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シモーネ・ヤング 日本のオペラ団体を初指揮

2016/11/19

 世界的に注目を集めるオーストラリアの女性指揮者シモーネ・ヤングさんが来日し、東京交響楽団との交響曲のほか、東京二期会のオペラを指揮する。ヤングさんは欧州の主要オーケストラのほとんどと共演し、ブルックナーの交響曲CD全集を出すなどの実績を持つ実力派。1年のほとんどを演奏会のため世界各地で過ごす。指揮者の仕事の魅力について聞いた。

 10月終わり、新宿の稽古場でオペラのリハーサルにあたるヤングさんを訪ねた。日本のオペラ団体を指揮するのは今回が初めて。演出家はウィーン出身のカロリーネ・グルーバーさん。女性コンビでの公演だ。日本に到着したその日からリハーサルを始め「最初は歌手の皆さんも緊張していたが、私がかみつかないとわかってリラックスしてきた」と笑った。「若い歌手たちは自分の演技に満足せず、さらに良くしたいという気持ちが強いので一緒に仕事がしやすい」

東京二期会と東京交響楽団によるR・シュトラウスのオペラ「ナクソス島のアリアドネ」を指揮するシモーネ・ヤングさん(左)と演出家のカロリーネ・グルーバーさん(10月27日、東京都新宿区の芸能花伝舎での記者会見)=撮影 片山和雄

 今回の演目は、初演からちょうど100年を迎えたリヒャルト・シュトラウス作曲の「ナクソス島のアリアドネ」。悲劇のオペラとドタバタの喜劇が入り交じる華やかな舞台だが、ダンスの場面も多く、出演者は忙しい。この日のリハーサルでは歌い出しのタイミングから、振り付けのちょっとした手の位置まで細かい指示が飛び、力のこもった練習が続いた。

女性コンビでオペラを指揮・演出

 ヤングさんは女性指揮者として初めてウィーンフィルハーモニー管弦楽団を指揮したほか、2015年までハンブルク州立歌劇場総裁と同フィルハーモニー管弦楽団の音楽総監督を兼任した。男性が多くを占める指揮者の世界での活動に難しさはないのか。「その質問は何度となく受けるけれど、いつも答えに困ってしまう。指揮者はそれぞれとても個性的で、見かけはもちろん、指揮の仕方も全く違う。私もまた見かけが違うだけ」

東京二期会によるリヒャルト・シュトラウスのオペラ「ナクソス島のアリアドネ」公演の記者会見で答える指揮者のシモーネ・ヤングさん(10月27日、東京都新宿区の芸能花伝舎)=撮影 池田啓輔

 それでも、世の中の受け止め方が変わってきていると感じることはあるという。1994年にオペラの指揮で初来日した際も女性演出家と組んでの公演だったが、当時は記者会見で女性であることに関する質問ばかりだったそうだ。「今回の来日会見では、女性に関する質問は一つもなかった。演奏のよしあしに性別は関係ないという認識が広がってきたのだと思う」

 今回の来日ではオペラだけでなく、東京交響楽団との演奏会にものぞんだ。オペラとオーケストラの指揮には大きな違いがあるという。「オペラは音楽家に歌手や役者も加わる大所帯だ。才能あふれる歌手であればあるほど、神経質で気むずかしい人も多いので、全体を一つにまとめることに力を使う。一方、オーケストラはいわば指揮者の楽器。ピアノを弾くようにオーケストラという素晴らしい楽器を操る感覚だ」。東響とのリハーサルをのぞくと、ブラームスの「交響曲第4番」を演奏していた。「もっと柔らかい音を」「そんなに張りつめないで」。演奏を止めたり、楽器ごとに音のイメージを伝えたり、納得するまで同じ箇所を何度も繰り返していた。

「すてきな演奏」は最悪の反応

シモーネ・ヤング指揮東京交響楽団のブラームス「交響曲第4番」のリハーサル風景(11月1日、川崎市のミューザ川崎シンフォニーホール)=撮影 片山和雄

 「旅が嫌いな人には指揮者の仕事は務まらない」と話すヤングさん。ロンドンに夫と2人の娘と暮らす自宅を構えるが、去年そこで過ごしたのはたった48日。1年のほとんどは公演のため、海外に出かける。今回の来日もスウェーデンからの移動だ。「困るのが洋服、特に靴ね。服は何枚も重ね着をすれば温度調節ができるけど」と話すと、10月終わりなのに素足にサンダルの足元を指さした。「家族との時間が少ないのはとてもさみしいけれど、最近はインターネットでしょっちゅう顔を見ながら話ができる。私は家でじっとしていられないから、これくらいのワークライフバランスがちょうどいいみたい」と笑う。

 目指すのは観客を「考えさせる」演奏だ。「最悪なのは、『すてきな演奏だった』と言われること。もっと心をゆさぶり、魅了するような音を届けて、好きでも嫌いでも構わないから観客から強い反応を引き出したい」

 「芸術の世界では難しいことだけれど、完璧を目指したい。もちろん、完璧な演奏は決して実現しないから永遠の目標なのだけれど」と語るヤングさん。その言葉には、音楽への深い愛情と、決して妥協しない音楽家としての強い意志を感じた。

(映像報道部 槍田真希子)

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