相続・税金

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相続、税理士に依頼するなら「書面添付」の切り札も 税理士 内藤 克

2016/12/2

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「内藤先生。実は一度、父の相続の時に税務調査を受けました。その時、私の妻が父から生前贈与を受けていたことが妹にバレて、大変だったんです」
「申告漏れだったんですか?」
「いえ、妻は贈与税をちゃんと申告していましたが、それも知らなかった妹が『不公平だ』って騒ぎだしたんです。今回の母の相続でも、妹の前で税務署の方に質問されると知られたくないこともあるので困るんですけど……」
「わかりました。ある書類を提出することにより、税務調査の前にあらかじめ税理士と税務署員だけでやり取りすることはできますよ」
「それはよかった。ぜひお願いします」

 税務調査の際は、税理士だけでなく被相続人の財産について一番詳しい相続人(配偶者がいる場合は配偶者、いない場合は同居親族など)が立ち会いますが、状況によっては他の相続人も同席して対応することがあります。その際、被相続人のお金の行方をこと細かく質問されます。調査官も悪気があって質問するわけではないのですが、冒頭の例のように神経質になっている兄弟などはその内容に敏感に反応するのです。この問題を解決する切り札が今回説明する「書面添付」です。

■“恐怖の”税務調査にワンクッションを

 2001年の税理士法の改正により、税務調査を受けることになった場合、必要なことを具体的に記載してある書面(税理士法33条の2の書面)が添付されていれば、税理士に意見陳述の機会(同35条)が与えられることになりました。これにより調査前に相続人抜きで、税理士と税務署員がサシでやり取りできるようになったのです。

 この段階で税務署が疑問を解決できれば、調査自体が省略となります。またこの段階で申告に誤りがあったため修正申告に及んだ場合でも、特別な場合を除き、修正税額について「加算税がかからない」といったメリットもあります。

 ただ、制度導入から既に15年経過しているのに書面添付はあまり普及していません。その理由は、税理士が消極的だからではないかと思われます。「作成する手間が大変」「税理士が把握していない事実についても責任を追及されたらかなわない」など、いろんな考えがありますが、私は相続税の申告についてはこの書面添付は必須だと考えています。

 冒頭のケースのように、親の生前贈与について兄弟の逆恨みを買うことで親族間にヒビが入り、その後の親戚付き合いに支障をきたすこともあります。こうなると復縁はなかなか難しく、親にもらった分の何割かを渡すからと言っても怒っている兄弟は納得しません。お金がもとで発生したトラブルだからといって、お金で解決できるとは限らないのです。

■税理士は大変だが、依頼者の作業はゼロ

 下の図は日本税理士会連合会の公式ページに掲載されている「書面添付制度のフロー図」と同じものです(http://www.nichizeiren.or.jp/taxaccount/document/)。税務調査の前段階で税理士が意見陳述を行いますが(35条の「意見の聴取」)、どうやら税務署内ではこの書面添付があった場合は手続きが煩雑であるため、よほどのことがない限り調査を省略する傾向にあるようです。

 会社などで定期的に行われる税務調査では社長の他に経理担当者が立ち会いますが、この場合は両者が協力して何とか税務調査を乗り切ろうとします。しかし、相続税の調査の場合は「(兄弟や親が)許せない! 税金を払ってもいいから真実を追究したい」というモードに突入する相続人もいて、誰が敵だかわからなくなる場合すらあります。このような事態を避ける意味においてもこの書面添付は必要となります。

 そして、書面添付を併せて頼んでも依頼者側の作業負担が増えることはほとんどありません。せっかく税理士に依頼するのであれば、書面を作成する分の費用をいくらか追加しても、この切り札を使わない手はないわけです。

内藤 克(ないとう・かつみ) 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。90年に税理士登録、95年に東京・虎ノ門で個人税理士事務所を開業。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。事例中心のわかりやすい講演にも定評あり。「士業はサービス業である」ことを強く意識し、顧客満足度を追求。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行っている。趣味はロックギター演奏。

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