変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

今年もあとわずか。忘年会でチームメンバーとお酒を酌み交わし、1年のがんばりをねぎらうとともに、今後のビジョンを語り合った方も多いことでしょう。「信頼できるこの仲間たちとずっと一緒に働いていきたい」――そう感じた方もいらっしゃるかと思います。

しかし、メンバーにそんな思いを抱きながらも、やむを得ない事情で、あるいは自分の目標のために転職に踏み切るとしたら……。今回は「チームで転職」の可能性についてお話しします。

「チームで入社」を歓迎する求人企業もある

仕事をするにあたっては「どんなポジションで」「どんな事業を」も大切ですが、「誰と一緒に」が重要と考えている方も多いのではないでしょうか。実際、優れたスキルと実績を評価されて転職した方が、転職先の企業でチームメンバーに恵まれず、以前のように成果を出せないこともあります。

転職して新しい仕事に取り組む際にも、すでに信頼関係が築けていて「あ・うん」の呼吸で仕事を進められる仲間がいれば心強いでしょう。

私自身、「部下と一緒に転職できないか」というご相談を受けることもあります。では、現実的にそれは可能なのか――結論からいえば、「企業側のニーズにマッチすれば可能」です。

採用を行っている企業の中には、「チームで移ってきてほしい」と望んでいるところもあります。例えば、新規事業に乗り出そうとしている会社が、他社でその事業を成功させたメンバーをチームごと招きたいと希望するケース。特に、「エンジニア」を擁するチームは、エンジニア採用が難しい中、歓迎される可能性が高いといえます。

実際の事例をご紹介しましょう。Sさんは大手外資系サービス企業で事業部長を務めていらっしゃいました。その事業部はあるマーケットを対象としたサービスを手がけていたのですが、会社の方針転換により、そのマーケットから撤退することになったのです。

結果的に、Sさんと、Sさんの部下であるコアメンバー数人は、一緒に同業他社に転職しました。同業といっても、前の会社よりも規模は小さく、まだまだ伸び盛り。「新規事業を提案してくれれば検討する」というスタンスで人材を採用していました。

Sさんが担当していたマーケットは、前の会社は手放したものの、成長の見込みは十分にありました。そこでSさんは、そのマーケットの可能性と事業戦略をプレゼン。相手企業から「うちで、その事業を立ち上げてほしい」と、部下ともども受け入れられたのです。

Sさんの転職先のように、「アイデアの持ち込み歓迎」という求人は一定数あります。実際に「こういう事業にチャレンジしてみたいが、今の会社では認められない」という方が、事業プランを提案して採用されることもあります。こうしたケースでは、「部下と一緒に転職」という希望も比較的かないやすいといえるでしょう。

まず単独で転職し、タイミングを見て元部下を招く

先にご紹介したSさんとその部下が辞めた理由は、事業撤退を決めた会社側の事情にありました。では、個人的な理由で退職を決意し、部下が「自分もついていきたい」と言った場合はどうでしょうか。

Kさんの事例をご紹介しましょう。Kさんはあるベンチャー企業でメイン事業を成功に導き、会社の急成長に貢献した人物です。しかし、社長が目指す方向性と自身の考えとのギャップが大きくなっていき、転職を決意しました。

すると、Kさんの部下たちは「自分も辞めてついていきたい」と懇願したのだそうです。優秀なKさんには、他社からのオファーも多く、ベンチャー企業の役員の座に収まるという選択肢もありました。しかし、それではメンバー複数人を連れていくことはできません。「起業」も考えましたが、メンバーの生活を安定させられないのではないか、という懸念がありました。

そこでKさんが選んだのは、「大手企業での新規事業立ち上げ責任者」という道でした。ハードルが高く、リスクが高い求人案件でしたが、Kさんはあえてチャレンジしたのです。

Kさんの狙いは、まずは自分1人で転職して新規事業を立ち上げ、軌道に乗せてメンバーを呼び寄せるというもの。大手企業であれば、新規事業に成功の見通しが立てば、コストを投じて複数採用を行い、メンバーの給与や生活も安定すると踏んだのです。

Kさんは、そのプランを見事に実現。転職から1年後、自分が立ち上げた新事業部に前の会社のメンバーたちを招き、信頼し合える仲間と再びチームを組めるようになりました。

「部下と一緒に転職」の実現には事前準備が必要

信頼する部下、後輩、同僚など、誰かと一緒に同じ会社に転職を図るなら、綿密な戦略を立てたいものです。このとき注意すべきことは次の2点です。

●早い段階から「後任者」を育成する

事業撤退や部門縮小といった理由からチームでの転職を図る場合はともかくとして、事業を存続していく場合、複数メンバーが抜けると会社にダメージを与えてしまいます。自分たちが辞めても後任者がしっかりと引き継げるように、人材育成を進めておきましょう。

●同時に行動を起こさない

同時に辞めるとなると、在籍中の会社に負担をかけることになり、トラブルにつながりやすくなります。退職時期に配慮し、会社側とも話し合った上で決めてください。

なお、上司と部下が志望企業に同時に応募した場合、上司は採用されず、部下のみ内定を得るというケースもあります。マネジメントクラスともなると、経営者との相性がネックになることも多いからです。部下は「自分も辞退する」と言うかもしれませんが、部下のチャンスを潰すのもどうか、という葛藤を抱えたりもします。そうした事態を防ぐにも、動く順序を考慮することが大切です。

――以上のように、複数メンバーやチームで転職したとしても前の会社とよい関係が保てるように配慮してください。

 「次世代リーダーの転職学」は金曜更新です。次回は12月16日の予定です。
 連載は3人が交代で担当します。
 *黒田真行 ミドル世代専門転職コンサルタント
 *森本千賀子 エグゼクティブ専門の転職エージェント
 *波戸内啓介 リクルートエグゼクティブエージェント社長
森本千賀子(もりもと・ちかこ)
リクルートエグゼクティブエージェント エグゼクティブコンサルタント
1970年生まれ。独協大学外国語学部英語学科卒業後、93年にリクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。大手からベンチャーまで幅広い企業に対する人材戦略コンサルティング、採用支援、転職支援を手がける。入社1年目にして営業成績1位、全社MVPを受賞以来、つねに高い業績を上げ続けるスーパー営業ウーマン。現在は、主に経営幹部、管理職を対象とした採用支援、転職支援に取り組む。
 2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『リクルートエージェントNo.1営業ウーマンが教える 社長が欲しい「人財」!』(大和書房)、『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣』(日本実業出版社)、『後悔しない社会人1年目の働き方』(西東社)など著書多数。

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック