Siriにはまだ及ばず　ソニー「Xperia Ear」

ソニーは最近、なかなか面白い製品を矢継ぎ早に繰り出している。LED電球タイプのスピーカーやポータブルの長短焦点プロジェクターは、品切れになるほどの人気だという。

今回は、Androidスマートフォン（スマホ）のアシスタントとして使える「Xperia Ear」を取り上げる。これまたニッチな製品で、スマホの機能の一部を音声でコントロールできるようにするイヤホンマイクだ。開発したソニーモバイルコミュニケーションズによると、Xperia Earはユーザーがスマホの画面を見なくてもスマホを使用できるようにするために開発したらしい。

Xperia Earの本体には、様々なセンサーが内蔵されていて、耳に入れるだけで装着したことを認識。スマホの専用アプリと連動し、ユーザーの行動を把握してその時々に必要な情報を読み上げる。SNSアプリとも連携して、届いたメッセージを読み上げたり、音声でそれに返信したりもできるそうだ。Xperiaのスマホ以外でも使用できる。

本体はつやを抑えた黒で、デザインはシンプル、なかなかマニア心をくすぐる。約15.2×29.3×24.3mm、約6.6gの本体は、片耳に装着して使うイヤホンマイクの中でもコンパクトなモデルといえるだろう。連続通話時間が4時間というのはちょっと短いように感じるが、ワイヤレスのイヤホンマイクでは普通だ。

イヤピース、アークサポーターもいくつかのサイズが用意されているので、自分にフィットするものに取り替えよう。

Xperia Earのケースはバッテリーを内蔵していて、使わないときにはケースに入れておくと充電できる。ケースのバッテリー容量は連続通話で12時間分。これはアップルの「AirPods」などと同じ仕様で、コンパクトなイヤホンマイクによくあるスタイルだ。

ケースのサイズは約29×41×60mm、重量も約39gなので、邪魔になることはないだろう。つくりもなかなか凝っていて、ふたはスライドして開ける仕掛けになっている。この手の製品が好きな人を狙っていることは間違いなさそうだ。

Xperia Earの設定はとても簡単だ。まず、ケースから取り出すと自動的にペアリングモードになるので、スマホのNFCをオンにして、スマホにタッチする。すると、アプリのインストール画面になる。専用アプリをインストールして利用可能になったら、チュートリアルに従って設定作業を進めていく。さすがはソニー製品らしく、とても親切で、迷うことなくセットアップできる。

本体をケースから取り出して耳に装着し、Xperia Earのボタンを押すとすぐさまスマホとの接続が確立され、「接続しました」とのアナウンスが流れる。続いて「こんにちは」とあいさつしてくれる。

当たり前だが、初期設定で日本語を選んであれば、すべて日本語でアナウンスされる。

使い方も簡単で、話し掛ける前に、まずXperia Earのボタンを押す。「お話しください」とアナウンスが流れたら、やってほしいことを話し掛けてみよう。

いろいろと試してみたのだが、認識率はイマイチだと思う。僕の滑舌が悪いのは否めないのだが、それにしてもGoogleの音声検索や「Siri」できちんと認識できる言葉を認識できなかったりする。例えば「今日の天気は？」は、ほぼ問題なく認識するのだが、地名などの認識率がよろしくない。「東京駅について教えて」などと問いかけてもうまくいかないことが多かった。

また、その他の機能もまだまだだと思う。例えば「近くのおいしいレストランは？」と尋ねると、「Googleマップ」で検索した結果がスマホに表示される。ところが「東京駅までの時間は」などと問いかけても対応できないようだ。もう少し言葉の認識率を上げ、対応できる範囲を広くしてほしい。Experia Earには、届いたSNSのメッセージに音声で返信できる機能もあるが、こちらも言葉の認識率が良くないとストレスが溜まって生かせない。

ただし、Xperia Earが認識できる特定のキーワードに限定して使えばなかなか快適だ。話し掛け方のマニュアルが用意されているので、それを見ながら使うのが一番だろう。また、ニュースの読み上げはなかなか快適だった。電車の中で重宝すると思う。

とはいえ、「電話さがして」とリストにあったので、そのまま話し掛けてみたところ、「探したい施設が見つかりません」という答えが返ってきて悲しくなったこともあった。滑舌の悪い僕の印象では、思い通りの答えが得られる割合は、6～7割といったところだった。

Xperia Earは意欲的な製品だということは認めるが、現時点では買う意味を感じられない。僕はどうしてもGoogleの音声検索やSiriと比べてしまう。SiriはiPhoneの標準イヤホンを使い、音声で操作できる。Googleの音声検索も対応しているイヤホンマイクなら利用可能だ。しかも、音楽を聴いていてる状態でスマホの操作もできる。音声でいろいろな情報を読み上げてくれる機能や、言葉の認識率、対応範囲の広さでもXperia Earの上を行っていると思う。何より、機器を買わなくても無料で利用できるのは大きい。

一方で、Xperia Earは1万9880円とかなり高い。それでいて認識率や対応範囲はSiriやGoogleの音声検索に及ばないように感じた。音声だけで操作できる機能ではXperia Earが勝っているのだが、すでに持っているイヤホンマイクで操作できるSiriやGoogleの音声検索でも十分。今のところ、あえてXperia Earを買う理由を見つけるのは大変そうだ。

また、Xperia Earが片耳用のイヤホンマイクというのも残念だ。当たり前だが、イヤホンと併用できない。もちろん音楽を聴くのも片耳だけでいいなら、Xperia Earで問題ないのだが、できれば音楽は両耳で聴きたいのだ。昔は通話のために片耳タイプのイヤホンマイクを使っている人もよく見かけたし、その代替にはいいだろう。だが、最近は両耳で音楽を聴くイヤホンで通話もするのが普通になっている。あえて片耳タイプを買う人は多くないと思う。

僕としてはXperiaの標準ツールとして付属イヤホンで使えるようにしてほしかった。その上で、音声操作の便利さを実感したユーザーにワイヤレスのイヤホンとして販売してくれるなら言うことなしだ。音質に定評のあるソニーのイヤホンにXperia Earの機能が組み込まれているなら、2万円でも高いとは思わないだろう。

［日経トレンディネット　2016年11月15日付の記事を再構成］