http://www.sakurajimusyo.com/publish0114

不動産・住宅ローン