懐かしのサイコロキャラメル復活 数学脳を育成?
昭和初期から平成にかけて、幅広い世代に親しまれてきたロングセラー菓子「サイコロキャラメル」。3月に全国販売が終了したが、6月に北海道限定商品として復活した。このサイコロキャラメルに、思わぬところから援軍が現れた。数学者で桜美林大学教授の芳沢光雄さんだ。芳沢さんがこのほど公開した15分ほどの動画が、話題を呼んでいる。
弱くなる子どもの空間認識力
「たった1つのサイコロキャラメルにものすごく数学的な意義があるんです」。動画の冒頭、芳沢さんが熱く語りかける。サイコロキャラメルは数学脳を育てるのに最適というのだ。
芳沢さんによると、サイコロキャラメルには3つの意義がある。まずは空間認識。「食べ終わったあとの箱で遊ぶうちに、立体の感覚が育まれていく」。ここで問題をひとつ。
(図の立方体を見て)次の中から正しいものを選びなさい。
(ア)線分BDの方が長い
(イ)線分CFの方が長い
(ウ)線分BDとCFは長さが等しい
(エ)どちらでもない
これは2010年の「全国学力学習状況調査(全国学力テスト)」で出た、中学3年「数学A」の問題だ。当然、答えは(ウ)。芳沢さんはこの問題を見たとき、「子どもをバカにしている」と思ったという。だが蓋を開けてみると、正答率はわずか55.7%だった。
「最近の子どもたちは平面上の遊びが多い。いくら画面上で3Dのサイコロを振っても、空間認識は高まらない」。芳沢さんは危機感を強めた。
サイコロの展開図、何パターンあるか
サイコロキャラメルの利点は、分解できることだ。カッターなどを使って切り貼りすることで、サイコロを広げたときの「展開図」を体験できる。そこでまた問題。
(1)サイコロを平面に広げた「展開図」は、何パターンあるでしょうか。
(2)サイコロの目がすべて同じにならないような置き方は、何通りあるでしょうか。
(1)は11パターン、(2)は24通りが正解だ。試行錯誤しながら学べること。これがサイコロキャラメルの第2の意義だと芳沢さんは訴える。
3つ目の意義は確率を学べること。「サイコロの目の出方は『同様に確か』。サイコロを振り続けることで、この概念が習得できる」という。
芳沢流「じゃんけん必勝法」 とにかくパー
芳沢さんは長年、数学教育に力を注いできた。全国の小中学校に出向き、出張授業などを手掛けている。その際に子どもたちをひき付けるのが身近な教材だ。
例えば「じゃんけん必勝法」。実際に1万回を超えるじゃんけんのデータをとり、統計的アプローチでじゃんけんに勝つ方法を編み出した。その神髄は
(1)パーが有利
(2)あいこになったら、その手に負ける手を出す
だという。サイコロキャラメルもこうした出張授業で定番の教材だ。
サイコロキャラメルをもっと広めたい。その思いが今回の動画作成につながった。動画は道南食品(北海道函館市)内で制作したが、「仕事ではなくボランティア」。ほとんど「押しかけ宣伝部長」だと芳沢さんは笑う。道南食品のホームページで公開している。
味は微妙に変化 ミルク感アップ
サイコロキャラメルの歴史は古い。
発売は1927年(昭和2年)10月。明治製菓(現・明治)が売り出した。以来90年近く、同じ製法で作り続けてきた。
しかし3月に出荷を停止。芳沢さんは「教育的見地から何とか継続してほしい」と明治に訴えたという。
そんなとき、乗り出してきたのが明治の子会社でこれまでサイコロキャラメルを製造してきた道南食品だ。サイコロキャラメルのブランド力に着目し、北海道土産として道内限定で販売できないかを模索。6月になって、販売再開にこぎ着けた。
実は、それまでの「明治サイコロキャラメル」と6月からの「北海道サイコロキャラメル」では、味が微妙に違う。「原料に北海道産を使い、ミルク感を強めた」(開発グループの本間千絵さん)という。堅さも調整して「歯にくっつきにくくした」。もちろん、サイコロ型のパッケージは踏襲した。
復活したとはいえ、北海道限定では入手が困難だ。残念に思っていると、同社から耳寄りな情報が届いた。北海道のアンテナショップに行けば買えるという。
さっそく東京・有楽町駅前にある北海道のアンテナショップ「北海道どさんこプラザ」を訪れた。魅力的な品々が並ぶなか、入ってすぐの棚にサイコロキャラメルの山が。目立つパッケージは、確かに土産にちょうどいいかもしれない。道南食品では電話(0138・51・7187)での注文も受け付けているという。
北海道に思いをはせながら、サイコロで遊ぶ。果たして今からでも数学脳は進化するだろうか……。
(生活情報部 河尻定)
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