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ママの就職オーディション スキルや強み、自己PR 企業側、興味持てば交渉

2016/12/5 日本経済新聞 夕刊

「主婦・ママ クリエイターズオーディション」に登壇した主婦。仕事経験や子育てで学んだことなどを企業の採用担当者訴えた(東京都千代田区)

 働きたい主婦を後押しするユニークな取り組みが始まっている。人手がほしい企業を集め、その前で主婦自らが仕事の経験や能力をアピールし、企業のスカウトを待つ。まるで芸能オーディションのような再就職活動だ。受け身の採用面接と違い、ありのままの姿を企業に評価してもらえる利点がある。

 「金融機関のオンラインバンキングの運用などに関わっていました」「子育てで培ったタイムマネジメント能力と高いコミュニケーション力が売りです」。11月17日に東京都内で開かれた「主婦・ママ クリエイターズオーディション」。20~40代の主婦ら12人が順番に壇上に上がり、3分の持ち時間で自己PRに努めた。

 オーディションは人材会社ビースタイル(東京・新宿)とIT(情報技術)関連人材の教育機関デジタルハリウッド(東京・千代田)が共同開催。登壇した主婦はデジタルハリウッドのWEBデザイナー専攻の受講者だ。実習で自作したサイトを会場の大画面に映し、スキルを売り込む。企業は約20社が参加。採用したい人材を見つけたらビースタイルが間に立ち、就労条件などを調整する。

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 「とても緊張しました」。無事アピールを終えた東京都の主婦、武末秀子さん(37)はほっとした様子で話す。1歳5カ月から小学校2年生まで3人の子どもを育てる。短大卒業後にワーキングホリデーを利用してカナダやオーストラリアで働いたこともある。育児に専念するために2012年に仕事を辞めた。

 ただ専業主婦を続けるつもりはない。将来性が高いIT業界に着目。末子の妊娠中にデジタルハリウッドに通い始めた。「保育園も決まり、働ける条件が整った。1社が興味を持ってくれ、名刺を交換した」と喜ぶ。

 WEB業界は人手不足。生活者目線でサイトをデザインできる主婦は新卒採用では得にくい戦力だ。この日、早速10人に仕事のオファーがあった。参加企業の採用担当者は「全員がやる気にあふれ、予想以上にしっかりしたサイトを作っていた。社員として採用したい」と話す。

 NPO法人ママワーク研究所(福岡市)は14年から「ママ・ドラフト会議」を福岡県内で3回開いている。登壇者は書類審査などで選び、これまでに計15人が参加した。1人5分でやりたい仕事や自分の強みを企業担当者らに訴える。企業側は主婦の主張に共感できたら、「いいね」のプラカードを掲げる。

 イメージしたのは1970~80年代に数々のアイドル歌手を輩出したテレビ番組「スター誕生!」だ。理事長の田中彩さんは「働きたいと思いながらも自分に自信が持てずに求職活動をしていない主婦は多い。主婦と企業が気軽に出会える場をつくろうと思った」と話す。

 12月6日に第4回ママ・ドラフト会議が開かれる。福岡市の後藤章子さん(34)は参加予定の一人。大学で建築学を学び、2級建築士の資格を持つ。07年に結婚し、設計事務所を辞めた。今はパートタイマーでガスメーターの検針をしている。

 子どもは2人。下の子は来春小学校に上がる。「やっぱりもう一度、設計の仕事をしたい。希望職種を絞っているのでドラフトで就職先が決まるとは思わないが、ここをきっかけに仕事を真剣に探したい」と意気込む。

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 北九州市の幸地久恵さん(40)は今年3月のドラフトに参加した。東京で歯科衛生士として働いていたが、出身地の九州に戻って結婚。仕事は辞めた。「息子も8歳。仕事は好きだったし、そろそろ働きたいと思っていた」。会場で即採用とはならなかったが、当日の様子をテレビが放送すると、それをみた歯科医院から「パートの歯科衛生士を探している」と“指名”を受け、8月から働き始めた。

 ただ幸地さんのように再就職に結びついたのは数例にとどまる。新規事業の責任者として採用したいと声がかかったケースもあったが、条件が折り合わなかった。家庭と両立するために主婦側は短時間勤務を望んだが、「責任者が短時間勤務という前例がない」と企業が難色を示したという。

 理事長の田中さんは「従来の雇用慣行にとらわれず多様な働き方を企業は認めてほしい。そうすれば企業も優秀な主婦の才能とやる気をもっと生かせる」と指摘する。

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■主婦も企業も一歩踏み出して

 10月の有効求人倍率は1.40倍。25年ぶりの高い水準で企業は人手不足が顕著だ。就業を希望しながら求職活動をしていない人は男性112万人に対して、女性は約3倍の301万人に上る(総務省「労働力調査」2015年)。主婦の掘り起こしは日本経済の底上げに欠かせない。

 リクルートジョブズ(東京・中央)の「主婦の就業に関する1万人調査」(13年)によると、働きたいが働いていない主婦の約7割が就職に向けて「たいへん不安」「不安」と答えた。具体的な不安は「離職期間の長さ」と「育児との両立」が突出して高い。

 ジョブズリサーチセンター長の宇佐川邦子さんは「主婦は一歩踏み出す勇気を持ってほしいし、企業側も主婦に一歩踏み出させる工夫が必要だ」と指摘する。採用に際して「大丈夫」と口頭で説明しても十分ではない。具体的に「研修が充実しているので入ってからスキルを磨ける」「子どもを2人育てながら働いている主婦がいる」などと説明すると不安も解消できるという。

(編集委員 石塚由紀夫)

[日本経済新聞夕刊2016年12月5日付]

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