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シニア、自宅で異文化交流 外国人宿泊 おもてなし

2016/12/13 日本経済新聞 夕刊

ゲストの呂明憲さんとハグしながら別れを惜しむ大野寿恵子さん(右)(名古屋市)

 訪日外国人を自宅の空き部屋に泊める民泊が人気を集めるなか、ホストになって外国人ゲストをもてなすシニアが増えている。子供などが巣立って空いた部屋の活用と、老後の生きがいのため国際交流や生きた語学を習得する一石二鳥を狙う。今後、訪日外国人の増加に向け、シニアのホスト熱はさらに高まりそうだ。

 「お世話になりました」「また、遊びに来てね」

 名古屋市の大野寿恵子さん(67)は先月末、台湾から妻と遊びに来た技師の呂明憲さん(39)と別れを惜しんだ。呂さん夫妻は大野さん宅に9日間滞在。日帰りで伊勢神宮や京都、奈良まで足を延ばした。今回で8回目の来日。これまでホテルに泊まっていたが、予約が取りにくく料金も高いため、民泊を利用した。「日本人の生活にも興味があった」と呂さんは明かす。

 大野さんが始めたのは昨年6月。夫は他界、3人の子供も独立し、2階建ての家に一人で住む。2年前、事故でケガをして以来、ふさぎ込むようになった。心配した長男(41)が「気晴らしに空き部屋で民泊をやったら」と勧めたのがきっかけだった。

■参拝の仕方を説明

 英語を話せない大野さんは「最初は無理と思ったが、片言の単語と身ぶり手ぶりで通じることがわかった」と笑う。ゲスト探しは、ネットで宿泊を仲介する米エアビーアンドビーを活用。ネットができない母親の代わりに長男が段取りをつける。過去の利用履歴を参考に問題のありそうなゲストは選ばないので、今まで目立ったトラブルはない。

 伊勢神宮を訪ねるゲストに行き方や参拝の仕方などを教える一方、相手の国の文化や歴史を教わることも。泊まったゲストは約50組。食費や洗濯代など実費程度の謝礼はもらうが、「目的は金銭より国際交流」ときっぱり。今は明るさを取り戻し、事故で傷めた腕も上がるようになった。外国人からの刺激が心身に好影響を与えているようだ。

 大野さんのようなシニアのホストは増えている。今年9月にまとめたエアビーアンドビーの調査で、60歳以上の国内ホストは約900人となり、この1年で3倍強に増えた。年代別では60歳以上の伸び率が最も高い。ホストの全体数は非公表なので全体に占めるシニアの割合は不明だが、シニアのホストが増えているのは間違いなさそうだ。

 札幌市のA子さん(63)もその一人。今年2月、雪祭り見物に来た韓国人を泊めて以来、これまでに約40組を受け入れた。民泊を始めたのは「外国人に日本の食文化を伝えたいから」。基本的に朝は、ごはん、みそ汁、卵焼き、漬物などの和食を提供する。

■家族の会話増える

 同居する夫や息子は「なぜ、そんな面倒くさいことをやるのか」と最初は後ろ向きだった。だが、始めると彼らも外国人との会話に積極的に加わるなど、一緒にもてなすようになった。「民泊を始めてから家族同士の会話も増えた」とA子さんは思わぬ効用に驚く。

 語学を磨くため民泊を考えるシニアもいる。東京・大田の自営業、内村喜信さん(62)は5年前から週1回、英会話大手のイーオン大森校に通う。来年から自宅の空き部屋にゲストを迎えるつもりだ。「週1回の授業だと話し方を忘れてしまう。自宅に外国人を泊めれば、生きた英会話の勉強ができる」と期待する。

 ホストの心構えや注意点などを教える講座を開く一般社団法人・日本ホストファミリー養成協会(東京都昭島市)によると、シニアの受講希望者は増えている。嘉手納知幸代表理事は「民泊は孤独、健康、経済というシニアの3大不安の解消にもつながる」と指摘する。外国人との会話が孤独を癒やし、メリハリのある生活が健康増進につながり、謝礼が家計を助ける。

 一見、いいことずくめだが、集合住宅などではゴミ出し規則を守らない、深夜に大声を出すなどの問題も指摘される。ただ、これは収入目的でホスト不在の部屋を貸す投資型に多い。家主が同居するホスト型はゲストに注意を払うので、こうしたトラブルはまず起きない。

 日本政策投資銀行の試算では、2020年に政府が目標に掲げる4000万人が訪日した場合、東京都内で1880万人分の宿泊施設が不足する。それを補う民泊需要の拡大が今後も見込まれるだけに、ホストをめざすシニアはさらに増えそうだ。

■ゲストから高い評価

 エアビーアンドビーは10月、ゲストからの評価が高い国内の「スーパーホスト」(258人)の意識調査をした。民泊の理由を尋ねたところ、異文化交流が73%、空き部屋などの活用は45%だった(複数回答)。このうち61歳以上のシニアに限ると、異文化交流は88%、空き部屋活用は65%へと跳ね上がる。他世代に比べ、シニアは異文化交流や空き部屋活用への関心が高いことがわかった。

 「ゲストに必ず会うか」との問いに「はい」と答えた割合は全世代が64%だったのに対し、シニア世代は92%となり、ほとんどのシニアがゲストに会っていた。交流形態では「朝食」がシニアの42%を占め(全世代は27%)、朝食が交流の場になっているようだ。

 日本法人の田辺泰之社長は「ゲストが高評価を付けるのはシニアのホストが一番多い。人生経験が豊かな分、きめ細かなもてなしを受けられ、その地域ならではの耳寄りな情報も聞ける。高齢化が急速に進む日本でシニアの存在感はさらに増すのでは」と話す。

(高橋敬治)

[日本経済新聞夕刊2016年12月13日付]

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