髪の毛の寄付「ヘアドネーション」 病気の子にかつら
美容室・NPO連携 男性も外国人も参加
「髪を切るだけで人の役に立てると知り、やってみたいと思った」。埼玉県に住む24歳の主婦A子さんは11月上旬、2年以上伸ばした髪を切り寄付をした。
きっかけは乳がんで闘病中のフリーアナウンサー、小林麻央さんのブログ。「髪の毛を寄付するヘアードネーション。抗がん剤を始める前に長い髪を切ったとき、思い立てばよかった」との書き込みを読んで決意した。
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A子さんが訪れたのは、インターネット検索で見つけたヘアドネーション賛同美容室「BREEN」(東京・渋谷)。毎月25~30人が髪の毛の寄付に訪れる。「20~30代の女性が多く、地方から来る人も少なくない」と経営者の橋本幸生さん。集まった髪の毛は毎月1回、ジャパン・ヘア・ドネーション・アンド・チャリティー(JHDAC、大阪市北区)に送る。
JHDACは、寄付された髪でウイッグを作り、病気で髪を失った18歳以下の子に無償で贈るNPO法人だ。事務局長で美容師の渡辺貴一さん(45)が店を開く際、「社会に貢献できる活動もしたい」と始めた。
無毛症や脱毛症、抗がん剤治療などで髪の毛を失った子ども用のウイッグは、十数万~30万円程度と高額。成長にあわせてつくり替えるため保護者の経済的な負担は大きい。
サイトで申し込みを受けると渡辺さんが子どもの頭囲などの採寸に行き、ウイッグ会社に発注する。1台に必要な髪は20~30人分。15万円ほどの製作費と諸経費は募金でまかなう。2009年の活動開始以来、124人に提供してきた。
著名人の発信などもあり、今年に入って1日100~150個の髪の毛入りの封筒が届くように。一方で、人手や資金の不足で製作が追いつかず、100人ほどがウイッグの順番待ち。「企業と提携するなどずっと活動を続けていけるような仕組みを考えている」と渡辺さんは話す。
髪を寄付する人の思いは様々だ。「日本に恩返ししたい」とネパールから来日中に髪を切ったのは、アンジャナ・ケーシーさん(28)。生まれつき骨が弱く歩行が困難で、自国の障害者の自立推進活動に取り組むアンジャナさん。日本企業によるアジアの障害者リーダー育成研修を受けるため12年に初来日した。日本の支援者との交流を深め、9月にはバリアフリーカフェを自国につくる事業のためのクラウドファンディングを日本で始めた。
目標の150万円を達成した11月5日、共に活動するスシラ・ブジェルさん(23)と東京都千代田区の美容院で長い髪を切った。「交流サイト(SNS)でヘアドネーションを知り、髪を伸ばしてきた。日本にお世話になったので、お返しできるのがうれしい」
東レ経営研究所(東京・千代田)の主任研究員、渥美由喜さん(48)は1年前からヘアドネーションのため髪を伸ばしている。仕事中は肩まで伸びた髪を後ろで結ぶ。講演や企業訪問も多いが「事情を説明して理解してもらっている」。
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きっかけは小1の次男の闘病経験だ。1歳半で大手術を受け1カ月半入院。小児病棟で小児がんと闘う子どもたちに出会った。
次男の退院後も、闘病中の子どものことを忘れてはいけないと思っていた。1年ほど前にJHDACの活動を知り、寄付を決意した。「髪を伸ばすことは、一人じゃないという子どもたちへのメッセージになる」。思いを周囲に伝えると、知人男性3人が髪を伸ばし始めた。「社会はこうして少しずつ変わっていくものだと思う」
ヘアドネーションの広がりについて「がんの子どもを守る会」(東京・台東)のソーシャルワーカー、石橋裕子さんは「人々が闘病中の子に思いを寄せてくれること自体に、大きな意味がある」と話す。
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31センチ以上必要 染めた毛もOK
ヘアドネーションをするには、切り落とした髪の長さが31センチ以上必要だ。ウイッグを作るのに必要な長さだという。ヘアカラーやパーマ、白髪でも、工場でトリートメント処理をするため問題はない。全国に1300店ほどある賛同美容室の中には、カットした髪を直接JHDACへ送ってくれるところもある。賛同美容室は増え続けているものの、まだ全国の美容室の1%にも満たない。
切った髪を個人で送る場合は、ゴムで束ね、封筒に入れる。ラップなどで包む過剰包装は、開封作業の負担になるので避けよう。ぬれた髪の毛はカビや雑菌が発生する危険があるので、完全に乾いた状態で送ることが重要だ。
髪の毛が寄付できない場合には、募金という貢献方法もある。振込先や賛同美容室の情報、髪の毛の送付先の詳細はJHDACのホームページ(http://www.jhdac.org/)で確認を。
(女性面編集長 佐藤珠希)
[日本経済新聞夕刊2016年11月21日付]
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