「忙しくてつらい」を解消 メモ1つだけで日々が充実
"もったいない"脱出の仕事術

コミュニケーションコーチの岩田ヘレンです。
この間、ある日本人女性がメールでこんな悩みを送ってきました。彼女は仕事上、英語でのプレゼンテーションや会議の進行をすることが多いので、スキルアップのための勉強がしたい。でもあまりにも忙しくて勉強する時間がとれないというのです。
同じようなことはたくさんあると思います。例えば、ジムに通えばリフレッシュしてハッピーになるし、体力がついて風邪もひきにくくなり、仕事にも集中できるようになります。だから毎年お正月に「今年こそはジムに通う」と目標を立てても、忙しくてじきに行かなくなってしまう、ということはよくありますね。
長期的には健康という大きな利益や、キャリアアップなどのチャンスにつながる可能性があるのに、目先の時間がとれなくて実行できない。とてももったいないことです。
あるいはあなたが働くお母さんで、週末に子どもと一緒にクッキーをつくりたいと考えていたのに、ほかのことで忙しくなってしまってできなかったとします。あなたは「子どもとの時間をつくれなかった」ことで自分を責めてしまうかもしれません。もしかしたら、仕事をしている最中は子どもに対して「できないこと」に罪悪感を覚え、子どもといるときは仕事について「できないこと」が気になり、どちらにも集中できていないかもしれません。それこそ本当にもったいない!ですね。
「自分自身とのコミュニケーション」に問題が
常に忙しすぎる。自分にとって有意義で大切なことがいつまでもできない。なぜそうなってしまうのでしょうか?
最大の原因は「自分自身とのコミュニケーションの仕方」に問題があることです。自分とのコミュニケーションは、他人とのコミュニケーション以上にとても重要です。よくあるケースを2つ挙げてみましょう。
まず、他人のニーズに対してはすぐ「Yes」と言うのに、自分のニーズは後回しにしてしまう。前回のコラムでお話ししたように、他人を喜ばせたいとか、よく思われたいという気持ちからくるものです。
前回紹介した『Essentialism』の著者Greg McKeownは「何かにYesと言うことは、その他のことに対してNoと言うことだ」とも言っています。仕事にYesを言うことは、子どもと過ごす時間や、ジムへ通って得られる健康に対してNoと言うことを自分で選択していることになるのです。
もう1つは、「完璧主義」と「頑張りすぎ」に支配されてしまっているケース。特にハイ・パフォーマーの女性ほど「もっともっとやらなくちゃ」「もっと結果を出さなくちゃ」と、自分自身に強いプレッシャーを与えてしまっている例がとても多いです。私自身にもその傾向がありますが、努力して少しずつ成長しています。そう、「頑張りすぎ」を脱するためには成長することが必要なんですよ。
「今日がすばらしい日になるため」1つだけ何をするか
それでは「忙しすぎてもったいない」状況をどうやって乗り越えたらいいのでしょうか。実際に私がずっと試してきて、効果絶大だった方法を紹介しましょう。
まず、メモができるものを用意します。そこに毎朝「今日がすばらしい日になるためにすること」を、1つだけ書きます。
英語でいうと「What would make today great.」。例えば「今日はジムに絶対行く」「今日は子どもたちとクッキーを作ります」「今日はプレゼンスキルの勉強を1時間やります」など。「これができたら満足、ハッピー」ということを何でもいいので1つだけです。ずっと見たかった映画があったら「今日はあの映画を見る」でもいいでしょう。
あるいは「しなくてはいけないのになかなかできず、ずっと気になっていること」でもかまいません。例えば、引っ越しをして3カ月もたつのに銀行口座の住所変更をしていなかったら「今日は銀行で住所変更をする」でもいいでしょう。それをすることで常にあった心理的負担が解消し、楽になります。
このように「満足が得られること」「もったいない状況を乗り越えるためのこと」を書いたら、その日のできるだけ早いうちにやります。日本語で"朝飯前"というように、朝ご飯の前にやってしまえるととても楽ですね。そしてその日の夜にもう1回メモを見て、できたかどうかチェックします。朝書いても、忙しくなると忘れてしまうこともありますから。
メモを書くときは特に「手で」書くことをおすすめします。キーボードを打ったり画面をタップするのに比べて、手で書くことは想像力を刺激し、記憶に残ります。これは学術的な裏付けもあります。私自身、仕事の管理をする際はオンラインのTo Do管理システムと手書きのメモを使い分け、特に重要なものについては手書きで管理をしています。
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飛行機に乗っていて、何かあると酸素マスクが下りてきますね。酸素マスクを装着するときの鉄則はまず自分自身につけること。子どもなど他人の装着を手伝うのはその後です。同じように、まず自分自身を助けないと他人を助けることはできません。自分自身が満足できる、あるいはハッピーになれる、ストレスを取り除けることを毎日1つ、最優先で実行すること。これは驚くほどの効果をもたらします。
もうすぐ12月、1年で最も忙しい時期に入ります。年が明けたらたぶん皆さんは新年の目標を立てると思いますが、本当は忙しいこれからの時期にこそ、今日お話ししたことを実行してみると、きっと大きな違いに気づくはずです。
1月まで待たずに、すぐ今日から。このコラムを読み終わったらすぐ、1つ書いてみて、やってみてくださいね。
※毎週金曜日の朝8時30分から、岩田ヘレンのFacebook Liveを配信中です。10分程度のトレーニングと質疑応答を生中継。FacebookからHelen Iwataで検索してください。

グローバル・コミュニケーション・コーチ。英国ヨークシャー出身、さすがコミュニケーションズ代表。ウイズ株式会社 アドバイザー。日本翻訳者協会理事長、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社コミュニケーション・マネージャーなどを経て2013年にさすがコミュニケーションズを設立。グローバル・ビジネスを想定した企業向けのコミュニケーション・スキル研修などを実施している。著書に『英語の仕事術:グローバル・ビジネスのコミュニケーション』(小学館)。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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