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通信販売大手ジャパネットたかた。前社長の高田明氏はテレビ通販王国を一代で築き、お茶の間の人気者ともなりました。朝から晩までテレビカメラの前に立ち続け、「伝える」ということを追究してきた高田氏。経営者として力を入れてきたことの一つが、会社が求める行動指針、目指すミッション(使命)の共有です。そのための武器が「クレド」です。

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今日はジャパネットの経営理念・哲学を表した「クレド」のことをお話ししましょう。

クレドはラテン語で「信条」「志」を意味し、企業活動においては「企業理念」を指す言葉です。クレドで有名なのは米医薬・生活用品大手、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の「我が信条(Our Credo)」です。

同社のクレドを読むと、第1の責任は顧客に、第2の責任は全社員に、第3の責任は地域社会にあるといって、最後の責任は会社の株主に対するものだと宣言し、会社として守るべき事柄、方向性の優先順位を示しています。株主が最後にくるのは変だと思われるかもしれませんが、守るべき顧客、社員、地域といったステークホルダーがあってこそ、株主の権利が守られるという尊い哲学があるのです。

会社は誰のためにあるかではなく、何のためにあるのか

ジャパネットたかた前社長 高田明氏

ジャパネットたかた前社長 高田明氏

これは何を意味していると思いますか? それは、会社は誰のためにあるかではなく、何のためにあるかという問題として経営者やビジネスパーソンは考えなければいけないということなのです。ところが、誰のため、つまり株主というのを何より優先させて経営してしまうと、会社は変な方向に行く。

当社で言えば、「我見」が先に立って、商品を購入していただくお客さんのこと、「離見」のことを忘れて、ただ売って事業規模を拡大することを優先してしまうような事態です。

企業は事業活動を通して社会に貢献することが最も重要な使命です。その結果として社員や株主が潤うのが本筋なのに、それを逆転させては組織として持続可能でなくなるのです。

当たり前のことですよね。社員だけが潤って社会貢献ができなかったらその会社は支持されません。J&Jとか、米高級ホテルのザ・リッツ・カールトン、靴などアパレル関連のネット通販、ザッポス・ドット・コムはクレドを実践する先進企業です。リッツ・カールトンに泊まると、本当にクレドが息づいて「違いがある」と感じます。

他にも米国のある航空会社では、搭乗前に子供が泣いて「あれが欲しい、欲しい」と駄々をこね、親が困っていました。気を利かせたキャビンアテンダントが到着地ニューヨークの社員に連絡して、飛行機が着いた時にその商品を準備していたという感動エピソードもあります。

それぐらい「顧客に寄りそう」マインドを社員が共有している会社が世界には存在しているのです。

ミッションを「見える化」して共有する「クレド」

クレド経営は、会社が求める行動指針、目指すミッションというものを、しっかり「見える化」して共有する経営です。企業が5人、10人、100人と大きくなっていけば、小さい組織の時はトップがじかに伝えられたものが伝えにくくなっていく。規模が1万人になっても10万人になってもクレドに基づいた行動指針を共有していくことが重要になるのです。

クレドをジャパネットの社員は常に携帯する(写真は歴代のクレド)

クレドをジャパネットの社員は常に携帯する(写真は歴代のクレド)

ジャパネットがクレドを制定したのは2006年です。当初は1年、1年、その内容を社員が主体となって修正していきました。名刺入れに入るサイズで、社員はいつも携帯しています。

どの会社にも社是やミッションというものがあります。しかし、会社の歴史が長くなればなるほど、それらが独り歩きしてしまって、社是やミッションを知っている「つもり」になってしまう社員が出てきたり、社是があるから大丈夫と「つもり」になってくる会社(経営者)が出てきたりします。

それは怖いことです。自分たちには社是があるとジャパネットも社員が言っています。それが本当にクレド通りに行動し、ミッションを共有していけるかが大事ですね。

ジャパネット社内では朝礼やミーティングの時にクレドについて語ったりします。当初のクレドは取引先向けのステークホルダー用と、社員用の2つありましたが、今は一本化しています。文言や中身は変わっていますが、根幹の考え方は変わっていません。それは顧客のために、社会のためになる価値を提供するという目標です。

最初のクレドの冒頭で、私たちは次のように宣言しました。「モノの向こうにある生活や変化を伝えたい。より多くの人々の快適ライフのパートナーを目指して」

最新版では全グループ会社にまたがる理念として、「今を生きる楽しさを!」とうたい、「モノの向こうにある生活や変化を伝えることによって 見る人聴(き)く人に『今』この時を楽しんでもらえるショッピングをつくること。そして商品を手にしたお客様の『今』が豊かなものになること。お客様とジャパネットが繋(つな)がった時、その『今』が楽しいものであるように、ジャパネットグループは、それぞれの『今』に挑戦し続けます」と目指す方向を明らかにしています。

歳月を経て細部は変わりましたが、根っこに流れる理念は不変です。

クレドを明文化の背景に、顧客情報の外部流出

クレドを明文化した背景には04年に51万人分の顧客情報が外部流出した情報漏洩事件も影響しました。社員に広く、創業以来持ってきた私と妻(12年まで副社長)の2人の考え、思いを知ってもらおうという考えからです。

私と妻には会社が小さいころから「お客さんがあって初めて僕らがいるわけだから、顧客の身になって経営する」という基本方針がありました。だから、情報漏洩問題が発生しても、その方針にのっとって商品販売を停止し、全面的な販売自粛を決めたのです。減収は150億円にものぼりましたが、そんな金額よりも、お客さんを何より優先することが先でした。

企業が目指すものはやはり人のためになることですから、ルール違反に対して自分たちを厳しく律せられたのだと思います。

高田氏は「お客さんを何より優先することが先」と説く

高田氏は「お客さんを何より優先することが先」と説く

「クレドに戻る」と日々、ジャパネット社員が言うのは、何も仕事だけでなくて人間としての生き方に関わってくるのですが、ミッションというもの、自分の生きていく道徳があって初めて企業として、ヒトとして認められ、支持されるというものです。

しかし、誤解していただきたくないのは、ジャパネットがクレド経営をできているといっているのではなく、自分たちの課題として掲げているということです。未完成だからこそ、完成に向けて日々努力しなければならないということです。

完成というものは人生終わるまでありません。それは会社も同じ。常にそこに向かっていかなくてはならない。その姿がクレドに書かれているのだと思います。

会社栄えて、社員よし、地域よしの「三方よし」

「人は人のために生きてこそ人」、会社も同じです。近江商人の「三方よし」の精神です。「売り手(自分)よし・買い手(客)よし・世間(社会)よし」というのは言っていることは皆、同じですよね。

経営学ではCS(カスタマー・サティスファクション=顧客満足)、ES(エンプロイー・サティスファクション=従業員満足)が重要ですが、あまりESばかり言っていたら「我見」に陥ります。あくまで一番はお客さん、CSでしょうね。その結果として会社が栄えて、社員よし、地域よしとなっていくのではないでしょうか。

だから、商売でも「下請けいじめ」という言葉がありますが、一方的に取引先に安さを求めては続かないですよね。向こう(取引先)もそれなりに得をして、会社も得をする。そんな循環が経営には必要だと思います。

高田明(たかた・あきら)
1971年大阪経済大経卒。機械メーカーを経て、74年実家が経営するカメラ店に入社。86年にジャパネットたかたの前身の「たかた」を設立し社長。99年現社名に変更。2015年1月社長退任。16年1月テレビ通販番組のレギュラー出演を終える。長崎県出身。68歳

(シニア・エディター 木ノ内敏久)

前回掲載「『ムダ』や『遊び』も伝えるテクニック」では、「ムダ」や「遊び」と思える所作が持つ「伝える力」について語ってもらいました。

ジャパネットはなぜ家電量販店にならなかったのか? >>

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