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早すぎたソフト自販機「TAKERU」の謎を解く

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日経トレンディネット

TAKERUは、ブラザー工業が開発し、1986~1997年に運営していたパソコンソフト自動販売機だ。当時は九十九電機やラオックスをはじめ、全国のパソコンショップなどに300台が設置されていたという。TAKERUは、専用線をアクセス回線に使ったネットワークでブラザーのサーバーとつながっていて、ネット経由でサーバーからゲームなどのソフトを取得。利用者がTAKERUでほしいソフトを選んでお金を払うと、その場でフロッピーディスクに保存して購入できた。プリンターも内蔵されていて、マニュアルも印刷できたらしい。

2016年11月26、27日に東京・秋葉原のUDXで開催されたイベント「いま蘇る ソフトベンダーTAKERU伝説」では、当時のことを知るブラザーの担当者が開発秘話を披露したり、当時の雑誌編集者が思い出を語ったり、TAKERUが運営されていた当時のパソコンやゲームが展示されたりした。「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」が発売されるなど、レトロゲームに再び注目が集まる中、ブラザーとしても「この30年前のユニークな製品のことも多くの人に知っていただきたいと考えてイベント開催を決定した」(ブラザー広報)のだそうだ。

それにしても、音楽配信電子書籍、スマホのアプリ購入といったコンテンツのネット配信は今でこそ当たり前になったが、30年前というと、家庭はもちろん、企業でもパソコンを使っている人が少なかった時代である。商用のインターネット接続サービスもまだ始まっていない。そんなときにネット配信でパソコンソフトを売ろうするなんて、はっきり言って、早すぎやしないか? 疑問に思った記者は、TAKERUを開発したブラザーのグランド・マスターの安友雄一氏に率直に聞いてみた。すると、安友氏は笑いながら「そうだねぇ、早すぎたね」と答えた。

売り切れなし、不良在庫なしが目的

話は1983年にさかのぼる。ブラザーではこれからはパソコンの時代だということになり、名古屋市・大須にアンテナショップを作った。そこでは、当時ソフトの卸をやっていたソフトバンクの指導の下、パソコンソフトを仕入れて販売していたそうだ。ソフトバンクが後に携帯電話会社になるなんて、想像すらできなかったころだ。

「ただ、当たり前だけど、売れるものは売り切れるし、売れないものは売れ残って在庫になるんですよ。これはビジネスとして厳しいなと思っていました」(安友氏)

同じ時期、1985年に日本電信電話公社(電電公社)が民営化され、NTTになった。通信回線の利用が自由化され、従来は電電公社の機器しか回線につなげなかったものが、一定のルールさえ満たせば、他社の機器でもつないで通信できるようになった。ブラザーは民営化前から情報ネットワークサービス「キャプテンシステム」の実験などに参加していたこともあり、NTTとの関係は深かった。「そこでひらめいたんです。通信回線を使ってソフトを売れば、売り切れなし、不良在庫なしの電子流通システムができると」(安友氏)

システムの開発は順調に進み、1986年5月にはTAKERUと名付けられて運用が始まった。商品は、パソコン向けのゲームソフトが中心だったという。『A列車で行こう』シリーズや『銀河英雄伝説』シリーズなど、現在に続く有名ゲームも初期はTAKERUで販売されていた。「自動販売機だから、マニュアルも簡単なものしかつかないし、サポートもできない。ゲームソフトが一番手離れがよかったんです」(安友氏)。ソフトのサイズも今と比べればはるかに小さく、数十KB程度、大きいもので3MB程度だったらしい。とはいえ、TAKERUの運用開始当初、通信に利用していたモデムの通信速度は1200bps。配信にはとても時間がかかった。だから、人気のソフトは店舗が閉店している深夜に配信してTAKERUのハードディスクに蓄積しておき、それ以外のソフトだけを逐次ダウンロードするなど、さまざまな工夫を凝らしたという。

黒字になってもやめた理由

TAKERUの運用期間は、通信の進化と時期を同じくする。運用開始当初のモデムの通信速度は1200bpsだったが、後に4800bps、9600bpsと向上。アクセス回線は、専用線から一般電話回線にリプレースしていった。最終的には、64kbpsの通信ができるISDNに変更。配信にかかる時間はどんどん短くなり、通信コストも抑えられた。

「TAKERUはサービスを停止した1997年の時点では黒字だった」と安友氏は言う。それでもやめたのは、将来性の問題だ。「ネット環境は徐々に整いつつあったけれど、それ以上にパソコンの進化が速かった」(安友氏)。パソコンの処理能力が増せば、ソフトも高機能になり、ファイルサイズが大きくなる。ISDNでも配信には不十分だったのだ。

転んでもただでは起きないと言っては失礼か。TAKERUの運営停止の5年ほど前から、TAKERUの技術は通信カラオケに生かされるようになる。ブラザー工業、インテック、ブラザー販売の3社が1992年に設立したエクシングの「JOYSOUND」だ。「当時、会社から『TAKERUの技術を使って年商100億円くらいのビジネスにしてくれない?』と言われたんですよ」と安友氏。TAKERUで扱うパソコンソフトの市場は200億円程度。シェア50%を取らないと100億円には届かない。「それは無理。それで当時盛り上がっていたカラオケに目を付けた」(安友氏)。

早すぎる人には早すぎる人が寄ってくる

アイデアの元になったのは、ある音楽学校の先生が持ち込んだMIDIだった。その先生はデスクトップミュージック(DTM)を広げたいと思っており、学生たちが作成した大量のMIDIをDTMの愛好家向けにTAKERUで配信できないかと考えたらしい。この人も早すぎる……。安友氏のように"早すぎる人"のそばには、似たような人が集まってくるようだ。

パソコンのマニアで音楽の素養がある人というと、マーケットはとても小さい。「全然売れなかった。でも、MIDIは1曲20KBくらいでとてもファイルが小さい。これは、ナロー回線での配信にピッタリです。何かに使えないかと考えて、思いついたのがカラオケだった」(安友氏)。当時はレーザーカラオケが主流だったが、カラオケならば曲数が多く、新曲追加や更新のペースも速いので、配信にピッタリだ。しかもカラオケの市場は当時4500億円ほどあったのだという。

これを機に、TAKERUにカラオケ用楽曲配信の中継機という機能が加わる。初期のJOYSOUNDでは、TAKERUと通信カラオケを電話回線で接続。ブラザーのサーバーからISDN経由でTAKERUに送り込んだカラオケ用の音楽データを、通信カラオケがTAKERUに電話回線で接続して取りにいくという仕組みを取っていた。通信カラオケからTAKERUへの接続に電話回線を使った理由の一つは、当時、ISDNにするとカラオケを設置する店舗の電話番号が変わってしまうからだった。カラオケを置く飲食店にとっては電話番号の変更は致命的。通信速度が遅くてもあえて電話回線を選んだのだ。「通信速度が遅い環境でデータを送信するノウハウはTAKERUでしっかり蓄積していたから、実現できた」と安友氏は当時を振り返る。

2000年代に入ってからは、ADSLやFTTH(光回線)が登場。NTTドコモは2017年3月から最大512Mbpsのサービスを開始するとしており、モバイルでさえ高速通信が利用できるようになっている。数十KBのソフトの配信に心を砕いたTAKERUの苦労など、今は昔のように感じるかもしれない。だが、通信回線が高速になる一方で、コンテンツもテキスト、画像、音楽、映像とどんどんリッチになっている。今やフルHDや4Kの映像までネットで配信しているくらいだ。限られた通信回線で容量が大きいコンテンツをどう流すかは今も課題であり続けている。1980年代のTAKERUはその原点だったのだ。

(日経トレンディネット 平野亜矢)

[日経トレンディネット 2016年11月17日付の記事を再構成]

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