急げ!ふるさと納税 増える体験型、高額返礼品も続出
ふるさと納税の参加自治体が増えている。返礼品を掲載するポータルサイト最大手「ふるさとチョイス」で扱う返礼品数は9万点以上、サイトで寄付を申し込める自治体数は1100を超えた。「昨年度の寄付総額は約1653億円だったが、今年は3000億円を超える勢い」と、ポータルサイト「ふるぽ」を運営するJTB西日本が予想するほどの過熱ぶりだ。
2016年も残すところあと1カ月だが、今がふるさと納税が最も盛り上がる時期。会社員の年収が確定し、ふるさと納税で所得税と住民税の寄付金控除が受けられる限度額が判明するからだ。さらに、年内に寄付しないと今年の納税分からの控除が受けられない。
これらの理由から、ふるさと納税を行う人が11月以降に集中。ふるぽの昨年実績では、この2カ月の寄付額が年間の8割に及ぶ。その需要を当て込み、各自治体が肉や米、あるいはカニなどの返礼品を大量に放出する。つまり、寄付する側にとって、今からがふるさと納税をする最大のチャンスとなる。
高還元率の家電&金券が続出、狙い目は還元率70%の商品券
気になるのが、金券や高額返礼品の動向。商品券や高価な家電製品などを返礼品として扱わないよう、総務省が16年4月、全国の自治体に通知を出したからだ。とはいえ通知に強制力はない。今も山形県米沢市や長野県安曇野市がノートPC、岡山県備前市はロボット掃除機「ルンバ」を提供。還元率が70%にも達する千葉県勝浦市の商品券など、今も数多く出回っているのが実情。ソニー製55型4Kテレビを提供する神奈川県厚木市のように、主要なポータルサイトには載せず、市の特設サイト限定の高額返礼品も少なくない。下調べが重要だ。
◎神奈川県厚木市
今年10月にふるさと納税の返礼品を大幅リニューアルし、市内に事業所があるソニーとリコーのデジタル機器を大幅に強化した。4Kテレビやデジカメ、携帯音楽プレーヤーなどの人気機種がそろう。
◎千葉県勝浦市
1万円の寄付に対し、市内の店舗で使える7000円分の商品券を今年4月に提供開始。隣接する大多喜町が5月、同じく還元率70%の商品券を廃止したのとは対照的な動きだ。
◎愛知県東浦町
愛知県東浦町には国産高級家具「カリモク家具」の本社がある。寄付額50万円でカリモクの学習机セット、80万円で高級チェア、120万円でダイニングセットなど幅広く返礼品を用意。
魅力的な宿泊券が続々、注目は「箱根」と「高知」
16年になって各自治体が強化しているのが宿泊クーポンの提供。従来は特産品など「モノ」の返礼品が目立ったが、最近は実際に足を運んでもらう「体験型」へのシフトが目立つ。
熱心なのが神奈川県箱根町だ。15年5月の噴火騒動で客足が途絶えたこともあり、同町を応援したいと訪れる観光客が急増し、ふるさと納税の宿泊クーポンの利用が活発になった。15年度の寄付額が前年比100倍の5億4000万円に到達。16年度も4月から7カ月で約1億4000万円と好調。「今ではふるさと納税で箱根町に寄付する人の6~7割が宿泊クーポンなど観光関連の返礼品を選ぶ」(同町)という。
他の自治体も宿泊クーポン強化に乗り出している。注目は高知県芸西村。1万円の寄付で高知県全域で使える6000円分の宿泊クーポンを提供する。
宮崎市は寄付額10万~20万円で名門ゴルフ場のプレー券を提供し、申し込みが200件を超えた。
東京の"逆襲"、目玉は競馬やドローン
地方に住民税が"流出"したことに危機感を覚えた東京都の自治体が、ふるさと納税に力を入れ始めた点も新しい流れだ。
ふるさと納税で東京の自治体から地方に流出した住民税は、15年に約262億円にも及んだ。逆に東京への流入額は12億円にすぎず、差額の約250億円が地方に移った計算になる。この結果、今年は東京の自治体がドローンや競馬の特別観覧券といった目を引く返礼品を用意するなど、対抗策を打ち出し始めた。
◎東京都国立市
ドローン最大手DJIの「Phantom 4」(実勢価格16万円前後・税込み)を用意。市内に正規代理店のセキドがある。
◎東京都府中市
東京競馬場の観覧席ペアチケットを用意。大人気で、2016年内分は在庫切れ。年明けに新たなチケットを用意する。
文化事業など特定目的の寄付が急増
社会問題の解決や文化事業の支援など、目的を絞って寄付を募る「ガバメント・クラウド・ファンディング(GCF)」も16年は急速に広がっている。東京都墨田区は「すみだ北斎美術館」の新設・運営費、広島県神石高原町は犬殺処分ゼロのための活動に限定し、それぞれ約5億円、約4.6億円を集めた。
(ライター 高橋学)
[日経トレンディ2016年12月号の記事を再構成]
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