余れば割り引き 主婦の声が生んだIIJの格安スマホ
MVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)大手のインターネットイニシアティブ(IIJ)は2016年11月24日、新しい料金プラン「エコプラン」の提供を発表した。回線と端末をセットで購入することで、使い切れなかった高速通信容量の分を月額料金から割り引くというものだ。このプランが生まれた背景には、主婦の節約意識が影響している。
厳しい価格競争の中、IIJが新料金プランを発表
2016年も年間を通して大きな注目を集めたMVNO。だが参入事業者の急増により競争は年々激化している。そのため、テレビCM展開や実店舗の拡大などさまざまな施策を打ち出すMVNOが増えている。
一方で、料金プランに関しては価格競争が行き着くところまで行ってしまったこともあり、動きが落ち着いてきている。LINEの「LINEモバイル」に代表される、特定のサービスを利用したときだけ通信量をカウントしない「カウントフリー」の仕組みを導入する企業を除けば、料金はほぼ横並びという状況だ。
そのため、最近MVNOはSIMと端末、そしてサービスをセットで提供する「セット販売」に力を入れ始めている。通信料金では差をつけにくくなってきたものの、セット販売であれば工夫次第で差をつけられる。そうしたことからMVNOのセット販売は今後も増えるものと思われる。
しかしそうした中にあって、新料金プランで差異化を図ろうとしているのが、MVNO大手のIIJだ。IIJは自身で「IIJmio」ブランドによる個人向けモバイル通信サービスを提供しているほか、他のMVNOにネットワークを提供するMVNE(Mobile Virtual Network Enabler)としても存在感を強めている。また、2016年7月には日本郵便の協力により、郵便局でSIMフリースマートフォン(スマホ)とIIJmioのSIMのセット販売を開始。新たな販路開拓にも力を入れている。
そんなIIJが11月24日に打ち出したのが、新料金プラン「エコプラン」だ。
未使用分のデータ通信容量を割り引く「エコプラン」
エコプランには、高速通信容量が3GBの「エコプランミニマム」(月額900円)と、7GBの「エコプランスタンダード」(月額1700円)の2種類が用意されている。いずれも、データ通信・SMSのみだが、月額700円をプラスすれば音声通話の利用も可能になる。そして、エコプランの最大の特徴が、毎月の高速通信容量が余った場合、その分の料金を割り引いてくれることだ。
例えば、「エコプランミニマム」を例に挙げると、月内の高速通信容量3GBのうち、2GBしか使わなかった場合、余った1GB分の料金を割り引いてくれる。割引額は500MB当たり100円なので、1GBであれば200円引かれ、その月の通信料は700円となる。
MVNOをはじめ多くの携帯電話の料金プランは、データ通信容量が余った場合、翌月に繰り越す仕組みとなっている。だが繰り越した容量は、翌月使い切らなければ無駄となる。そのため、損をした気分になる人も多い。かといって、上限が決まっていない料金プランの場合、使わない月はよいが、使いすぎた場合はその分、料金を多く支払わなければならないため、どうしても利用が慎重になる。
だが、エコプランは毎月の通信量の上限が3GB、7GBとあらかじめ決まっているので、高速通信をよく使った場合も、一定額以上の料金になることはない。また、あまり使わなかった場合は、その分料金が安くなる。節約重視かつ安心感を求めるユーザーにとっては非常にうれしいプランといえる。
なぜこのような料金プランが生まれたのか。そこには主婦層の声が大きく影響していた。
主婦の節約志向をくみ取り生まれたプラン
IIJは最近、格安SIMに対する主婦の意見を集め続けてきたという。アンケートだけでなく、2016年2月には格安スマホのモニターイベントも実施。それにより、従来のMVNOのユーザーとは異なる、主婦ならではの節約志向を発見したという。
中でも多く挙げられたのが、必要なものにはお金を使う一方で、節約には手間を惜しまず、無駄なことにはお金を使いたくないという意見だった。スマホの料金は下げたいものの、MVNOのSIMやSIMフリースマホの利用の仕方が分からないなど、MVNOのサービスに対しては不安感を抱いているという声も多かった。
また、オプションサービスなどをあれこれつけられるのは嫌で、必要なことだけができればよく、しかも、必要なサービスは自分で選びたいという声も多く挙げられた。こういった節約志向の主婦層の意見に応えたのが、エコプランというわけだ。
それゆえエコプランは、スマホに詳しくないユーザーでも利用しやすいように、端末の購入とセットで契約することが前提で、SIM単体では契約できない。SIMはIIJが従来メーンで使用してきたNTTドコモの回線ではなくauの回線を用いるが、端末とのセット販売を前提とすることで、対応端末数が少ないau回線のデメリットをユーザーに意識させない仕組みになっている。
また、利用できるサービスに関しても、基本料の範囲ではデータ通信と従量制の音声通話のみと最小限。ニーズが増えている音声通話定額サービスも標準では含まれておらず、あくまでオプションとして提供する方針だ。
IIJのエコプランの取り組みからは、限界がきたといわれるMVNOの料金施策にも、まだまだ工夫の余地があることが分かる。制約が多いといわれるau回線を、デメリットを見せない形でうまく活用している点も評価できる。
2017年は、総務省の方針もあり、MVNOがキャリアに支払う接続料が一層安くなると見られている。従って、auやソフトバンクの回線を用いたMVNOも展開しやすくなるだろう。それだけに、さまざまな回線を活用して工夫を凝らし、単に基本料を下げるだけではない、ユーザーニーズに応えるユニークな施策で勝負をかけるMVNOが増えてくることに期待したい。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
[日経トレンディネット 2016年11月30日付の記事を再構成]
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