相続・税金

ぼくらのリアル相続

頼りにならない自筆遺言 執行者がいないと大変に 税理士 内藤 克

2016/12/16

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 いつものように相談者と私の会話です。
「先生、葬儀の際はお世話になりました。あのあと仏壇から夫の遺言が出てきましたので開けてみたんですが……」
「そりゃまずいですよ。本当は裁判所で『検認』を受けなければならないのに」
「あら、そうなんですか? でもチラッと見たらもめそうな内容なので破り捨てようかと思っているんですけど」
「いやいや、それは絶対ダメですよ。ご主人の気持ちを反映しているんですから」
「わかりました。子供たちと話し合ってみます。それにしても主人は私たちのことを何にもわかってなかったようで、今さらながらムカツクんです」
「……」

 今回は「自筆証書遺言」についてのお話です。公証人役場で有料で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」に対し、自筆遺言証書は字の通り全てを本人が手書きするもので(パソコンで印刷したものは無効)、無料でいつでも書けるメリットがあります。この自筆証書遺言があった場合には裁判所での検認が必要となります。

 検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続きで、遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。あまりなじみのない言葉でもあり、よく「筆跡が本人のものかどうかの確認」とか「相続人が内容について承認する手続き」と勘違いしている方もいらっしゃいますが、そうではないのです。

 また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立ち会いの上で開封しなければならないことになっています。家族や配偶者であっても勝手に開けて中を読むというのは許されない行為です。

 世間ではよく「遺言さえ書いておけばすべて問題なし」と勘違いしている方がいらっしゃいますが、そうではありません。ほとんどの場合は遺言があっても、そこに記載されていない財産が存在したり、遺言を書いた後で財産構成が変更されていたりするため、別途分割協議が必要になってきます。

■「書いていてくれればよかったのに」という場合も

 また時々、「みんなで話し合って(子供ではなく)孫に相続させることになりました」という話も聞きますが、これはそんなに簡単な話ではありません。既に子供が他界していてその代襲相続人として孫が相続する場合は別として、本来の相続人がいるのに相続人でない孫が財産を取得することはできません。どうしてもそうしたい場合は孫を養子にするか、孫に全額を相続させるという遺言を書くしかないのです。そうでないといったんは子供たちなど相続人が相続して、次に相続人全員から孫Aに贈与するという形になってしまい、相続税と贈与税の両方が発生することになります。

 以下はある弁護士さんから聞いた、内縁関係にある80代の男女のケースです。男性の不動産収入をもとに2人は20年近く同居しており、事実婚状態でしたが、亡くなる5年ほど前から男性が認知症を患い、女性に介護してもらっていたそうです。その男性が亡くなり相続が開始したら、男性の子供たちが不動産を相続し、なんとその女性にはほとんど何も渡さずに追い出した、という話でした。この80代の女性はこれからどうやって生きていくのでしょうか? 相続では親不孝の子供たちであっても、法定相続人である限り内縁の妻などより優先されてしまうのです。たとえ20年近く同居して介護してくれていた相手でも同じことです。この男性は、結婚できない何らかの理由があったのなら遺言だけでも書いておくべきだったのです。しかも認知症になる前に。

■「なかったこと」にされるリスク

 また自筆証書遺言では、冒頭のケースのように遺言書の第一発見者が破り捨てたり、隠したりしてしまって「遺言がなかったことにされてしまうリスク」が存在します。内容に多少問題があっても、家族内で解決できるなら分割協議をしてもいいのでしょうが(判例上はいけないことになっています)、相続人以外に承継させたい時には「なかったこと」にされてしまっては困るのです。

 つまり、どうしても自筆証書遺言にこだわるのであれば執行者を定めて、弁護士や信託銀行などの専門家に預ける必要があるということです。もちろん、その場合でも検認は必要になります。ならばいっそ、検認が不要でそのまま法務局へ持ち込めば登記もできる公正証書遺言にする方が便利で確実だと思います。誰も見てくれない遺言を、気持ちを込めて書いても意味がないのですから。

内藤 克(ないとう・かつみ) 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。90年に税理士登録、95年に東京・虎ノ門で個人税理士事務所を開業。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。事例中心のわかりやすい講演にも定評あり。「士業はサービス業である」ことを強く意識し、顧客満足度を追求。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行っている。趣味はロックギター演奏。

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