マネー研究所

日経マネー 特集セレクト

退職時の4200万円、減らさず15年 シニアの運用術

日経マネー

2016/12/23

PIXTA

日経マネー

 「お金は墓場まで持っていけない」といわれるが、定年後は手持ちの資産をできるだけ減らしたくないものだ。北海道在住の近藤茂さん(仮名)は日本株を主体にした運用で、74歳になった現在も60歳の退職時点とほぼ変わらない資産を保つ老後を送ってきた。

 近藤さんの退職時点の金融資産は、預金の2700万円と日本株の1500万円を加えた4200万円。それから15年後の2016年11月初旬時点の金融資産は4090万円と、100万円ほどの減少にとどまっている。

 近藤さんの年金収入は300万円。これに加えて、毎年100万円の定期収入を確保してきた。その原資が投資の運用益だ。例えば13年春から16年11月初旬までの運用益は550万円。このうち300万円は家計に回し、80万円は今後の旅行費用に確保している。近藤さんはこの3年間で歯科治療や建物の改築で440万円をかけている。それでもこの間に資産が270万円しか減っていないのは、投資で稼ぎ続けてきたからだ。

 これまで運用益を多くもたらしてきたのが日本株と、そしてインド株とロシア株投信だ。定年退職後、リーマン・ショックや欧州信用危機、東日本大震災など相場の急落局面もありながら、近藤さんが運用資産を減らさずに乗り越えられたのは、緻密にお金を管理し慎重に運用してきたからだ。

 会社員時代に財務や経理の知識を積んできた近藤さんは、支出の科目別に分類した家計簿をつけている。さらに先々までの支出見通しでは、年金給付の減額や消費増税で家計の負担額がいくら増えるのかを綿密に計算している。

■下値不安が少ないかを見る

 運用では、変動リスクの大きい日本株や外貨建て株式投信の比率を、全体の半分程度に抑えている。71歳時点では全資産に占める日本株資産の比率は42%、外貨建て株式投信は7%と株式資産の比率を半分程度に抑えていた。74歳の現在は日本株比率を33%、外貨投信を2%と合計35%に減らす一方で、現預金の比率を71歳時点の28%から45%に増やした。

 日本株は下値不安の少なさを重視し、高配当株や株主優待銘柄などを主体にする。投資前には決算短信や会社のIR(投資家向け広報)資料を分析し、さらに『日経会社情報』などで過去からの業績推移を確認。配当を増やしていれば株主を大切にする企業と評価する。

 値上がり期待の取り引きも実践、16年には任天堂株で100万円の利益を上げている。「全員参加型の上げ相場に乗った」というが、新事業が成長に結びつくのかを独自に分析した上で参加している。

 近藤さんが日本株投資を始めたのは1960年代、20代の時からだ。90年代のバブル崩壊で小野薬品工業の1000株を残して、一旦手じまいし、取り崩した額は当時金利9%あった金融債で運用した。90年代後半、50代の時に日本株投資を700万円の元本で再開、退職後も続けてきた。

■短中期投資を選択

 「生涯生活に困らない富裕層なら長期投資一本でもいいかもしれないが、自分は違うので短期と中期を組み合わせる運用をしてきた」と近藤さん。定年後も任天堂株のように短期の売買にも取り組んでいるのはそのためだ。中期の運用では3年以内を目安にしており、現在は東レ(東1・3402)と日立ハイテクノロジーズ(東1・8036)が中期運用銘柄だ。

 定年後の投資で心掛けてきたことを近藤さんに尋ねると、「大きな利益をもくろまず、大きな損失を抱え込まないようにすること」という答えが返ってきた。これまで10~20%増で利益確定し、損切りは5~10%減で徹底してきたという。

 「マーケットから撤退しないことも重要」と近藤さん。局面によって持ち高を減らすことは欠かせないが、経験を積み重ねることで適切な決断ができるようになるという。定年当初、近藤さんは75歳で日本株投資をやめる計画でいた。しかし、当面は持ち高を500万円にして継続しようと考えている。

 2014年から持ち高の減少に着手してきたことで、15年以降のチャイナ・ショックなどの急落も痛手を被らずにいた。計画を立て、着実に実行することが近藤さんの投資の真骨頂といえる。

(日経マネー 真弓重孝)

[日経マネー2017年1月号の記事を再構成]

日経マネー 2017年2月号

著者 :日経マネー編集部
出版 : 日経BP社
価格 : 730円 (税込み)


マネー研究所新着記事