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京都で西陣織職人になる 「大人の職業体験」の旅

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子供向けの職業体験テーマパークがにぎわいをみせているが、実は大人向けにもさまざまな職業を気軽に体験できる機会がある。「見たことない仕事、見に行こう」と提案、職業体験イベント企画を手がけている仕事旅行社(東京・港)のウェブサイトをのぞくと、十勝の丘でソムリエになる旅、琵琶湖畔でカフェオーナーになる旅、瀬戸内の島で農家になる旅――といった魅力的なプランが並んでいる。これらの職業体験の特徴は、「その道のプロ」が教え、「実際の職場」で体験できる点である。子供向けテーマパークとは訳が違う。

今回は仕事旅行社の職業体験プランの中から、「西陣織職人になる旅」に参加してみた。京都は名所を見て回るだけでも十分に魅力的な古都だが、旅程の一日を使って西陣織の「職人体験」をしてみれば、より深みのある旅になりそう、と期待してのことだ。

旅先は西陣の老舗「渡文」

気持ちのいい日差しのもと、京都御所の北側に接する今出川通を西に向かい、横道に入って少し歩くと西陣織の老舗「渡文」に着いた。渡文は1882年(明治15年)の創業で、着物の帯を手織りで制作している。ここで西陣織の職人体験をする。

講師は西陣織の伝統工芸士、津田功さん。この道50年のベテランで、笑顔の絶えない気さくな方だ。つい先日、優れた伝統的技術と伝統工芸産業への貢献により経済産業大臣表彰を受賞した。得意分野は、色糸を用いて刺しゅうのような柄を立体的に織る「唐織(からおり)」という。記事冒頭の写真も唐織の帯で、数十万~100万円(市場価格はその数倍)の値が付くらしい。

はじめに渡文の2階にある工場を紹介しておこう。所狭しと並んだ織機は想像していたものよりずっと大きく、職人から見て織機の向こう側には経糸(たていと)が長くのび、上方にも経糸を上下に動かすための多数の糸がのびている。まるで大きなカラクリのようでもあり、職人はその中の小さなスペースに座って仕事をしている。

工場は渡文の敷地内にある織物ミュージアム「織成舘(おりなすかん)」を通して見学することもできる。職人体験の最中にも、外国人の見学者が何度か訪れていた。津田さんによると、見学者のほとんどは海外からの観光客という。

20以上の工程を分業で進める西陣織

さて、西陣織の職人体験だが、今回の参加者は筆者と20歳代女性の2人だ。女性は東京在住で、京都旅行は今回が5度目。伝統工芸が好きなので、一緒に旅行する友人よりも1日早く京都に来て、西陣織の職人体験に参加したという。実は新しい仕事を見つけたいと考えているようで、伝統工芸の職人の世界をのぞいてみたかったとも話していた。

オリエンテーションの後、午前中はビデオを見たり津田さんの話を聞いたりしながら、西陣織とそれができるまでの概要を学んだ。ビデオを見ている最中も、津田さんがときおり解説を加えて楽しませてくれる。

主な制作工程は20以上もある。大きく分けると(1)織物の図案を描き(2)糸などの原材料をそろえ(3)織機の準備をして(4)織物を織り(5)仕上げ加工――という流れになる。各工程はほとんど分業になっていて、専門の職人たちが担当しているという。織物を完成させるまでには多数の職人の協業が必要であり、西陣はそうした職人たちが寄り合って住む町というわけだ。

織物の「図案」を方眼紙に写し、柄を織るための"設計図"(紋意匠図)をつくるという。織る工程では、この方眼の横一列ずつ順番に、指定の色糸を通しながら柄を織っていくことになる。

設計図の右側に、色分けされた縦のラインと番号が記され、「柄を織る糸の色」を示している。方眼の横一列を織るとき、その延長線上に縦のラインが交差していれば、その色の糸を通す。織るときは、特にこの情報が重要なのだと津田さんは話す。

刺しゅうのような柄はどうやって織る?

ここまで津田さんの話を聞いてきて、疑問が湧いていた。「刺しゅうのような柄はどうやって織っているのか」ということだ。今まで不思議に思ったことはなかったのだが、西陣織の制作工程を知るにつれ、気になり始めた。筆者の頭の中にある一般的な織機のイメージは、織物の端から端まで経糸(たていと)が1本おきに一様に上下する。これで刺しゅうのような柄をうまく織れるのか、と感じたからである。

しかし、百聞は一見にしかず。津田さんに実演してもらって、よくわかった。織機の構造が違うのだ。織機は柄を織るところだけ経糸が持ち上がり、色糸を通せる仕組みになっている。どの経糸を持ち上げるかはコンピューターが操作していて、先ほどの「設計図」に従ってデータを入力しておく。

現在の織機(ジャカード織機)が導入される明治時代よりも前は、織機の上に人が乗り、経糸を上下に動かしていたという。昔は、今よりもさらに手間のかかる織物だった。

現在の織機は一部をコンピューターで操作しているが、単純作業を効率化しているだけなので、手織りの良さはそのままである。手織りの帯の特徴の一つは、しなやかなことだ。手織りと機械織りを比べると、帯の表側が同じ模様であっても、裏側が全く違う。手織りでは、表に赤い糸で織った小さな模様があれば、裏に通る赤い糸もその模様の場所だけ。しかし、機械織りだと帯の端から端まで赤い糸が通る。色違いの模様があれば、その色の数だけ帯の端から端まで色糸が通るそうだ。

渡文の工場見学に来ていた着物をたしなむ女性は、手織りの帯を触りながら「全然ごわごわしていない」と感心していた。

きれいな糸に見とれる

いよいよ、自分自身の手織り体験へと進む。最初にするのは、緯糸(よこいと)の色選びである。テーブルの上にカラフルなつむぎ糸がずらりと並べられた。どれもきれいな色で、絹の光沢を放ち鮮やかだ。思わず見とれてしまう。隣でも「わぁ、緑色がきれい」と声が上がり、糸を手元に持ってきて眺め始めた。

参加者はこの中から好きな色を選び、自分の糸立て台に移していく。しかし、どれを選ぶか迷ってしまう。あらかじめ「こんな感じの配色で……」とイメージしてはいたが、きれいな糸の数々を見てリセットされてしまった。

「みなさん、20分くらいかけて選んでいます」と津田さんは言う。確かにそうだろう。とても楽しい時間だ。

糸を手に取って見ると、真綿(繭を煮てほぐし綿状にしたもの)からつむいだ糸は太さに多少のばらつきがある。津田さんは「織ったとき、それが味になるんですよ」と教えてくれた。

糸を選んだら工場へ移動し、手織り作業に入る。使う織機は、西陣織の職人が使うものではなく、テレビなどでよく見るものと同じだ。午前中に学んだ西陣織の工程を振り返れば、さすがに一日で職人と同じことを体験するのが無理なことはよくわかる。

まずは津田さんの指示通りに糸を「杼(ひ)」にセットする。杼は、経糸の間に緯糸を通すための小さな道具だ。「さぁ、これから織るぞ」と気持ちが高まってくる。

初めての経験だったが、織機の操作そのものは難しくない。足元にある左右のペダルを交互に踏むと、1本おきに経糸が上下するので、経糸の隙間に杼を使って緯糸を通し、筬(おさ)でトントンと緯糸をそろえればいい。テレビなどで見た作業とまったく同じである。「ペダル→杼→トントン」を繰り返していく。

しかし、実際に織り始めてみると、かなりぎくしゃくした。まず、杼の使い方に慣れていないため、杼が経糸の途中に引っかかってしまう。経糸の隙間から指を入れて、やっと杼を取り出すと、「次は何をするんだっけ?」「次に踏むのはどっちのペダルだったか?」といちいち迷う。非常にもどかしかった。

5センチメートルくらい織り進んだところで、また問題が起こった。織り込まれた緯糸が、経糸に対してわずかに斜めになっていることに気づいた。織物の左端と右端で、緯糸の位置が1ミリか2ミリずれていたのだ。津田さんは「筬を動かすときの力加減が左右で微妙に違うのでしょう」と話す。隅々まで気配りしなければならず、一筋縄ではいかないと感じた。

リズムをつかんだ!

それでも、織り始めてから1時間くらいたったあたりから、だんだんリズムがつかめてきた。織るスピードは遅いながらも、両手両足の動きが少しだけスムーズになり、「ペダル→杼→トントン」が規則的に回りだした。斜めになっていた緯糸も水平に戻った。実に気持ちがいい。

無心に織っているうち、あっという間に2時間くらいが過ぎた。津田さんに、織っているときは何を考えているのかと尋ねてみると、「柄に合わせ、通すべき色の糸を何回通したか、ずっとカウントしている」そうだ。間違えると売り物にならなくなるので、集中力がいる。だからこそ、ミスなく織り終えたときはうれしいという。

完成した織物は、お土産として持ち帰れる。筆者は30センチくらいしか織れなかったが、津田さんは「こうすれば小物入れをつくれるでしょう」と織物を立体的に形づくって見せてくれた。ちなみに、過去の参加者の中には、1メートル30センチ織った人もいるらしい。

職人体験を終えて、津田さんが参加者に感想を問うと、女性の参加者は「とても面白かったです!」と明るい声で答えた。筆者も、手織りの作業は時間を忘れるほど没頭していた。一日中、津田さんに西陣織や仕事の話を聞くこともできた。京都に息づく伝統工芸の世界に手で触れ、目と耳で見聞したことは、しっかりと心に刻まれた。同時に、自らの技を磨き、伝統工芸を今に伝える職人のみなさんに敬意を感じずにいられない。すてきな京都の旅になった。

(渡辺享靖)

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